消えた令嬢
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★天使に見えた【仮のお連れ様】に逃げられたボッチ伯爵。
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「ジェシー様、あの方は……アイラ・サウス嬢ではありませんか?」
「えっ?」
契約終了日に国外から首都に戻り、官庁への報告もそこそこに屋敷へ直行したら、行き違いに走り去るオープンキャブがいた。
あわてて馬車から降り、後を追う。
「待ってくれ!」
走り去るオープンキャブから振り返った少女。一瞬見えた姿に衝撃を受けた。
そこに天使がいたのだ。
(あなたは……天使だったのか!?)
私の声など聞かなかったように馬車は消えた。
※
「「「お帰りなさいませ、ご主人様……」」」
エントランスで私を迎えた使用人たちの表情が曇っていた。
「サウス家のご令嬢との契約は無事終了いたしました。これが契約時と契約完了時の書類でございます」
執事のメルヴィンが二通の書類を見せた。
「何だ、この文字は?」
「さあ? 何かの呪文でございましょうか?」
「全然読めないじゃないか」
「さあ? わたしには分かりかねます」
サイン欄には、見たこともない古代象形文字が書かれていた。訳が分からない。
「さきほど屋敷から去ったオープンキャブは……アイラ嬢なのか?」
「はい……引き止めはしたのですが……つい先ほどお屋敷を出ていかれまして」
「私を待つよう伝えなかったのか?」
「もちろん伝えました。ですが、すでに迎えが来ておりまして……」
「……お礼を言いたかったのに。伝言は?」
「特に何も」
「何も? 全く?」
「はい、わたしには、お世話様でしたとおっしゃっておりました」
(あっけなさ過ぎる……)
心の中に、木枯らしが吹き抜けるのを感じた。
まさか、私に会わずに屋敷を出て行くとは。せめてこれまでの事情を説明し、感謝したいと思っていたのに。それなら仕方ない。明日サウス家を訪れよう。
「ところで、その後オリエンス侯爵令嬢はどうした?」
「はい、連絡もなくおいでになり、何度かアイラ嬢と込み入った話し合い(取っ組み合い)をされていたようです」
「屋敷に入れるなと厳命したはずだぞ」
「……申し訳ありません、勝手に中に入れた者がおりまして」
「誰だ、それは!」
「ですが……なかなか仲裁できるような雰囲気ではなく(ギャラリーに徹していた)、その際特殊技を用いた器物損壊もありました」
「特殊技?」
「聞いたこともない技名を連発していたそうです」
ちょっと目眩がした。謎の言動が目立つあばずれエリーゼならやりそうなことだから。
「侯爵様から何度も連絡がありましたが、わたしどもでは対応できかねます」
「分かっている。それよりも、エリーゼ嬢は勝手に屋敷に来て物を壊したんだろう? 損害賠償を求めるよ」
「破壊したのはアイラ嬢もですがね」
「そんな訳ないだろう(汗)。貴族の令嬢だよ?」
「令嬢といいますか、アイラ嬢はまだあどけない少女でしたよ」
「……」
すると、扉に控えていたメイド長が不満を漏らした。
「恐れながらご主人様、あのような品の無い振る舞いをする不気味なお嬢様など、気に掛ける必要はないと思います。あのお方、頭が少々足りないのでは?」
「どういう意味だ? エリーゼ嬢を中に入れたのはお前なのか?」
「侯爵令嬢を無下にすることなどできません。それに、アイラ嬢はパーティーで殿方に色目を使ったり、仮面舞踏会へ行ったりと、不名誉な噂が絶えなかったのでしょう?」
「以前はそんな噂があったかもしれない」
「未だに噂を聞いておりますけれど」
「誰から?」
「エリーゼ嬢からですわ。それに、あんな乱暴なお嬢様など見たことがありません。侯爵令嬢に対する態度といったら!」
「侯爵令嬢に気を使う必要などない。私の婚約者ですらないのだから。勝手に屋敷に来られても困る」
「で、でも、侯爵家のご令嬢の美しい髪飾りに飲み物をかけたり、庭のベンチを破壊したり……」
(ブフォッ……ベンチを破壊! どうやって? 特殊技?)
私は何年かぶりに爆笑しそうになった。
「それに、格下の男爵家とは違い、エリーゼ嬢は侯爵家のお嬢様なのですし、先代様からは奥様にと厳命されておりまして……」
「父は死んだ、義理立てする必要はない。今は私が当主なんだ、彼女と結婚するつもりはない」
「しかしながら、あの方は令嬢としての所作や言葉遣いがなっていませんでした。本当に貴族のお嬢様なんですの? 何だか言葉も上手く話せていませんでしたわ。淑女教育をされていたんですの?」
「エリーゼ嬢のどこが貴族の令嬢なんだ、それに、サウス家に契約を申し込んだのは私だぞ!」
しつこいメイド長にイライラし、私は声を荒げた。
「えぇ、えぇ、存じております。ですが、離れに書店の御用聞きを頻繁に呼び、書店の方とはそれはもう、親しげに……」
「離れ? 書店? 何だそれ」
悪い予感がする……。
「書店の方は、どういうわけかお屋敷にお連れ様がいることを知っていたようでございます」と、メルヴィン。
「へぇ?」
それは、表通りに面した庭でアイラ嬢を散歩させることで、『ヴェストル伯爵には意中の女性がいるようだ』という噂が立ったということなのだろうか。だとしたら、目論見通りだが……。
「ところで、『離れ』とはどういうことだ? アイラ嬢は本邸で過ごしていたはず」
「それが……」
メルヴィンがうろたえた。
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☞次回、失敗した契約(計画)に唖然とするジェシー・ウエスト。
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