渾身の謝罪回?

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★伯爵家当主ジェシー・ウエスト、それなりに謝罪する?

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 私――ジェシー・ウエストの朝は早い。


 今日も起きるなりバスルームに直行し、完璧な温度で用意されたお湯と石鹸で顔を洗い、うがいをし、歯磨きをし、髭を剃り、渡されたフカフカのタオルで顔を拭き、爪を磨き、バラ水を塗りたくり、日替わり健康ジュースをコップ一杯飲んで一息ついた。


 プハ~。


 今日はビーツとレモンとバジルのジュースだ。

 味は……まあまあかな?

 攻撃力と防御力がほんのちょっと上がった気はする。


 次いで寝間着を無造作に脱ぐと、ナットがこれまた完璧に揃えた服を順番に袖を通し、自慢のカーリーヘアーを整え、姿見で全身をチェックした。


「完璧でございます、旦那様」

「うん……」


 そして、胃に負担がかからない程度の朝食が用意されている、窓際のモーニングテーブルに着いた。


「本日の新聞でございます。早朝オリエンス侯爵家から連絡がありまして、レディー・イーストがお会いしたいとのことです」

「……しばらく巡礼の旅へ行くと返事してくれ(宗教家になったので結婚できないことにしてほしい)」

「かしこまりました」


 朝食後、執事に何紙かの新聞を渡された。いつもなら隅々まで読むところだが、今朝は一文字も頭に届かない。なぜなら、これからアイラ嬢がいるというギーズ家へ向かうからだ。


(ランベール・ギーズが気に食わない奴だとしても、今はアイラ嬢のパトロン。冷静にならなければ……)


 私は節度のある礼装をし、万人受けするコロンを一振りし、完璧な従者に仕立て上げたナットを伴って出陣した。





「ようこそギーズ邸へ、伯爵様」


 屋敷林に囲まれた、南国ホリデーフラット風の屋敷――この国の貴族が住む邸宅ではない。


「……サウス家のご令嬢はどちらに?」

「今は客人としてギーズ屋敷に滞在しております」


 執事に案内され、私はエントランスに入った。





 現れたのは、忌々(いまいま)しいギーズ卿と――うしろにくっついているちまちました――あれは何だ? 愛玩動物?


「sine、kuzu!」


 ペチリ!


 は? もしかして私の天使――アイラ嬢?


 呪文とともにいきなり現れた天使から顎を叩かれた!


「おや、随分と可愛いお出迎えですね、アイラ・サウス嬢?」


 伯爵家当主の顎を叩くとは何事ぞと、私は彼女の両腕を持ち上げた。


 ぷららら〜ん。


「な、何を、するんです! この、クズ……!」


 くっ、舌っ足らずな声とブラブラの足が……か、可愛いぞ……この愛玩動物……いや、私の天使!


「アイラ嬢、お相手は伯爵様なのですよ、わきまえましょう。叩いても何の益もありませんから。伯爵様も、貴族令嬢を吊るし上げるなど、冗談では済まされませんよ」


「「……」」


 おかしな出会いになってしまった。





 サラサラの茶髪をオールバックにした、芸術家気取りの男――コイツがあのくだらない『セカオピ』を牛耳っているのだ、気に入らない。

 それにしても、なぜこの男が彼女のパトロンを?

 サウス家は何をしているのか?

 彼女とコイツとの関係とは?


 疑問は尽きない。


 改めてアイラ嬢を見る。

 ティールームのときとは異なる、ラベンダー色をしたエンパイアドレスの、令嬢然とした姿。こぼれ落ちそうに見開かれた不思議な目はやはり何も見ていないようだった。


(あぁ、良かった……平民になってしまったわけではなかった……)


