第9話 店舗として自律稼働するエントランス

 翌朝。


 藤堂直人が第一室の奥にあるのぞき穴へ顔を寄せると、入口前の光景に思わず息を止めた。


「……本当に来た」


 数日前まで風に揺れる草しかなかった場所に、若い冒険者たちが集まっている。


 一人、二人ではない。


 入口から少し離れた場所に、八人もの人間が並んでいた。


《外部個体の接近を検知しました》


《接近人数:8名》


《攻略希望チーム:3組》


《前日予測入場者数:6~12名》


《予測範囲内です》


「予測、本当に当たるんだな」


 直人は管理画面と入口を交互に見た。


 二人組が一組。


 三人組が二組。


 いずれも、前日に再挑戦した《ひよこ隊》と同じような駆け出し冒険者だった。


 ただし、装備には明確な変化がある。


 前衛は全員、小ぶりな盾を持っていた。


 木板を重ねただけの物。


 革を張った丸盾。


 金属製ではあるが、鍋のふたと大差ないような安物。


 形も品質もばらばらだが、入口の矢を防ぐという目的だけは共通している。


 腰や胸元には、小さな薬瓶も下げられていた。


「盾に、解毒薬か」


 前日、武器屋のバルガスが言っていた。


 矢が一本なら、小盾でも防げる。


 毒床があるなら、解毒薬が売れる。


 町の冒険者たちは、《ひよこ隊》の情報を聞いただけではない。


 実際に装備を買い、準備を整えてきたのだ。


《周辺店舗動向》


《小盾販売数:前日比340%》


《低級解毒薬販売数:前日比280%》


《初心者向け回復薬販売数:前日比160%》


「俺が矢を一本にしただけで、町の売れ筋まで変わったのか」


 直人は感心しながら、入口前の会話へ耳を澄ませた。


「本当に一本だけなんだろうな?」


「《ひよこ隊》が嘘をつく理由はないだろ」


「最初の調査では五本だったんだぞ」


「数日の間に罠の数が変わるダンジョンなんて、聞いたことないけどな」


「だから確認しに来たんだろ。危なかったら、すぐ戻ればいい」


 誰も完全には信用していない。


 当然だった。


 数日前には十二人全員が敗走。


 前日には《ひよこ隊》が三人そろって宝を持ち帰った。


 一度の成功例だけで、危険な洞窟という印象が消えるわけではない。


 それでも、彼らは来た。


 宝箱から本当に品が出ること。


 盾があれば矢を防げること。


 毒床も耐えられること。


 その情報が、恐怖よりもわずかに大きな期待を作ったのだ。


「まずは、入ってもらえた」


 直人は管理画面を開き、現在の設定を確認した。


《入口矢トラップ》


《単射》


《威力:低》


《再発射間隔:15秒》


《稼働率:70%》


《毒床》


《出力:最低》


《稼働率:50%》


《回復の泉》


《利用可能》


《宝箱》


《生成品質:低級》


《生成カテゴリ:道具、食品》


《一日総還元価値上限:300G》


 前日に《ひよこ隊》が成功したときと、同じ設定だ。


 客が戻り始めたからといって、すぐに難易度を上げるつもりはない。


 まだ町内期待度は低迷している。


 ここで再び全員を敗走させれば、せっかく動き始めた評判が元へ戻ってしまう。


「今日は、このまま様子を見る」


 直人は罠を自動運転状態へ切り替えた。


《試験営業を開始します》


《罠設定を固定します》


《リアルタイム手動介入:緊急時のみ》


 これまでは、冒険者が一歩進むたびに管理画面へかじりついていた。


 だが、これから客が増えるなら、すべてを手動で見張るわけにはいかない。


 直人にはリナの世話がある。


 町との取引もある。


 回収装備の管理も必要だ。


 入口の営業だけで、一日中のぞき穴へ張りついているわけにはいかなかった。


「設定した範囲で、勝手に回ってくれればいいんだけどな」


 最初に動いたのは、二人組だった。


 剣を持った青年と、杖を持った少女。


 青年が小さな丸盾を前へ構え、少女がその背中に隠れるようにして入口へ近づく。


「先に俺たちが行く」


