追放だ、アイラ・サウス!

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★アイラ、ピンチ。(死ねBBA!/北橘佳奈談)

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 ランベール様に会いたい!


 どうしてわたし、こんな契約を結んでしまったんだろう。


 自立したかったから?

 お金が欲しかったから?

 一軒家が欲しかったから?


 他人に頼ってばかりじゃない。


 だけどこの世界では自力で生きることなんてできない。女性の立場は弱い。仕事をするにしてもこの世界のことを知らなすぎる。



~ ~ ~ ~ ~

『親愛なるランベール様


皆様いかがお過ごしですか。

長らくお手紙を書かなくてごめんなさい。湖陵館へ来てから何かとわただしく、なかなか時間を取れませんでした。


ここでは様々な経験をしました。

湖陵館の見学、狩猟パーティー、地元の方々との交流――田舎でゆっくりできるかと思ったけれど、そうでもありませんでした。

湖陵館は丘陵地帯にあり、大きな森や湖があって素敵な所です。春から夏にかけてならもっと素晴らしかったでしょう。

ですが、わたしはこのところ体調を崩しがちですし、小説もあまり進んでいません。フリップさんに怒られそうです。


契約が終わったら首都で思い切り羽根を伸ばしたいと思っています。


エレン奥様によろしくお伝えください。


アイラ・サウスより』

~ ~ ~ ~ ~



(早く会いたいな。最後に会ったのは、あの舞踏会の日……)


 きらびやかな大ホールで、わたしはプリンセスのように踊っていた。今でもあのときのワルツが頭に流れる。

 大きなシャンデリアの下で、肩が大胆に空いたドレス姿で。ジェシー・ウエストと、ランベール様と――夢のようだった。まるで自分がヒロインになったみたいだった。ジェシー・ウエストはずっとそばにいてくれた。


 あのときの眩しい微笑みを思い出す。

 どうしよう、涙が止まらない……。


 彼が前回の挽回をしようとしているのは分かっている。それに告白みたいなのも?


『アイラの隣にいたい、離したくない』


 ――あれって、愛人として隣にいなさいということ?


 そういえば舞踏会のとき、将来を考えているみたいなことを言ってたよね。あれはエリーゼを拒否するための言い訳なんだと思っていたけれど?


 混乱する。



※



 その日は朝から頭痛が続き、なかなか寝付けなかった。


『すまない、アイラ。今日はどうしてもはずせない所用があって寺院へ行かなければならない。帰りは遅くなる予定だ。頭痛薬を用意したけれど、何かあったら侍女か執事に言ってくれ。医者も屋敷に待機させているから』


 ジェシー・ウエストはナットさんと寺院へ行ったまま。わたしの侍女は別室で明日の下着やドレスの用意をしているらしい。

 軽い夕食後、わたしは医者から処方された薬を飲まされてジタバタしていた。


「この薬は何?」

「アヘンチンキでございます、お嬢様」と、医者に言われた。

「ア……アヘン……」

「私は下がりますので、何かありましたら呼び鈴でお呼び下さい」


 麻薬やんけ~、ヤバいやつ。飲んじゃったよ。

 頭がくらくらする、意識が遠のく、体が動かない。


 コンコン……と、扉を叩く音。


「アイラ様、当主様がお呼びでございます」という侍女の声。


 当主様って、ジェシー・ウエスト?

 帰って来たの?

 こんな夜更けに呼ぶって、何なの?


 だるいし面倒だから、返事なんてしない。わたし病人だし、眠っているふり。死んだふり。


 コンコン……。


「アイラ様、当主様がお呼びでございます」


 しつこいんだけど。こんな時間だもの、怪しいから起きないしドアも開けない。放っておいて。


 ガチャ……。


(えっ、ドアが開いた? 内側から鍵をかけているんだけど。ここの鍵を持っているのは確か……)


「当主様がお呼びと申し上げました。今すぐこちらへ」


 焦って起き上がろうとしたときにはすでに布で口を塞がれていた。ろうそくの薄明りで見えたのは、侍女ともう一人の姿。


(えっ、何コレ!)


