第10話 店舗拡大と、ゴブリン鑑定班の誕生
翌朝。
藤堂直人が第一室の奥にあるのぞき穴から外を見た瞬間、思わず顔を引いた。
「……増えすぎだろ」
昨日まで、入口前に人がいるだけで喜んでいた。
だが今朝は、喜ぶより先に混雑を心配するほどの人数が集まっている。
《外部個体の接近を検知しました》
《接近人数:19名》
《攻略希望チーム:6組》
《前日予測入場者数:12~20名》
《予測範囲内です》
「予測は当たったけど、十九人はほとんど上限じゃないか」
草地には、六つのチームが思い思いの場所に固まっていた。
二人組。
三人組。
五人で押しかけてきた集団もいる。
全員が新人か、それに近い若い冒険者だ。
装備には昨日以上に分かりやすい変化があった。
前衛は小盾。
後衛は解毒薬。
何人かは、矢を防ぐためなのか鍋のふたまで腕へ括りつけている。
町の武器屋と薬屋が、朝からかなり潤ったことは想像に難くない。
《周辺店舗動向》
《小盾需要:急上昇》
《低級解毒薬:品薄》
《携帯回復薬:需要上昇》
《中古防具:需要上昇》
「俺の罠に入る前から、もう町で金を使ってるんだな」
ダンジョンへ挑戦するため、盾を買う。
薬を買う。
傷つけば治療費も必要になる。
宿で作戦を立て、酒場で情報を買う者もいるだろう。
直人の手元へ直接入るGではない。
それでも、ダンジョンを中心に町の金が動いている。
「ここまでは狙いどおり……なんだけど」
入口前では、別の問題が起きていた。
「俺たちが先だ!」
「何言ってる。夜明け前に来たのはこっちだぞ!」
「三組目が当たりなんだろ? だったら三番目は俺たちが取る!」
「昨日、三組目だった奴は罠がほとんど動かなかったらしい!」
「女性が盾役なら毒床が止まるって話もあるぞ!」
「誰がそんなこと言ったんだよ!」
誰が最初に入るか。
どの順番が最も有利か。
冒険者たちは、まだ存在しない攻略法を巡って言い争っていた。
しかも、入口は狭い。
二つのチームが同時に入ろうとすれば、通路の中で詰まる。
罠の再発射時間も、宝箱の生成処理も、基本的には一組ずつ入ることを前提にしている。
「このまま入れたら、罠より先に客同士で潰し合うぞ」
昨日は、来た者たちが自然に順番を決めてくれた。
今日は人数が多すぎる。
順番を管理する者もいなければ、待つ場所すらない。
直人は管理画面を開いた。
《エントランス設備》
《簡易案内板》
《必要DP:30》
《待機区画》
《必要DP:80》
《整列レーン》
《必要DP:150》
《簡易受付台》
《必要DP:200》
《入場時間管理機能》
《必要DP:120》
「いきなり受付台まで作るのは重いな」
現在の資産を確認する。
《現在DP:410》
《所持G:1,180》
《未換金装備:12名分》
DPには多少の余裕がある。
だが、すべてを入口設備へ使えば、罠や宝箱の改良ができなくなる。
リナの食料や町での買い物には、別にGも必要だ。
「まずは列だけでいい」
直人は《整列レーン》を選択した。
《整列レーンを設置します》
《150DPを消費しました》
《現在DP:260》
洞窟の外から、木材が擦れ合うような音が聞こえた。
草地の一部が淡く光る。
次の瞬間、地面から低い木柵がせり上がった。
柵は何度も折り返しながら入口へ続き、一組ずつ並べる細長い通路を作っていく。
最後尾には、小さな立て札まで現れた。
《攻略希望者はこちらへお並びください》
「うわっ!」
「何か出てきたぞ!」
「罠か!?」
冒険者たちが一斉に後ずさる。
何人かは盾を構えた。
だが、木柵は動かない。
矢も飛ばない。
立て札を読んだ一人が、恐る恐る口を開いた。
「……並べってことじゃないか?」
「ダンジョンが?」
「昨日も、営業終了の札が出てたらしいぞ」
「客の順番まで管理するのかよ」
「親切なんだか怖いんだか分からんな」
最初は警戒していた冒険者たちも、やがて列へ入り始めた。
