タンディーゴルフクラブ/サウス家の真実

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★元祖アイラの過去です。

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 夢の中に……アイラの意識の中に、断片的な光景がよみがえった。


『このお人形はあなたのお誕生日プレゼントよ、お友だちだと思って一生大事にしてね』

『だいぶ普通に生活できるようになりましたね、奥様』

『ありがとう、ライオネル。侍女と護衛さえいれば問題なく暮らせるようにしたいわ』

『心得てございます』

『私の愛するアイラ、一生守ってあげるよ。だから、父さんは絶対死なない』


 アイラの両親と……サウス家の執事さん?



※



『あ〜、あ〜』


 アイラが手をパタパタさせている。楽しいんだね。


『ハハッ、アイラお嬢様は可愛いね』


 かなり若いけれど……ライトブラウンの髪と青い目、ソバカスのお兄さん……タンディーさん?


『まぁ、トマス。アイラと遊んでくれるの?』

『はい、喜んで!』

『ときどきゴルフクラブに連れて来てもいいかしら?』

『もちろんです!』

『この子にお兄さんが出来てよかったわ』

『ここにいらっしゃる間は俺がお嬢様をお守りします』

『ほら、アイラ、お兄さまよ』


 タンディーさん、ずっと前からアイラを守っていたのね。



※



〈怖い怖い怖い、パパ、ママ……〉


『あぁっ、ギルバート、馬車が……!』

『大丈夫だ、下は川だ、死にはしない!』

『うっ、ぐっ……』


 両親がアイラをきつく抱きしめて守っていた。これは……あの馬車事故?


 スローモーションのように、馬車は崖から真っ逆さまに滑り落ちていった。落下音と馬のいななき、馬車が壊れる音、川の濁流。


『アイラだけでも木片の上に乗せられれば……!』


 みんな流されて行った。

 アイラだけが壊れた木片の上に乗せられていた。



※



『偶然とはいえ、うまい具合に二人が死んで幸運だったな。出来損ないのお前なぞサウス家の財産なんか不要だろう。遺書は無効だ、相続人の資格無しという書類を用意する。次期男爵は私だ。財産もな!』


〈パパ……ママ……どこ?〉


『裕福なサウス家は全て私の物だ!」


 お前は……クズ叔父?


『お呼びでしょうか、ノーマン様』

『これからは私が当主だ、主人だ』

『心得ております』


『あ〜、あ〜』


『うるさい、口を開けるな、薄気味悪い目で見るな、視界から消えろ! ライオネル、アイラを裏の小屋へ遠ざけろ!』


 ライオネル?

 執事さん?


『しかしノーマン様……』

『いいからコイツをぶち込め、顔も見たくない!』

『……かしこまりました』



※



『あ〜、あ〜』


『ミスター・タンディー、お願いがあります』

『何でしょうか、ライオネルさん』


 あれは……タンディーさんと執事さん?


『あなたにこのようなことを依頼するのは大変恐縮なのですが……アイラお嬢様の保護先が決まるまでしばらくの間、護衛を頼めないでしょうか』

『どういった理由で?』

『サウス家の事情を明かすのは心苦しいのですが……新しい当主様は……信用できません』

『前当主様の弟さんですね、なぜ?』

『それは……』

『分かりました。俺でよかったら、亡きギルバート様のお嬢様をお守りします』

『ありがとうございます』


 タンディーさんがわたしの護衛をしてたの? ゴミ捨て専門の使用人じゃなかったの?


 アイラのお父さん、ギルバートっていうんだ。



※



『あ〜、あ〜』


『わたくしがお父様に逆らえないの、分かってるでしょ?』

『ですがミリーお嬢様、何とか少しでもアイラお嬢様に……グスっ』


 ミリーとマリオンさん?


『ハァ、分かったわ。あのクズがいない間に差し入れくらいはしてあげる』

『よろしくお願いします』

『いつになるか分からないけれどね、あまり期待しないでちょうだい。それにわたくしは忙しいの。すぐにでも婿をさがさなくてはならくなったから』



※



 夢から覚めたら知らない部屋にいた。ここはどこ?


 懐かしい人がいるみたい――茶髪でソバカスお兄さん――涼しげな青い目のタンディーさん? わたしに言葉とゴルフを教えてくれた人。わたしを守るって言ってくれた人。

 でも服装が……ウエスト邸の様子を見に来てくれたときみたいな姿。上下ビシッとしたスーツで、何だか……。


 そもそも何者?


「お嬢様……」


 チョコレートを布で包んだボールが上掛けの上に転がっていた。


「お嬢様の好きなクルミ入りチョコレートですよ。早く、目を覚ましてください」

「あ〜」

「お嬢様、気が付きましたか?」

「あ〜、タ……」

「お嬢様、俺が分かりますか?」


「……オレ、ト〜、タ〜……」


 わたしじゃない。しゃべっているのはわたしじゃない。


「もう少し、もう少しで話せますよ、『わたし、アイラ』」

「アイラ、アイラ、アイラ」

「そうそう、その調子!」

「タ……タ〜、タンデー」


「そうです、俺です、トマス・タンディーです。お嬢様、思い出してくれましたか?」


「タンデー、タンデー!」

「俺です、トマス・タンディーです」

「アイラ、アイラ、アイラ!」


 わたしはしきりに手をパタパタ振りながら喜んだ――いいえ、これはわたしじゃない――アイラ。


「パパ……ママ……」


 壁に飾ってあった肖像画に気付いたとたん、アイラが泣きだした。ご両親の肖像画なんだろう。小さな女の子を抱きながら互いに微笑んでいる。


「お嬢様、ここへ来ればいつでもご両親に会えますから」


 いきなりアイラがタンディーさんに飛びついた。


「タンデー、パパと、ママは、どこ?」

「お嬢様……」


 いずれ本当のアイラは真実を知ることになるだろう。


 アイラは発達障害だった。そんなアイラに優しく接してくれた人がタンディーさん。お兄さんみたいな存在。タンディーさんならずっと守ってくれると思う。でも彼には彼の人生がある。


 さっさと自立しなくちゃ。

 今はパトロンがいるから何とかなっているけれど、これからは?


 ジェシー・ウエストにざまぁして一軒家を勝ち取ろうと思ったけれど……他人に頼ってばかり……わたし、何をやっているんだろうって感じ。


 わたし――アイラ・サウスはこれからどうすれば?

 それより、早くアイラの中に戻らないと。今のままでは誰も幸せになれない。


「タンデー、タンデー」


 アイラはタンディーさんが好きみたい。離れたくないみたい。

 依存?

 元祖アイラはわたしが面倒見るから、心配しないで。



※



「大変、トマス、伯爵様がいらしたわ!」


 叫びながら飛び込んできた人――会ったことがある。確かウエスト邸の離れに来た、書店員さん。


「静かに、セレーナ」

「そんなこと言ってる場合じゃない、伯爵様よ」

「今どこに?」

「ゴルフクラブのエントランス」

「迎えに行くよ」

「わたしも行った方がいい? 今ボスはいないし……」

「飲み物とつまめる物を頼むよ」


 えー、二人って、そういう仲なの!?



~~~~~~

☞元祖アイラよりもジェシー・ウエストよりも、二人の関係が気になる北橘佳奈。

☞タンディーさん(地主家次男、アッパーミドル)は、サウス邸執事のライオネル(労働者階級出身)よりも階級は上です。

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