ランベール・ギーズ痴の粛清【逆美人局】

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★調子に乗ったランベール、次の標的。

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 その日ランベール・ギーズは、出版社の隠し部屋にフリップとセレーナを呼んだ。この二人はセントレとは関係なく、ランベール個人の工作員である。


 裕福なマダムにもてあそばれ、上流階級の世界から堕ちて生活能力もないフリップを拾ったのも、地主の息子から捨てられ首都で不貞腐れていたセレーナを拾ったのもランベール。

 ただし、フリップがエレンに目をつけられたのは計算外だった。


(綺麗な顔に傷でも付けてやろうか)


 目ざといセレーナがスキャンダルの元を掘り起こし、フリップが美辞麗句で脚色した文章を、『セカオピ』に載せる。人々は興味津々でそのスキャンダルに夢中になる。


(簡単なことだ)


 アイラの一回目の契約時に二人がウエスト邸へ派遣されたのも、工作員だからだ。


「フリップ、少々頼みたいことがありましてねぇ……」


(ウッ、嫌な予感……)と、フリップは身構えた。


「これが成功したら、エレンとのことは不問にしましょう」

「……ぼぼぼぼ、ぼくは、奥様とはべべベベ、別にぃ……」


「フンッ、しらじらしいわね」と、何もかも知っているセレーナが毒づいた。


「今週末に公爵家で政界関係のパーティーが開かれます。その会場へ行ってください。髪を染めて髪型を変えて」

「こ、公爵家!?」

「セントレ銀行の行員としてエレンと参加しなさい。標的はオリエンス侯爵令嬢。失敗は許されないからね。失敗したら明日はないと思いなさい」

「エ、エレンと参加できるなら……」

「僕の妻を呼び捨てとは、君は節操がないですねぇ」


「もももも、申し訳ありません!」


「セレーナには前準備としてやってもらいたいことがあります」

「どんな悪だくみですか、ギーズ卿」

「人聞きの悪いことを言わないでください。二人とも、このことはアイラには内緒ですよ」

「分かっておりますわ。で、何ですの?」


 ゴニョゴニョ……。


☆


「愛する奥様、僕からのお願いを聞いて頂けますか?」

「何? 前置きはいいからハッキリ言って?」


「公爵家の政界パーティーに参加してほしいのです、フリップと。政界の重鎮に印象付けるよい機会になるかもしれません」

「あら、お代は高くつくわよ」

「何がよろしいでしょう?」

「しばらくスパリゾートでゆっくりしたいわ。このところパーティー続きで疲れているの。少しだるいのよ」

「かしこまりました、奥様。これが終わったら最高級のリゾートホテルをご用意しましょう、もちろんVIPルームを予約いたします」


「侍女二人も忘れずにね」



※



 交換留学生帰国パーティーがカレドニア伯爵家タウンハウスのホールで開催された。取材のためギーズ出版社も参加した。


「はじめまして、カレドニアの若様」

「あ、あなたは?」

「わたくしはギーズ出版社の記者ですわ」

「取材ですか?」

「ええ、それはおいおい……あの……お耳に入れたいことがありまして……ウエスト家の婚約者と噂されていますエリーゼ・イースト侯爵令嬢が、来週、公爵家主催のパーティーへ出席なさるとか」

「ウエスト家の婚約者……」

「そう、あのウエスト家ですわ。過去を挽回するチャンスだと思いますのよ。もちろん、婚約者を奪われたお父上の悲劇はご存じですわよね」


「……そ、それは……はい……」


「エリーゼお嬢様は、それはそれは愛らしいと伺っておりますわ」

「ぼ、ぼくは、遠くからしか拝見したことがなくて……オリエンス卿のご令嬢ですし、ぼくには高嶺の花だから……」

「可憐なオリエンス侯爵家のお姫様を、みすみすウエスト家に獲られてもよろしいんですの? それに、オリエンス家とウエスト家は保守派ではなくて? これ以上保守派をのさばらせてもいいんですの?」


「それは……分かっていますが……」



※



 公爵家主催の政界パーティーに現れたのは、セントレ銀行頭取の娘エレンと、黒髪をうしろに撫でつけた銀行の行員らしき麗しい若者だった。

 若者は獲物を狩るような視線で侯爵令嬢に近づいた。


「失礼いたしました、レディー。ホコリが付いているようでしたので……」


 そう言いながら、若い行員は令嬢の髪の毛に触れた。


「えっ、ま、まぁっ、ありがとうございます……あなた、お名前は?」

「ボクのような卑しい身分の者に名前はありません。ただ、美しいお嬢様と同じ空間にいられるだけで幸せでございます……」

「ま、まあっ……(ポッ)」

「何か飲み物でも?」

「ハ、ハイ……」


 ごっくん。


「ご気分が優れないのでしょうか、では控えの間で休憩を?」

「ハ、ハイ……」



※


「キャーッ、お嬢様!」

「こ、これは……どういうことなんだ、ジェイコブ!」

「エリーゼ、馬鹿者が!!!」


「「えっ!?」」


※



「何をやらかしたんだエリーゼ! カレドニアの倅(せがれ)に抱かれるとは! あれは急進派なんだぞ!」

「お、お父様、わたくし……気がついたらあの方が隣にいて……は、は、裸で……何が何だか分かりませんの。急進派って、ジャコバン派? わたくし、革命で処刑されるの?」

「はぁ……また訳の分からないことを言って……お前は馬鹿なのか、政敵なんかに捕まるとは!」

「処刑怖い……お父様助けて……グスッ」


(ハァ……この娘は誰に似たのだ……仕方ない、これを機にカレドニアを引きずり降ろすか……)


 その翌週。

 週刊誌『セカオピ』に、『保守派と急進派、世紀の大ロマンス!』というタイトルで、カレドニア家長男とオリエンス家令嬢の恋が大々的にすっぱ抜かれた。見開き四ページに渡って、あることないことがロマンス小説のように書かれていた。


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『保守派と急進派、世紀の大ロマンス!』


ヴェストル伯爵の婚約者とされていたオリエンス侯爵家エリーゼ・イースト嬢が、カレドニア伯爵家長男ジェイコブ・ノルド氏と婚約寸前かというニュースが、社交界を駆け巡った。

両家は右派のリーダー対左派の有力者という対立関係にある。


決して実ることはない、悲恋とも思える二人のなれそめは……

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 その翌週には、急進派の政治グループが解散し、新たな政治グループが結成されるという報道が、週刊誌『トゥルース』に載った。



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☞近代ヨーロッパでは、貴族のパーティーにもジェントリやアッパーミドルクラスであれば参加できたらしいです(ネット調べ)。下院議員を擁するセントレ家(ブルジョワジー)は貴族に匹敵するほどの財力・影響力を持ち、様々な貴族と取引きしているので、頭取や重役、子爵夫人であるエレンも参加していました。エレンのエスコートは頭取パパもしくはフリップ(準男爵家三男、上流階級に引っかかっている、階級はセントレよりも上)です。


☞ランベールは未亡人専を辞めたころから社交界へはあまり出ません。元々外国人ですし、亡命者連中と陰でコソコソとクーデター政権の行方を伺ってそうです。

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