誰が何番目かが、これではっきりする。
三組目を狙っていた者は不満そうだったが、先頭から来訪順に並ばされると、さすがに力ずくで追い越すことはできなかった。
《整列レーンが稼働しました》
《待機チーム:6組》
《混雑率:正常》
《割り込み行動:抑制》
《同時入場危険:低下》
「これだけで、だいぶ店らしくなったな」
問題は、列を作っただけでは完全に解決しないことだった。
前のチームがまだ第一室にいるのに、次のチームが入れば、結局中で重なる。
直人は《入場時間管理機能》も開いた。
《入場時間管理機能》
《前チームの第一室退出を確認後、次チームへ入場許可を表示します》
《必要DP:120》
「これも必要だな」
《120DPを消費しました》
《現在DP:140》
整列レーンの先頭に、小さな灯りが現れた。
赤い光と、青い光。
《赤:待機》
《青:入場可能》
「信号機か」
冒険者たちは、また新しく現れた装置を囲んだ。
「赤の間は入るなってことか?」
「青くなったら行けばいいんだろ」
「分かりやすいじゃないか」
「最近のダンジョンって、こんなに親切なのか?」
「他のダンジョンに行ったことあるのか?」
「ない」
「じゃあ分からないだろ」
初めて来た者ばかりなので、比較対象もないらしい。
彼らは勝手に、
「ダンジョンとはこういうものなのだ」
と納得し始めた。
「人間って、目の前に仕組みがあれば案外順応するんだな」
入口の流れは整った。
次は、城の中の仕事だった。
直人が振り返ると、三体のゴブリンが入口近くに並んでいる。
昨日まで、彼らは営業後の清掃や矢の回収、倉庫整理を自分たちで分担していた。
だが、十九人もの客が来れば、それだけでは足りない。
敗走者が出れば、武器や防具を回収しなければならない。
泉の周辺は汚れる。
宝箱の点検も必要。
町へ持っていく中古品の整備も進めたい。
三体全員が、その時々で目についた作業へ走っていたのでは、いずれ仕事が滞る。
「お前たち、今日から担当を決めるぞ」
「ギ?」
三体が首をかしげる。
直人は一体目を指した。
「お前は入口担当だ」
「ギッ?」
「客が列から出ないか確認する。青い灯りになる前に入ろうとした奴がいたら止める。営業が終わったら、入口の札を替える」
ゴブリンは自分の胸を指した。
「そう。お前だ」
「ギッ!」
勢いよく胸を張る。
直人が倉庫から拾ってきた細い木の棒を渡すと、ゴブリンはそれを両手で受け取った。
「武器じゃないぞ。案内用だ」
「ギギッ!」
理解したのかどうかは怪しい。
それでもゴブリンは棒を掲げ、整列レーンの横へ走っていった。
当然、外から姿が見えれば冒険者たちは驚く。
「ゴブリンだ!」
「敵か!?」
何人かが武器へ手を伸ばした。
案内係のゴブリンは慌てて首を横に振り、木の棒で立て札と列を交互に指した。
「……並べって言ってるのか?」
「受付係か?」
「ゴブリンが?」
「武器も持ってないぞ」
ゴブリンは冒険者の数を数えるように一人ずつ指し、列から半歩出ていた者へ、戻れと手招きする。
「そこ、はみ出してるってさ」
「俺かよ」
指摘された冒険者が、しぶしぶ列へ戻る。
「本当に案内係だ」
「変なダンジョンだな」
襲われないと分かると、彼らも剣から手を離した。
案内係のゴブリンは満足そうにうなずき、木の棒を肩へ担いだ。
「意外といけそうだな」
直人は残る二体を倉庫へ連れていった。
倉庫には、初日に回収した装備がまだ大量に残っている。
剣。
弓。
杖。
盾。
革鎧。
道具袋。
種類ごとには分けられているが、状態や価値までは整理されていない。
「お前たち二体は、今日から整備と鑑定を担当する」
「ギ?」
「ギギ?」
「まず、品物をきれいにする。泥を落とす。錆を取る。壊れている場所を見つける。それから、どのくらいの価値があるかを分類する」
直人は床に四枚の札を置いた。
《そのまま使用可能》
《修理すれば使用可能》
