『レベル999で世界最強になった俺、倒した敵の「上限」を奪って無限に進化する ~神話級ボスをワンパンしたら、レベルの概念そのものが壊れた~』
第18 俺を守るため勇者を救ったら、最後の仲間だけは自分の意思で敵に残った
第18 俺を守るため勇者を救ったら、最後の仲間だけは自分の意思で敵に残った
「だから、お前を守るために追放したんだ」
空を埋める《終天星雨》の光の下で、カイルはようやく真実を口にした。
勇者の瞳に刻まれた金色の輪が、音を立ててひび割れる。
けれど、ハルトはすぐには笑わなかった。
「だったら、どうして言ってくれなかった?」
「言えば、お前は残っただろう」
「たぶん」
「絶対に、だ!」
カイルの声が震える。
「ゼノスは俺の考えまで見ていた。お前に真実を伝えれば、その場で全員を処分すると言った。だから俺は、お前に嫌われるしかなかった」
追放の日。
カイルはハルトの目を見ずに告げた。
『役立たずは必要ない』
『お前がいると、俺たちまで弱くなる』
全部、ハルトを遠ざけるための嘘だった。
だが、嘘なら傷つかないわけではない。
「俺は、あの日の言葉を忘れてない」
ハルトはまっすぐカイルを見た。
「一人で森を歩いたことも。何度も、自分は本当に役立たずだったのかって考えたことも」
「……分かっている」
「いや。たぶん、まだ分かってない」
カイルが息をのむ。
その瞬間、深層従属環が強く輝いた。
『ソウダ。ソノ男ハ、オ前ヲ憎ンデイル』
ゼノスの声が、割れた金色の輪から流れ込む。
『守ッタノニ理解サレナイ。ナラバ、神ニ従エ』
「黙れ!」
カイルが頭を押さえる。
黄金鎧がさらに光を増し、残された力を無理やり引き出そうとする。
「残り一分三十二秒!」
メタトロンの警告が飛ぶ。
同時に、空の魔法陣から最初の光弾が落ちた。
「《不動城塞》!」
ガルドの盾壁が光を受け止める。
「数が多すぎるぞ!」
「神兵隊、上空防御!」
個体七〇八の号令で、三万六千二百十一の翼が王都を覆った。
ノクスの影、エルシアの斬撃、アダマスの盾が、降り注ぐ光を次々と弾く。
「ハルト! 今はセインを止めないと!」
エリナが叫ぶ。
「分かってる! だから先にカイルを戻す!」
「あと一分ですよ!?」
「一分もある!」
「あなたの時間感覚、いつもおかしいです!」
こんな状況でも、エリナの声はいつもどおりだった。
それだけで、ハルトは迷わずにいられた。
「カイル。俺はまだ怒ってる」
「……ああ」
「守ろうとしてくれたことには感謝する。でも、それで全部なかったことにはできない」
「ああ」
「だから、今ここで終わりにするな」
カイルが顔を上げた。
「俺を傷つけたことも、お前が一人で抱え込んだことも、神に利用されたことも。全部、生きて戻ってから話すぞ」
「許すと……言わないのか?」
「今すぐは言わない」
ハルトは迷わず答えた。
「でも、助ける」
「なぜだ」
「元仲間だからじゃない」
カイルの胸元へ、ハルトは拳を当てた。
「お前が今、自分の間違いから逃げなかったからだ」
カイルの目から、迷いが消えた。
「……そうか」
勇者は聖剣を逆手に持ち替える。
そして自分の胸ではなく、天へ伸びる黄金の鎖へ刃を向けた。
「俺はハルトを守ったんじゃない」
『何?』
「あいつを信じる勇気がなくて、一人にした」
聖剣が鎖へ突き刺さる。
「その責任は、神にも渡さない!」
深層従属環が、内側から砕けた。
「ハルト!」
「任せろ!」
【世界捕食界――対象確定】
【深層従属環・カイル接続部を捕食】
黒い領域が黄金の鎖だけを呑み込む。
鎧が消え、カイルの瞳から金色の輪が消えた。
「三人目、解放を確認!」
メタトロンが告げる。
「カイル!」
ミリアとガルドが、同時に元リーダーの名を呼んだ。
カイルは二人を見ると、悔しそうに唇をかんだ。
「すまない。俺はリーダーのくせに、また全員を危険へ巻き込んだ」
「謝罪は後だ」
ガルドは斧を構えたまま答える。
「ハルトにも同じことを言われた」
ミリアが小さく笑う。
「私たち、怒られる順番まで昔のままね」
「笑い事ではないだろう」
「笑えるうちに笑っておくのよ。セインも一緒に、四人そろって謝るために」
カイルは目を閉じ、それから強くうなずいた。
「ああ。今度こそ、一人も置いていかない」
しかし、喜んでいる時間はなかった。
「《終天星雨》、全弾落下まで十二秒!」
空一面の光が、一斉に王都へ向く。
「カイル、休め!」
「断る!」
膝をつきかけたカイルは、聖剣を地面へ突き立てて身体を支えた。
「これは俺たちの仲間が放った魔法だ。俺にも止めさせろ!」
「神託聖剣の力は、もう使えないぞ!」
エルシアが警告する。
カイルは聖剣を構え直した。
「神からもらった力がなくても――俺は勇者だ!」
踏み込みは、黄金鎧に包まれていたときより遅い。
斬撃も、神の力には遠く及ばない。
それでもカイルの剣は、空から落ちる光の一点を正確に貫いた。
「ハルト! 中央の術式だ!」
「見えた!」
《終天星雨》は無数の魔法陣に見えて、そのすべてが中央の一枚へつながっている。