「二人で大丈夫か?」


「宝箱を開けて、すぐ戻るだけだ」


「矢が五本だったら?」


「そのときは走って逃げる!」


 勇ましいのか、無謀なのか分からない。


 二人は後ろの冒険者たちから見守られながら、洞窟へ足を踏み入れた。


《侵入者二名を検知しました》


《攻略行動の開始を確認します》


《第一組の営業処理を開始します》


 カチリ。


 青年が盾を上げる。


 一本の矢が飛び、木製の盾へ突き刺さった。


「本当に一本だ!」


「止まらないで。十五秒で次が来るって話よ!」


 二人は《ひよこ隊》から聞いた情報を忠実に守り、すぐに前へ進んだ。


 毒床の前では一度足を止める。


「ここだな」


「端を通れば薄いって言ってた」


 少女が杖で床をつつく。


 何も起きない。


 青年が慎重に片足を乗せた瞬間、薄い紫色の霧が立ち上がった。


《毒床が作動しました》


「来た!」


「慌てないで。薬を使うほどじゃない!」


 少女の判断は正しかった。


 最低出力の毒は、足を少し重くする程度だ。


 二人は走らず、互いを支えながら毒床を抜けた。


《毒床が有効作動しました》


《設備利用実績により、1DPを獲得しました》


《現在DP:325》


 第一室へ到達すると、青年が歓声を上げた。


「宝箱だ!」


「待って。周りを調べてから」


 《ひよこ隊》ほど時間はかからなかった。


 すでに一度、成功例がある。


 箱を開けても、必ず致命的な罠が作動するわけではないと知っているからだ。


 少女が周囲を確認し、青年がふたを開ける。


《宝箱が開封されました》


《開封者の魔力を消費します》


《低級品を生成します》


 淡い光が収まり、箱の中に現れたのは小さな麻袋だった。


「何だ、これ?」


 青年が麻袋を持ち上げる。


 中には、白い粒が入っていた。


「塩……?」


「ただの塩じゃない。魔力が少し含まれてる」


《生成品》


《微魔力塩:一袋》


《推定価値:28G》


 高価な品ではない。


 しかし、町で売れる物ではある。


「宝だ!」


「二十八Gくらいにはなるかも」


「十分だろ。今日は様子見だったんだから」


 二人は欲張らず、そのまま帰路についた。


 帰りの矢は稼働判定に外れ、発射されなかった。


 毒床も不作動。


 二人は一度も回復の泉を使わず、ほぼ無傷の状態で外へ出た。


《第一組の帰還を確認しました》


《入場者:2名》


《持ち帰り成功者:1名》


《外部還元価値:28G》


《攻略投入価値:推定110G》


「一人しか品を持ってないから、持ち帰り成功者も一人扱いか」


 同行者が同じチームでも、実際に戦利品の所有権を持った者だけが、持ち帰り成功者として計算されるらしい。


 外へ出た二人を見て、待っていた冒険者たちが一斉に取り囲んだ。


「どうだった?」


「矢は一本だけだ!」


「毒は?」


「出たけど、走れる程度だった」


「宝箱は?」


 青年が麻袋を掲げる。


「魔力入りの塩だ! 二十八Gくらいになる!」


 大当たりではない。


 それでも、外で待っていた者たちの顔が変わった。


 噂ではない。


 目の前で入った二人が、実際に品を持って戻ってきた。


「次、俺たちが行く」


 三人組が入口へ向かう。


《第二組の営業処理を開始します》


 今度の前衛は、少し大きな革張りの盾を持っていた。


 一発目の矢を防ぐ。


 毒床は不作動。


 第一室まで、ほとんど損耗なしで到達した。


「楽勝じゃないか」


 前衛が笑う。


 その気の緩みが、失敗を生んだ。


 三人は箱を開けたあと、すぐに帰ろうとしなかった。


 生成された低級回復薬を見て、部屋の奥へ続く暗い通路へ興味を向けたのだ。


「まだ先があるぞ」


「今日の目的は宝箱までだろ」


「ここまで簡単だったんだ。少しくらい見ていこうぜ」


「次の部屋は未調査だよ」


「入口の罠が弱いなら、奥も同じだろ」


 直人は眉を寄せた。