《素材として再利用》
《廃棄》
「この四つに分けてくれ」
二体は札を見比べた。
文字を読めるのか不安だったが、管理画面が所属個体向けに意味を補助しているらしい。
一体が錆びた剣を持ち上げる。
刃を確認し、柄を揺らし、耳を近づける。
それから《修理すれば使用可能》の場所へ置いた。
「分かるのか?」
「ギッ」
次に、穴の開いた革袋を持ち上げる。
穴へ指を入れ、何度か首をひねったあと、《素材として再利用》へ。
「ちゃんと見てるな」
ゴブリンたちは、これまで何度も冒険者の装備を回収してきた。
短期間とはいえ、剣や防具へ触れる機会は多い。
直人よりも、装備の傷み方を理解している可能性がある。
《基本作業個体の行動履歴を解析します》
《個体A》
《回収経験:高》
《仕分け経験:中》
《金属製品識別:習得中》
《個体B》
《清掃経験:高》
《装備状態識別:習得中》
《革製品整備:適性あり》
「経験で適性が伸びるのか」
召喚時には、三体とも同じ《回収係ゴブリン》だった。
だが、担当させた仕事によって能力が分かれ始めている。
《専門作業班を編成できます》
《案内・整理担当》
《鑑定・整備担当》
《回収・清掃担当》
「二体とも鑑定班にすると、営業中の回収ができないな」
直人は少し考えた。
現在の罠設定は、まだ甘い。
昨日も敗走者はゼロだった。
今日も大量の回収品が出る可能性は低い。
それなら午前中は二体で鑑定と整備。
敗走者が出たときだけ、一体が回収へ向かえばいい。
《臨時編成》
《入口案内係:1体》
《鑑定・整備班:2体》
《敗走発生時、鑑定・整備班から1体を回収へ移行》
《編成を登録しました》
淡い光が三体のゴブリンを包んだ。
《作業経験に基づき、役割名称を更新します》
《ゴブリン案内係》
《ゴブリン鑑定員》
《ゴブリン整備員》
「名前まで変わった」
鑑定員には、小さな片眼鏡のような道具が与えられた。
整備員の腰には、布、油、細い工具が入った革袋が下がっている。
どちらも戦闘には何の役にも立たない。
だが、倉庫作業には便利そうだった。
「まずは、明日バルガスへ持っていく三点を選んでくれ」
「ギッ!」
「一度に大量へ流すと町の市場が崩れる。状態がよくて、売っても問題の少ない物を三つだ」
二体は真剣な顔で装備の山へ向かった。
一方、入口では最初のチームの入場が始まっていた。
《営業開始》
《第一チームの入場を許可します》
灯りが赤から青へ変わる。
案内係のゴブリンが、木の棒で入口を指した。
「俺たちの番だ!」
先頭の三人組が入る。
次のチームは、柵の中で待つ。
以前のように後ろから押し込む者はいない。
《第一チーム》
《入場者:3名》
《第二チーム:待機》
《予想処理時間:6分》
「チームごとの処理時間まで出るのか」
カチリ。
矢が一本飛ぶ。
前衛が盾で防ぐ。
毒床は作動したが、持ち込んだ解毒薬を使わずに突破した。
泉で矢を受けた腕だけを回復し、第一室へ進む。
《入口矢トラップ利用実績:1DP》
《回復の泉利用実績:2DP》
《現在DP:143》
宝箱から出たのは、小さな魔石一つだった。
チームは欲張らずに帰還する。
《第一チーム退出を確認しました》
《持ち帰り成功者:1名》
《外部還元価値:31G》
入口の灯りが再び青くなる。
案内係のゴブリンが二組目を呼ぶ。
「次だってよ」
「本当に店みたいだな」
「待たされるけど、前の連中と重ならないなら安心だ」
列は少しずつ進んだ。
矢が飛ぶ。
盾が受ける。
泉が光る。
宝箱が開く。
誰かは戦利品を持ち帰り、誰かは途中で撤退する。
四組目では、毒床で慌てた後衛が転び、矢を二度受けた。
前衛が泉まで引き返そうとしたが、再発射の間隔を読み違える。
《侵入者一名の生命力がゼロに到達しました》
《敗走状態へ移行します》
その日、初めての敗走者が出た。
杖。
ローブ。
道具袋。
解毒薬。
財布。
最低限の衣服以外が、通路へ落ちる。