カイルは長いあいだ、セインと戦ってきた。
神に操られていたときの完璧な連携ではない。
互いの癖も、失敗も知っているからこそ分かる、本当の仲間の連携だった。
「天律支配――光と王都の距離を、切り離す!」
降り注ぐ光が、空中で止まる。
「世界捕食界――魔法接続部だけを喰らえ!」
黒い領域が中央術式へ噛みついた。
一本の光が消える。
それに連なり、数千、数万の魔法陣が夜空の星のように砕けていった。
消え残った光弾が一つ、神兵たちの盾の隙間を抜ける。
「しまった!」
個体七〇八が振り向くより早く、バルガスが大斧の腹を差し込んだ。
光弾が弾け、大男が地面を滑る。
「危ねえ危ねえ! 最後の一発だけ俺に見せ場を残すとは、気が利く魔法使いだ!」
「普通は今ので格好よく決めるところです!」
エリナの声に、バルガスは胸を張った。
「十分格好よかっただろうが!」
「自分で言わなければです!」
「止まった……」
エリナが大きく息を吐く。
「本当に、止めた……」
「まだだ」
ハルトは、空に残る最後の一人を見上げた。
セインだけは、少しも動揺していなかった。
黄金鎧も、瞳の輪も、傷一つない。
「セイン!」
カイルが叫ぶ。
「もう終わりだ! 俺たちは全員、神の支配から――」
「知っている」
静かな声が、戦場へ落ちた。
それは神に操られた無機質な声ではなかった。
魔導士セイン本人の声だった。
「王都が無事なことも、ハルトが世界の敵ではないことも、最初から知っていた」
「何を……言っている?」
カイルの顔が固まる。
「メタトロン!」
「再解析します!」
メタトロンの瞳を、膨大な術式が走る。
「深層従属環の下に、別の接続を確認。これは強制服従ではありません」
「では、何だ?」
ノクスが問う。
「本人の同意によって結ばれた――《神契》です」
戦場が静まり返った。
セインは杖を下ろさない。
「俺には、天界に残してきた妹がいる」
その言葉だけが、静かに響いた。
「生まれつき魔力が不安定で、地上の治癒では目覚めさせられなかった。だが第三神ヴァルカスは、妹を救えると言った」
「それを信じて、神に従っているのか?」
ガルドが聞く。
「信じたんじゃない。実際に、あの方の炎が妹の魔力を安定させている」
セインの胸元に、赤い紋章が浮かぶ。
黄金の鎖とは違う。
燃える翼の形をした、契約の証だった。
「俺が契約を破れば、治療も止まる。だから俺は、自分の意思でここにいる」
「そんなの人質と同じじゃない!」
エリナが声を上げた。
「呼び方に意味はない。俺が従えば、妹は救われる。それで十分だ」
「十分じゃない」
ハルトが言った。
「お前も妹も、両方助かる方法を探せばいい」
「簡単に言うな」
「簡単じゃないのか?」
「天界だぞ!」
初めて、セインの声が揺れた。
「神々の本拠地だ! ヴァルカスの炎がなければ妹は助からない! お前がどれほど強くても、奪えばすべて解決する話ではない!」
ハルトは少し考えた。
「じゃあ、炎も妹も一緒に連れてくる」
「話を聞いていたか!?」
「聞いてた。天界にいるんだろ?」
「そうだ!」
「場所が分かってるなら、迎えに行ける」
「そこじゃありません!」
エリナのツッコミが飛ぶ。
ノクスが額を押さえた。
「こやつに不可能を説明するだけ無駄だ。余の城ごと王都を移した男だぞ」
「それ、慰めになってます?」
「なっておらん」
ほんの一瞬だけ、張り詰めていた空気が緩んだ。
だが、セインは笑わなかった。
「言葉だけなら、誰でも言える」
「なら、証明する」
「どうやって」
「天界に行って、連れて帰る」
迷いのない答えだった。
そのとき。
セインの胸元にある赤い紋章が、戦場を焦がすような光を放った。
『面白い』
低い声が、空を震わせる。
ゼノスとは違う。
荒々しく、熱を帯びた神の声。
アクアリアが顔を上げる。
『第三神ヴァルカス……!』
『黒鉄ハルト。貴様が世界の上限を喰らう者なら、我が炎の限界も越えてみせよ』
空間が赤く焼け、巨大な門が現れる。
門の向こうにあったのは、炎に包まれた牢獄だった。
その最上階。
透明な結晶の中で、一人の少女が静かに眠っている。
「妹……!」
セインが初めて杖を下ろした。
『七日後、我ハ治療ノ炎ヲ止メル』
「待て! 契約では、俺が命令に従う限り――」
『契約ハ更新サレタ。黒鉄ハルトヲ連レ、天界第三牢獄マデ来イ』
赤い門の前へ、無数の炎の騎士が並ぶ。
『妹ヲ救イタクバ、我ガ神域ヲ突破シテミセヨ』
門が閉じ始める。
「ハルト!」
セインが振り返った。
その瞳から金の輪は消えていない。
だが、初めてそこに神への怒りが宿っていた。
「俺を救うと言ったな」
「ああ」
「なら証明しろ。神の支配から、妹を取り戻せると!」
ハルトは閉じていく天界の門へ手を伸ばした。
「分かった」
黒い世界捕食界が、その隙間へ食らいつく。
「お前も妹も、まとめて連れて帰る」
閉じるはずだった門が、ハルトの腕一本に止められた。
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