 第一室のさらに奥には、まだ設備を置いていない暗い通路がある。


 所有区画の端まで進めるが、その先は閉鎖されている。


 危険な罠はない。


 しかし、第一室へ戻るまでに、入口の矢が再発射可能になる。


「欲張ったか」


 三人が暗い通路を確認し、何もないと分かって戻ってきたとき、入口の矢は再び発射可能になっていた。


 しかも毒床も、今度は作動判定を引く。


 カチリ。


「また来るぞ!」


 前衛が盾を上げる。


 矢は防いだ。


 だが、後衛が毒床で足を止めた。


「薬を使う!」


 解毒薬のふたを開ける間に、十五秒が経過する。


 二発目の矢が飛ぶ。


 今度は前衛ではなく、後ろの魔法使いへ命中した。


「痛っ!」


「泉まで戻れ!」


 三人は入口脇の回復の泉へ走った。


 水へ傷ついた腕を浸すと、淡い光が広がる。


《回復の泉が利用されました》


《回復実績により、3DPを獲得しました》


《現在DP:330》


「泉も本当に使える!」


「助かった……」


 傷は治った。


 だが、持ち込んだ回復薬と解毒薬を一本ずつ消費している。


 宝箱から得た低級回復薬一つに対し、持ち込んだ薬を二つ使った。


《第二組の帰還を確認しました》


《入場者:3名》


《持ち帰り成功者:1名》


《外部還元価値:35G》


《攻略消費価値:62G》


《攻略収支:赤字》


 三人は敗走しなかった。


 装備も失っていない。


 しかし、金銭的には損をしている。


「生還したから成功、とは限らないのか」


 直人は管理画面を見つめた。


 本人たちには、宝箱を開けた達成感がある。


 泉も利用できた。


 次は欲張らずに帰ろうという教訓も得た。


 損失は出たが、再挑戦できないほどではない。


 完全な失敗ではなかった。


 最後の三人組は、二組の様子を見てから慎重に入った。


《第三組の営業処理を開始します》


 前衛が盾を構える。


 しかし、最初の矢は作動しなかった。


「今だ!」


 三人は一気に通路を進む。


 毒床も不作動。


 第一室まで、何の被害も受けずに到達した。


「今日は当たりだ!」


「罠が動かないこともあるのか?」


「急いで箱を開けよう」


 宝箱から生成されたのは、二枚の保存用焼き菓子だった。


《生成品》


《堅焼き蜂蜜菓子:2枚》


《推定価値:計24G》


 三人は一枚ずつ分けようとして、一枚足りないことに気づいた。


「二枚しかない」


「三人で来たのに?」


「半分に割ればいいだろ」


「持ち帰り成功者の判定はどうなるんだ?」


 直人も同じ疑問を抱いた。


 三人は一枚を二つに割り、それぞれが一部を持った。


《所有権分割を確認しました》


《持ち帰り対象者:3名》


「分ければ全員になるのか」


 三人は奥へ進まず、すぐに帰った。


 帰路では矢が一度作動したが、盾で防いだ。


 毒床は薄い霧を出したものの、誰も止まらなかった。


《第三組の帰還を確認しました》


《入場者:3名》


《持ち帰り成功者:3名》


《外部還元価値:24G》


 午前中の営業が終わった。


 入口前にいた冒険者は全員、町へ戻っていった。


 誰も敗走していない。


 装備を失った者もいない。


 直人は管理画面の集計を開いた。


《午前営業結果》


《入場者数:8名》


《攻略チーム数:3組》


《宝箱開封回数:3回》


《回復の泉利用回数:1回》


《罠有効作動回数:5回》


《敗走者数:0名》


《持ち帰り成功者数:5名》


《持ち帰り率:62.5%》


《外部還元価値:87G》


《攻略投入・消費価値:推定286G》


《価値還元率:30.4%》


《本日の獲得DP:14》


《回収G:0》


「持ち帰り率、六割超え……」


 直人が設定した目標は五パーセントだった。


 現在は、それを大きく上回っている。


 客が途絶えていたため、最初は甘くするつもりだった。


 それでも、六割以上が何かを持ち帰る状態は、長く続ければ配りすぎになるかもしれない。