「一人出たか」
直人は緊急回収の指示を出した。
倉庫にいた鑑定員が台車を押し、通路へ走る。
毒床を平然と横切り、矢の発射口の前で落下物を拾う。
敗走者が出口へ戻ったあと、残る仲間二人も攻略を中止した。
《第四チーム退出を確認しました》
《敗走者:1名》
《自主撤退者:2名》
《回収現金:42G》
《未換金装備:4点》
案内係は、敗走者が外へ出るまで次のチームを待たせていた。
出口から最低限の衣服になった魔法使いが現れると、列にいた冒険者たちがざわめく。
「やっぱり負ける奴はいるんだな」
「でも、三人のうち一人だけだ」
「さっきのチームは宝を持ち帰ったぞ」
「対策すれば行ける。でも、油断すると敗走するってことか」
全員が勝つわけではない。
だが、全員が敗走するわけでもない。
成功者と失敗者が、同じ列から生まれている。
直人が作りたかった状態へ、少しずつ近づいていた。
夕方までに、六組すべての攻略が終わった。
《本日の営業結果》
《入場者数:19名》
《攻略チーム数:6組》
《宝箱開封回数:4回》
《回復の泉利用回数:7回》
《罠有効作動回数:16回》
《敗走者数:3名》
《自主撤退者数:5名》
《持ち帰り成功者数:7名》
《持ち帰り率:36.8%》
《外部還元価値:146G》
《攻略投入・消費価値:推定820G》
《価値還元率:17.8%》
《本日の獲得DP:71》
《回収現金:126G》
《未換金装備:11点》
《町内期待度:回復傾向》
《再挑戦見込み:48.2%》
「昨日より厳しくなったけど、客足は落ちてない」
全員生還ではない。
持ち帰り率も、昨日の四十五パーセントから少し下がった。
それでも、三分の一以上は何かを持ち帰っている。
敗走した者の仲間も、自主撤退で装備を守った者がいる。
十分に再挑戦できる範囲だ。
「今のところ、ちょうどいいのかもしれないな」
営業終了を選ぶ。
《本日の攻略受付を終了します》
入口の灯りが消え、案内係のゴブリンが木札を裏返した。
《本日の営業は終了しました》
列に残っていた数人が、翌朝の再挑戦を話しながら町へ戻っていく。
案内係は木の棒を脇へ抱え、胸を張って帰ってきた。
「お疲れ」
「ギッ!」
「割り込みは?」
ゴブリンは指を二本立てた。
「二件あったのか」
「ギギッ」
「止められた?」
大きくうなずく。
「優秀だな」
直人が頭を撫でると、案内係は得意そうに耳を揺らした。
倉庫へ入ると、鑑定員と整備員も作業を終えていた。
三つの品が、布の上へきれいに並べられている。
一振りの短剣。
一組の革製籠手。
金具のしっかりした道具袋。
短剣は錆が落とされ、刃が研ぎ直されている。
籠手には油が塗られ、革のひび割れも目立たなくなっていた。
道具袋のほつれは、別の革材を使って補修されている。
《販売候補品》
《中古短剣》
《状態:良好》
《推定買い取り価格:45~60G》
《中古革籠手》
《状態:良好》
《推定買い取り価格:30~42G》
《中古道具袋》
《状態:使用可能》
《推定買い取り価格:18~25G》
「値段まで出せるようになったのか?」
鑑定員が片眼鏡を持ち上げる。
《鑑定精度:低》
《町内取引を経験することで向上します》
「最初から正確じゃないんだな」
だが、十分だった。
明日、バルガスの査定額と比較すれば、鑑定員も相場を学ぶだろう。
町での取引経験が増えれば、
* どの装備が売れやすいか
* どの程度直せば価値が上がるか
* どれを素材へ回すべきか
まで判断できるようになるかもしれない。
「回収するだけじゃなく、商品にできるようになった」
初日、床に散らばった装備を運ばせるためだけに召喚したゴブリンたち。
今では、
* 客を整列させる案内係
* 品物の価値を調べる鑑定員
* 中古品を修理する整備員
へ成長している。
魔物を強くする方法は、戦闘だけではないらしい。
仕事を与え、経験を積ませれば、城を動かす専門職になっていく。