 手際よく手足を縛られ、容赦なくバルコニーから放り出された。ナイトキャップがはずれ、髪の毛がバラバラになった。


(ちょ、待った、ここ二階!)


 驚く間もなく、地上に控えていた者にキャッチされ、馬車の中に詰め込まれた。


(すさまじい連携プレー、ジェシー・ウエスト、あんた何してんのよ~)


「あなたのことは調べさせていただきました。没落男爵家の姪なのですってね。そんな娘をこの由緒ある伯爵家に迎えるわけにはいきません。ジェスの妻は侯爵令嬢エリーゼ様と決まっているのですから」


 馬車の外からこだまするこの声は……二度と会わないと思っていたジェシー母!

 それに、没落男爵家?

 いつの間にサウス家は没落したの?


「そういうことなの。あなたはもうお払い箱なのよ、あばー(バイバイ)!」


(エリーゼ?)


『あばー』と言ったよ、某北関東民!

 月明りで見えたのは、薄ら笑いを浮かべながらわたしを覗き込んでいるジェシー母とエリーゼ。


(こいつら、わたしをどうしようと……)


「んん、んんんん!(何、すんだよ!)」

「んんんん、んんん〜!(クタバレ、BBA!)」


 あうっ、口が塞がっているから言い返せない、頭が痛いしだるいから何もできない、く、悔し過ぎる……。

 クズ伯爵の母親もクズ!


《ジェシー母絶許!》

《干からびろ、干からびてしまえ、全身干からびてアタリメになってしまえ!》


 あの侍女もグルだった。それに、いつの間にエリーゼは湖陵館に?


(ヤバい、ピンチ。助けてランベール様、ジェシー・ウエスト!)


「あなたはサウス領へ帰りなさい。あなたからジェスへのお別れの手紙を部屋に置きました。サウス家がどう思っているかは知りませんけれどね」


(サウス家じゃなくて、ギーズ邸にして!)


 ジェシー母は、かつては美人だったのかもしれない。今は大分やつれて皺が多い。だがピシっとしたたたずまいから、いかにも貴族ですというオーラが凄い、圧ヤバい。


「今すぐ出発しなさい」

「はい、奥様」


 ジェシー母とエリーゼが消え、御者の合図とともに小型馬車が動き出した。ここ狭すぎるう~。


 ガラガラガラ……ガッタン、ガラガラガラ……ガッタン。


 背後に湖陵館の明かりが見えた。月明かりで辺り一面がぼうっと光る。


(サウス叔父(クズ犯罪者)がいるサウス領なんて、行きたくない……また閉じ込められる……今度こそ死ぬ)


 ナイトウエアのまま手足を縛られ、馬車の座席に寝かされたので、未舗装道路がツライ。頭や背中がガクガクする。おまけに風が強いから馬車揺れすぎ。

 やがて、座席から狭い床板にずり落ちた。


(あうっ、苦しい……まだしにたくないよぅ……口だけでも自由にしなければ……モゴモゴ……)


 わたしはしきりに口をぐるぐる動かして、塞いでいた布を下にずらした。


(はーっ、はーっ……うぐっ、めまいが……吐き気が……意識が遠のく……)


 そのとき後方から複数の蹄の音と馬のいななきとともに叫び声が上がり、馬車が急停止して、わたしは床で頭を強く打った。


 ゴツン、ゲロゲロ〜。


 顔面リバースヒロイン……わたしのHP(ヒロインパワー)と羞恥心はゼロよ。

 お願いだから二十一世紀の日本に返して~、こんな理不尽で前時代的で犯罪だらけの世界、もう嫌~!


 そしてわたしは亜空間をさまよいはじめた。



※



「あ〜、あ〜」


〈怖い、パパ、ママ……〉



~続きに北橘(ほっきつ)佳奈はいません、亜空間へ飛ばされました~



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☞最初の契約に次ぎ、今回も失態を重ねてしまったジェシー・ウエスト。ジェシー母が関与したアイラ追放事件を知ったランベール・ギーズは……。

☞北橘佳奈の代わりに現れたのは……。

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