《試験設定評価》


《町内期待度への効果:大》


《再挑戦意欲への効果:大》


《ダンジョン側DP収益:低》


《ダンジョン側G収益:なし》


《価値還元率:目標値を超過》


《現在の設定を継続した場合、宝箱目的の短時間攻略が主流となる可能性があります》


「入口を抜けて、箱だけ開けて帰るのが最適解になるってことか」


 そうなれば、客数は増える。


 だが、誰も敗走しないため回収品は出ない。


 ミミック売店もまだないので、G収入もない。


 罠と泉、宝箱によってDPは入るが、一人あたりの額は小さい。


 町の評判を戻すための特別営業としては成功。


 経営としては、まだ未完成だった。


「甘くすればいいわけじゃないな」


 全員を敗走させれば、客が消える。


 全員へ宝を持ち帰らせれば、今度は城側に利益が残らない。


 必要なのは、その中間だ。


 冒険者の一部が持ち帰る。


 一部は敗走する。


 一部は損をするが、もう一度挑める。


 誰もが、


「次は自分が当たりを引けるかもしれない」


 と思える状態。


「難しいな、店って」


 直人は苦笑しながら、営業設定の調整を始めた。


《入口矢トラップ》


《稼働率:70%から75%へ変更》


《毒床》


《稼働率:50%から60%へ変更》


《宝箱》


《同一時間帯の連続開封時、生成価値を段階的に低下》


《一日総還元価値上限:300Gを維持》


 大幅には変えない。


 噂を聞いて来た客を、急に強くした罠で全滅させれば、また信用を失う。


 ほんの少しだけ、箱までの難易度を上げる。


 直人が設定を保存したところで、奥からゴブリンの声がした。


「ギッ!」


「どうした?」


 一体のゴブリンが、リナを抱いて立っていた。


 リナは目を覚まし、入口の方へ小さな顔を向けている。


 冒険者たちの声や、矢が盾へ当たる音が気になったらしい。


「起きたのか」


「あー」


 リナが意味のない声を漏らす。


「今日は客が八人も来たぞ」


 直人が抱き上げると、リナは服をつかんだ。


「でも、今日のG収入はゼロだ」


「ギ?」


「いや、悪いって意味じゃない。今日は町へ信用を返したんだ」


 初日の営業では、十二人から一万Gを超える価値を奪った。


 今日は八人へ、八十七Gを返した。


 数字だけなら小さい。


 だが、その八十七Gが、次の冒険者を呼ぶ。


 町の武器屋では盾が売れた。


 薬屋では解毒薬が売れた。


 冒険者たちは戦利品を得た。


 ダンジョンは十四DPを得た。


 全員が少しずつ動き始めている。


《町内期待度を再評価します》


《町内期待度:低迷から回復傾向へ》


《再挑戦見込み:21.6%》


《新規来場見込み:上昇》


《翌日予想入場者数:12~20名》


「明日は、今日より多いのか」


 八人だけでも、入口はかなりにぎやかだった。


 二十人が一度に来れば、入口前で順番待ちが発生する。


 チーム同士が鉢合わせる可能性もある。


 罠の再発射間隔と、次の組が入る時機。


 泉を複数チームが同時に使う場合。


 宝箱の開封順。


 新しい問題が、一気に増える。


「受付が必要になるな」


 直人は入口を見た。


 今は、来たチームが勝手に順番を決めている。


 だが、客が増えれば横入りや混雑が起きる。


 設備は自動で動いても、客の流れまでは自動で整わない。


「店舗として回り始めた途端、次の仕事が出てくるのか」


 直人はため息をついた。


 だが、嫌なため息ではなかった。


 客がいないため何もできなかった頃とは違う。


 問題が起きるのは、人が来ている証拠だ。


     ◇


 午後になると、さらに二組が入口前まで来た。


 一組は時間が遅いため、翌朝の挑戦を選んで町へ戻った。


 もう一組は中へ入ったが、盾役が矢を防ぎ損ね、泉を利用したところで撤退した。


 宝箱へは到達していない。


 それでも敗走状態にはならず、自分たちの意思で帰っていった。


《本日の最終結果》


