ランベール・ギーズVSジェシー・ウエスト Ver.0
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★アイラに面会するため、ペーパー火薬庫ランベール・ギーズと対峙するジェシー・ウエスト。ボッチ伯爵は思いがけない事実に愕然(がくぜん)とします。
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うんざりするほど回り道をした結果、私は振り出しに戻った。つまりここ、怪しげなギーズ出版社だ。
ティールームから彼女が消えた今は手詰まり状態なのだ。
「ギーズ卿に面会したい」
私はぶっきら棒に受付嬢に名刺を差し出した。
翌日私はギーズ出版社の裏にあるレストランで、ようやくギーズ卿という謎の男に面会することができた。何とそいつは、あの日ティールームでアイラ嬢と微笑み合っていた優男だったのだ!
お前か!
まさか、屋敷へ彼女を迎えに来たのも?
「初めましてギーズ卿、ヴェストル領当主のジェシー・ウエストです」
「初めまして、伯爵様。ギーズ出版社のオーナーをしておりますランベール・ギーズと申します。本日はどのようなご用件で? 特ダネでもありましたか? どんな些細なことでも伺いますよ」
シャツとズボンのみというくだけた姿。足を組みながら煙草を吸うという尊大な態度。まばたきをしない口だけの薄笑い。
気味の悪い男だ。
だが……アイラ嬢の情報を引き出せるのはこの男しか思い当たらない。噂を垂れ流す悪友には死んでも頼れない。
見たところギーズ卿は、私より十歳ほど年上の、遊び人風情の男だ。何を考えているのか全く見えない。こいつは話を濁すタイプかもしれない。用心しなければ。
挨拶もそこそこに用件を述べた。
「早速ですが、訳あってアイラ・サウス嬢と面会したいのです。こちらによく訪れると聞いておりますので、できましたらご助力いただきたいのです」
「そうですか……それならお分かりでしょうが、彼女はこの出版社と縁がありまして。実のところ、伯爵様については彼女から聞いております。一年間ある契約をしていたとか……」
そいつはタバコの煙を吐くと、鋭い目を向けた。
「それについて、彼女に改めて説明をしたいのです」
「契約は既に切れていますし、今更ではありませんか?」
「何か問題でも?」
「彼女は、会いたいとは思っていないようですがねぇ」
「そのようなことを言っていたのですか?」
「さて、どうでしょう」
(話が全然進まない、イライラする)
「サウス家を訪ねたら、戻ってないと言われました。貴族の令嬢が姿を消すなどあり得ません。ですが、先日向かいのティールームで見かけました」
「フッ、そうでしたか……実のところ、僕が保護しています。彼女のパトロンですので」
「パトロン?」
「誤解しないでいただきたい。経済的なパトロンです」
だからあんなに親しそうにしていたのか? 手を……繋いでいたのか??
なぜこの男が、アイラ嬢のパトロンを?
「ところで、彼女はこの出版社に?」
「従業員というわけではありませんが、出版社の仕事を手伝っております」
彼女はサウス家を離れ、自立しているということなのだろうか。なぜ貴族の令嬢が、こんな所で仕事を?
「正直に申しましょう。伯爵様はストーカーなのではないかと彼女が恐れておりまして。僕が彼女を保護しているのも、サウス家や伯爵様から守るためなのです」
「そ、それは……どういう……」
私は絶句した。
※
結局天使には会えなかった。
『彼女も色々ありましてねぇ』
(色々って何だ、どうして貴族令嬢が出版社で働いているんだ。この出版社は何なんだ)
『ここでは何ですので、近い内にギーズ邸にご招待いたしましょう』
いつまで話を引き伸ばす気なのか。これでは永遠に彼女に会えないではないか!
出版社を吹き飛ばすぞ!
※
ミス・アイラ――エリーゼ・イーストへの盾にする目的で契約しただけなのに、今では一時も忘れられないほどの存在となっていた。
私は浮かれたバカ……愚か者になっていた。
庇護欲をそそる儚げな姿、知的な佇まい、愛らしくも舌っ足らずな声、虚ろな目。それでいながら、あのエリーゼと対抗できる度胸。何もかもが愛おしい。
とはいえ、先の契約失敗で、私の印象は最低になってしまったことだろう。
それなら、私と伯爵家に少しずつ慣れてもらい、ずっとウエスト邸で暮らしたくなるという(姑息な)目的で、二回目の契約(お見合いからのお試し婚約からの伯爵夫人教育からの……)を申し込んではどうだろうか。うまくいけば、そのまま結婚に進むことができるし……。
そうなれたらいいな。
表向きの名目は、孤児になった貴族令嬢の保護。これなら誰も文句は言えないはず。経済的なパトロンではなく屋敷の一員にするのだ。
(そうだ、そうしよう! そして実質的な婚約者になればいい!)
私は次の一手を思いついた。
(これが上手くいけば……)
私は天使との幸福な婚約生活に思いを馳せた。
まずは彼女を再び迎えるであろうタウンハウスのリフォームだ。使えなかった使用人はもういない。今は私に忠実な使用人だけのはず。
「ご主人様、解雇した元使用人についての噂なのですが――ひとり残らずカレドニア領北部諸島へ行ったと聞いております。ご主人様が意図的にそうしたのですか?」
「いや、手続きをしたのはメルヴィンだろう、セントレ商会を通して」
「そうですけれど……?」
遅ればせながら、私はランベール・ギーズについて調査した。
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ランベール・ギーズ
ギーズ子爵家当主。ヘンリー王治世歴二十三年一月三日誕生、三十六歳。妻はセントレ銀行頭取の長女。先代は隣国からの亡命者。国籍は隣国。
五年前ギーズ出版社を起業、首都を中心として、ゴシップ系週刊誌・月刊誌・三文小説などを出版。特に週刊誌『セカオピ』にはセンセーショナルな記事を載せ続け、社交界では『ギーズ砲』なる異名を持つ。
~ ~ ~ ~ ~
この国ではあまり存在しない『子爵家』ということは、そういうことだったのか。隣国の貴族。あの男、貴族のくせにこの国で週刊誌を出していやがるのか。しかもゴシップ欄だけでなく社説欄まである。立派な売国奴だ。いや、隣国からのスパイか?
亡命者というのは表向きの理由なんじゃないのか?
この国の政府はなぜ、そんな奴をのさばらせておくのか?
コイツさえいなければ、アイラ嬢はすんなり私がもらい受けていたものを!
(待てよ、起業が五年前?)
父が決闘で週刊誌の餌食になったのが、今から四年前……。
ギーズ出版社……セカオピ……!?
な、何ということだ!
アイツこそが、ウエスト家をスキャンダルで貶めた張本人だったのか!!
(あの男が……あの男が……アイラ嬢のパトロンと称するあの男が!!)
目の前が真っ暗になった。
《ランベール・ギーズ絶許!》
~ギーズ邸に続く~
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☞ランベール・ギーズの裏の顔を知ったジェシー・ウエスト。アイラを手に入れるためには、スキャンダル王という強敵を乗り越えなければならなくなりました。
☞ウエスト邸の使用人が北方諸島に左遷されたことについては、【第二部】『怒りのスキャンダル王』『ギーズ卿のクズっぷりをウォルティーが愚痴るぜ』を参照してください。
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