奥の寝床から、リナの声が聞こえた。
「ぁー……」
「起きたか」
直人が近づくと、リナは毛布の上で手足を動かしていた。
以前より、少しだけ声に力がある。
「今日は十九人も来たぞ」
「ぁぅ」
「三人は負けたけど、七人は宝を持って帰った」
意味など分からないはずだ。
それでも、直人は毎日の営業報告をするように話しかけた。
「それから、ゴブリンたちに正式な担当ができた」
案内係が木の棒を掲げる。
鑑定員は片眼鏡。
整備員は工具袋。
三体がリナの前へ並び、それぞれ得意そうに胸を張った。
「ぎっ」
「ぎぎっ」
「ぎぃ!」
リナは三体を見上げ、初めて少しだけ口元を緩めた。
「今、笑ったか?」
「ぁ」
偶然かもしれない。
だが、ゴブリンたちは大騒ぎだった。
三体そろって飛び跳ね、誰が笑わせたのかを主張するように自分を指している。
「静かにしろ。驚くだろ」
直人は笑いながら、リナを抱き上げた。
入口では冒険者が順番を待ち。
罠と泉と宝箱が自動で動き。
営業後にはゴブリンが設備を清掃する。
回収された品は鑑定され、整備され、町で売る商品になる。
少し前まで、すべてを直人一人が監視しなければならなかった。
今は、設備と魔物がそれぞれの役割を持ち始めている。
《ダンジョン運営評価》
《エントランス自動化率:42%》
《作業分業率:67%》
《設備稼働安定度:良好》
《未処理業務》
《商品販売》
《消耗品仕入れ》
《待機客対応》
《攻略情報管理》
「まだ半分も自動化できてないのか」
仕事は、客が増えるほど増えていく。
だが、直人一人ですべてを背負う必要もない。
魔物に役割を与えればいい。
施設を整え、任せられる仕事を増やせばいい。
直人は、明日バルガスへ持っていく三点の中古品を袋へ入れた。
その横には、今日回収した新しい装備が積まれている。
「こっちは来歴を調べてからだな」
元の持ち主。
回収日。
状態。
町へ出す時期。
同じ種類を一度に売りすぎないための在庫管理。
新しい作業が次々と浮かぶ。
「店舗が大きくなるって、部屋を広げるだけじゃないんだな」
客が増える。
仕事が増える。
役割が生まれる。
スタッフが育つ。
それらすべてが、城の拡大だった。
直人は管理画面に、新しい班を正式登録した。
《所属組織》
《エントランス案内係:1名》
《装備鑑定・整備班:2名》
《班名称を設定してください》
「ゴブリン鑑定班でいいか」
「ギッ!」
「ギギッ!」
当人たちは気に入ったらしい。
《ゴブリン鑑定班を登録しました》
《鑑定・整備経験の共有を開始します》
《将来的な新人教育が可能になります》
「新人教育?」
今は三体しかいない。
だが、客がさらに増えれば、ゴブリンも追加で召喚することになるだろう。
そのとき、最初の三体が新人へ仕事を教える。
そうなれば、直人が一から説明しなくても、組織が自分たちで人を育て始める。
「魔物の職場まで作ってるのか、俺は」
魔王軍という響きからは、ずいぶん遠い。
だが、戦うだけの魔物より、今の直人にはずっと頼もしかった。
その日の夜。
冒険者の町では、新しい噂が流れていた。
「あのダンジョン、入口に列ができてたぞ」
「ゴブリンが順番を整理してるって本当か?」
「襲ってこないのか?」
「列を抜かした奴だけ、棒で戻されてた」
「宝箱は?」
「今日は六組中、四組が開けたらしい」
「敗走者も出たんだろ?」
「三人だけだ。全員じゃない」
「なら、明日は俺たちも行くか」
そして武器屋バルガスの店先には、小盾が昨日より多く並べられていた。
藤堂直人の小さな魔王城は。
ただ冒険者を迎え入れる洞窟から、客の流れと商品の流れを管理する店舗へ。
そして、魔物たち自身が役割を学び、働き始める一つの組織へと。
少しずつ、その姿を変え始めていた。
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