《入場者数:11名》


《攻略チーム数:4組》


《宝箱開封回数:3回》


《回復の泉利用回数:2回》


《罠有効作動回数:8回》


《敗走者数:0名》


《持ち帰り成功者数:5名》


《持ち帰り率:45.5%》


《価値還元率:21.8%》


《本日の獲得DP:19》


《回収G:0》


《町内期待度:回復傾向》


「最初の日とは、まるで逆だな」


 初日の営業では、十二人が入り、十二人全員が敗走した。


 大量のDPとGを得た代わりに、翌日から客が消えた。


 今日は十一人が入り、誰一人敗走していない。


 獲得したDPは少ない。


 G収入もゼロ。


 だが、明日はさらに多くの客が来ると予測されている。


 一日で得た利益だけを見れば、初日の圧勝だった。


 次の日以降まで含めれば、今日の方がはるかに価値がある。


「客が帰ってくる営業か」


 直人は入口へ目を向けた。


 草地には、冒険者たちの足跡が残っている。


 来て。


 挑戦して。


 何かを持ち帰り。


 あるいは、自分で撤退する。


 その足跡は、町とダンジョンを何度も往復していた。


 罠だけなら、自動で動く。


 泉も、傷ついた者が使えば勝手に回復する。


 宝箱も、条件を満たした者が開ければ品を生成する。


 しかし、客が増えれば、それだけでは足りない。


 順番を整える者。


 入口の状態を知らせる者。


 泉の利用者を案内する者。


 撤退する者と、次に入る者が衝突しないよう調整する者。


 必要なのは、さらに強い罠ではなかった。


「案内係か」


 直人は、三体のゴブリンへ目を向けた。


 一体はリナの毛布を整えている。


 一体は倉庫で装備を分類している。


 もう一体は、入口へ残された矢を回収していた。


 今は全員、回収係として召喚されたゴブリンだ。


 だが、すでに回収だけではない仕事をしている。


 清掃。


 育児の補助。


 設備確認。


 入口の見張り。


「役割を決めれば、もっと仕事を任せられるかもしれない」


《所属個体の職務設定を開きます》


《回収係ゴブリン:3体》


《現在の登録職務》


《回収》


《運搬》


《仕分け》


《清掃》


《追加可能な簡易職務》


《入口監視》


《順番案内》


《設備異常報告》


《利用者への定型案内》


「定型案内までできるのか」


 言葉を自由に話せるわけではない。


 だが、決められた内容を身振りや札で伝える程度なら可能らしい。


 直人は一体へ、新しい役割を設定した。


《回収係ゴブリン一体へ簡易職務を追加します》


《入口監視》


《順番案内》


《設備異常報告》


《利用者への定型案内》


《登録完了》


 対象になったゴブリンの頭上へ、小さな光が浮かんだ。


「ギッ?」


「明日から、お前は入口係だ」


「ギ?」


「客が来たら、順番に並ばせる。前の組が戻るまで、次を入れない。泉を使っている者がいたら、通路を空けさせる」


 直人は木の板へ、簡単な記号を描いた。


 待機。


 進入。


 撤退者あり。


 設備停止。


「言葉で説明できなくても、これを見せれば分かるだろ」


「ギッ!」


 ゴブリンは板を受け取り、嬉しそうに胸へ抱えた。


 回収する物がなければ仕事がない。


 そう思っていたゴブリンに、新しい役割が生まれた。


「明日からは、俺がずっと見張らなくても入口を回せるかもしれない」


 直人はリナを抱いたまま、入口の先を眺めた。


 客が一人も来なかった城へ、人が戻った。


 罠と泉と宝箱は、設定した範囲で動き始めた。


 そして、ゴブリンが入口へ立つ。


 まだ店もない。


 受付台もない。


 料金を取る仕組みもない。


 それでも、この小さな洞窟の入口は。


 侵入者を待ち受けるだけの罠から。


 挑戦者を迎え、順番に送り出すためのエントランスへ変わり始めていた。

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