湖陵館の鬼BBA
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★オリエンス侯爵から逃げるように、アイラを伴って領地へ向かったジェシー・ウエスト。そこに次なるボスが。
★湖陵館は『プロローグ』に出てきたヴェストル伯爵家の領主館です。
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「定例会議も終わったことだし、しばらくヴェストル領へ行く」と、ジェシー・ウエストがのたまりました。
舞踏会が終わってすぐのことだった。
(領地って、どこ?)
「向こうで狩猟大会や慈善活動を行う予定だ。パートナーとして振舞ってもらいたい」
「どんなことをするんですか?」
「寄付や配給、チャリティーパーティーやバザーかな。以前は母が中心になって行っていた。準備は使用人がするから、訪れた人に挨拶してくれればいい。特に何をすることもないし、気を使う必要もない。ちょっとした息抜きだと思ってくれ」
「息抜き……ソレが?」
「アイラもサウス家でやっていただろう?」
いいえ、知りませんけど。
※
列車が通っていないヴェストル領へは馬車で行く。書きかけの小説とアイラちゃん人形を持って、夜明け前に出発。
わたしとジェシー・ウエストはピカピカに磨かれた四頭立て馬車。使用人が乗る馬車を含めると合計四台。ちょっとした行列だ。
「わたし、馬車に酔うかもしれません……」
「それじゃあクッションを増やそう。なるべくゆっくり走らせるから」
「は、はぁ……」
短気な人だな~と思っていたけれど、わりと世話焼きなんだよね。
レストランの二階テラスでランチ休憩をとったあと、地形が変わった。くすぶっていた都会を抜け、麦畑を抜け、丘陵地帯を走り、いつの間にかウトウトしていた。気が付いたら低木が生い茂る丘の上、月明かりに浮かぶ巨大な建物が見えた。
(ロックハート城!?)
「この周りがヴェストル領で、あれが領主屋敷『湖陵館』だ」
『ロックハート城』ならぬ『湖陵館』!
丘の上のお城。海外ドラマや映画のロケ地ですかね、特撮に出てくるような。もっと時間がかかるかと思ったけれど、意外と近かった。東京から熊谷くらい?
「何を驚いているんだい? サウス家の屋敷よりは大きいかもしれないが、普通だろう?」
コレを普通と言うのか、スゲ~。
小川が流れる並木道を走り、石橋と石造りの門を通り抜けると、古ぼけた館に到着した。屋根にはいくつもの煙突、左右に広がる古城。
タウンハウスから移動した十人ほどが、次々と馬車から降りた。わたし、ジェシー様、ナットさん、侍女、使用人たち。
ジェシー・ウエストがわたしをエスコートして馬車から降ろした。久しぶりの当主の到着で、屋敷全体が盛り上がっているみたい。全員がわたしに注目しているから緊張する。
吹き抜けのエントランスホールで伯爵家のお仕着せ軍団に迎えられた。
「ご当主様のご到着!」
ひときわ大きな号令。
「「「お帰りなさいませ、当主様」」」
一斉に礼をされた。
「ようこそ湖陵館へ、レディー・アイラ」
ガッシリ系の赤髪顎割れオジサマに挨拶された。
「領地経営を任せている家令と湖陵館の執事、使用人たちだ」
なるほど、一体何人いるの? 何だかわたしの目を見てギョッとしているわ。ドンマイよ、そのうち慣れるからね。
ここで謎解きをしたら殺人事件が起こったりして。現場は湖、殺されるのは使用人で犯人は執事さんとか。
う~ん、小説のイメージが湧き上がる。引き籠っていないで、もう少しこの世界を見た方がいいかも。ラノベの記憶だけを頼って執筆したロマンス小説がなぜ売れたのか不思議。フリップさんのお陰ね。
遠くから複数の足音がし、田舎に似合わず華美なドレス姿のオバサンが、紺服のロッテンマイヤー軍団を引き連れてザッザッと行進するように迫って来た。
「ジェス、久しぶりですね」
「母上! 別邸で療養中のはずでは?」
(お母さん? 表情が超怖いんですけど)
「まあぁ、何ですの、こんな薄気味悪い小娘を連れて来るなんて。あなたにはオリエンス侯爵家のご令嬢がいらっしゃるでしょう? 侯爵様から婚約状に関する書類が来てますよ」
「ウッ……それは預かります」
「早くサインなさい!」
「それよりも母上、別邸で大人しくしていて下さいと言っておいたではないですか。それに、私はエリーゼ嬢と結婚する気はありません」
開口一番親子喧嘩。いたたまれないよね、こういうの。
「どこからこんな娘を連れて来たのです。まさか平民ではないでしょうね、呪われた目をして」
呪われた目? 確かにアイラの瞳孔も虹彩も色は薄いけれど。
「母上、望ましくない言葉は避けてください。こちらはサウス男爵家のご令嬢です。さる貴族に頼まれ保護しているのです」
「……はじめまして、サウス家のアイラです」
「あらあらまあぁぁ、男爵家ですの」
うんうん、いるよね、こういう見下した人。
どうでもいいかな。
契約が終わればここの人たちは赤の他人だし、だいたいこの世界に親しみなんてないし。世界が終わっても気にしない。
「それ以上おっしゃるなら母上であっても容赦しません、別邸で大人しく療養していて下さい」
「母に向かって何ということを!」
(もうやめて~)
「すまない、母はあんな性格だからもう諦めている。別邸に閉じこもっていたのに、いつの間に……」
「ハァ……わたしのことなら気にしないでください」
「そうはいかない、保護している令嬢を侮辱するなど、あってはならない」
ジェシー・ウエスト、責任感が強い。
悔しいけれど認めるよ、クズではなかったかも。
※
わたしが滞在することになったのは二階の客間、南に出窓がある明るめの部屋だった。ライティングデスクは……わ~、アイボリーの飾りテーブル。早いところ小説の続きを書かなければ。
湖陵館には本館と離れた場所に別邸があり、そこにはジェシー母を指揮官とするロッテンマイヤー軍団が常駐している。ジェシー様によると接近禁止なのだとか。本邸と別邸はそれぞれ独立しているらしい。
完全分離型二世帯屋敷、いいね。
領主館の広い廊下には様々な風景画と肖像画、見事なシャンデリア、飾り窓、暖炉。まるでギャラリー。
「肖像画は……代々の当主様なのかしら?」
「はい、そうでございます。こちらが先々代様、こちらが先代様……」と、案内してくれた執事が説明した。
先代様って……確か決闘で亡くなった?
翌日からジェシー・ウエストのエスコートでテーマパークガイドが始まった。
寺院(何の?)・複数の庭園・菜園・庭師小屋・猟場小屋・厩舎とガレージ、屋敷を囲む広大なイチイとブナとカエデの林。しばらくは『世界遺産見学』と思っておこう。
「湖陵館の居心地はどうかな?」
「素敵なお屋敷ですね」
「また来ると思うから、よく覚えておいてほしい」
「えっ?」
何言ってんの、そんなことにはならないよ?
~狩猟大会に続く~
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☞「この話、LOVEはあるの?」と思った方々、次回はささやかながら告白回です。
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