 儚げではあるが、内面の強さが滲み出ている。しかも『特殊技(?)』という謎の技能を持っているという。芯の強い姿が本当の彼女なのだろう。


 私の心の中に、失われた一年間が重くのしかかる。十六歳という彼女の貴重な時間を無駄にしてしまった……私の罪は重い。


「本日は先の契約について、伯爵様の説明を聞くつもりです。アイラ、こちらへ来なさい」

「はい、ランベール様」

「ようやくお会いすることができて光栄です、アイラ嬢。ご挨拶が遅くなり大変申し訳有りません、ヴェストル伯爵家当主のジェシー・ウエストです」

 ブーケでアレンジしたバラの花束を渡し、私は最上のボウ・アンド・スクレープをした。


 彼女が一瞬固まった。


「はじめまして、伯爵様。サウス男爵家のアイラですわ」

 貴族令嬢らしくない、あざと可愛らしい挨拶。


 私は一瞬固まった。


 応接間のソファに座ったら、後ろに用心棒らしきコワモテ丸眼鏡男がいる。


(用心棒を後ろに張り付かせるとは、ギーズ卿は怪しい)


 私はさっそく二人に、先の契約について説明をした。


「詳しい説明もなく契約を押し付けてしまい、申し訳ありません。仕事の関係で一年間国外にいたのです」

「はい、そのことは存じています」

「この場を借りて心からの謝罪をしたい。執事からの話では、あなたに対して使用人が失礼な態度をとっていたと聞いている。丁重にもてなしてくれと言っておいたのだが……」

「……心からの謝罪とは、一年間わたしの貴重な時間を買い、その上、粗末な扱いをしたことに対して、ということですか?」

「ウッ、あなたは随分直接的な物言いをするんだな」


「言い方に注意しましょう」とギーズ卿が注意したが、全く悪びれていない。

「いいえ、その通りなので構いません」


 言いたいことをその場で言ってしまう性格なのか。何だかあばずれエリーゼに通ずるような……?


「……そのことについて、改めて説明したいのです」

「我々に納得できるよう、お願いしたいですねぇ」


 お前には関係ない。ここから退場しろ。


「説明不足だった契約の理由ですが――個人的な事情があり、私が一年間国外にいる間、表向きな連れとして屋敷にいてもらえさえすればよかったのです」

「個人的な理由ねぇ。アイラ嬢を表向きの連れという立場にした上、一年後世間に放り出したわけです。うら若い彼女に得体の知れない傷がつきました。一体どういった理由だったんでしょうか?」

「それは……つまり……望まない結婚を避けるためと言うか……」


「えっ、何と?」


 説明に窮する。どうしたものか。


「ちょっと待ってください、だとしたらあの契約は何だったんですか? まさかの虫よけ!?」

「一年間ウエスト家のタウンハウスで、私の意中の女性として過ごしてもらうという契約だったんだ」


「えっ、訳ワカメ契約!」

「落ち着いて下さい」


 何と、あのランベール・ギーズがアイラ嬢をなだめている。彼女がこんなに激しやすいとは。虹彩の薄い目で怒ると、なかなかホラーなものがある。

 う~ん、何だかエリーゼと言葉遣いが似ている気がするんだが……気のせいか。


 だとしても……愛おしい。何としても彼女を守りたい。これからはギーズ卿ではなく私が保護しよう!


「この契約を知る者はいないはず、あなたは傷物などではありません、安心して下さい」

「ウエスト邸で不手際があったと聞いておりました……納得できる謝罪がほしいですねぇ」

「……今日伺ったのは、前回の説明不足と不手際に対する謝罪、それからもうひとつ別の理由がありまして」

「どのような?」

「慰謝料も兼ねてアイラ嬢を再度ウエスト邸に招待したいのです。ご両親が亡くなった貴族令嬢を保護するという名目で」


「「はぁっ!?」」


 天使の表情が固まり、ギーズ卿はタバコを落としそうになった。





 何とか次回の契約を結べそうだ――あの男は不満のようだが。私がしでかしたことに対し、これから挽回さえできれば。それに、ウエスト家のスキャンダルをバラまいた怪しいギーズ――あんな男に彼女をまかせられるものか。


 私が保護者……いずれは夫になる!

 ギーズはお役御免だ!


 私は平凡で幸せな家庭を夢見るロマンチストなのである。



~アイラ視点に続く~



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☞大金をちらつかせ、謝罪を次の契約に繋げる姑息なジェシー。『アイラは自分が保護する!』と息巻いてます。どす黒い渦が発生しました。

☞これまで『エリザベス』と『エリーゼ』が混同されていました。正しくはエリーゼです。混乱した方々、誠に申し訳ございませんでしたm(_ _)m

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