『レベル999で世界最強になった俺、倒した敵の「上限」を奪って無限に進化する ~神話級ボスをワンパンしたら、レベルの概念そのものが壊れた~』
第17話 俺を追放した勇者たちを神の支配から救っていたら、追放の日に隠された真実が判明した
第17話 俺を追放した勇者たちを神の支配から救っていたら、追放の日に隠された真実が判明した
黒い領域が、黄金の鎖へ食らいついた。
世界捕食界。
本来なら神域すら喰らうその力が、わずかに鎖の表面を削ったところで止まる。
「駄目か」
ハルトがつぶやいた。
「深層従属環が、彼らの記憶を盾にしています」
メタトロンの両目に術式が流れる。
「このまま捕食を続ければ、鎖と一緒に四人の記憶まで失われます」
『だから言ったでしょう』
天界からゼノスの声が降る。
『ソノ者タチハ、スデニ神ノ一部ダ』
「違う」
『ナラバ証明シテミセヨ』
四人を包む黄金の鎧が、強い光を放った。
カイルが踏み込む。
防御を無視する《神託聖剣》が、ハルトの胸元へ迫った。
ハルトは剣を受けず、ぎりぎりで身をひねる。続けて飛んできたセインの雷撃も、大地を蹴ってかわした。
その先で、ガルドの戦斧が待ち構えている。
「逃がさん!」
振り下ろされた斧が地面を砕いた。
ハルトはその柄へ片足を乗せ、四人の頭上を飛び越える。
「動きが完全に連動しています!」
エリナが叫んだ。
「昔より連携が良くなってるな」
「感心している場合ですか!?」
「いや。おかしいと思ってる」
ハルトは着地しながら、四人を見た。
「前は、あんな戦い方じゃなかった」
カイルが斬り込み、ガルドが退路を塞ぎ、セインが逃げ道へ魔法を置く。ミリアは三人の力が少しでも減れば、すぐに回復させていた。
正確で、無駄がなく、迷いもない。
だからこそ、勇者パーティーらしくなかった。
「カイルは勝手に突っ込む。セインは巻き込むなと言っても広い魔法を使う。ガルドは二人に怒鳴って、ミリアがため息をつく」
「ずいぶんなパーティーだったんですね」
「でも、そっちのほうが強かった」
命令どおりに動く四人には、互いを信じて補い合う意思がない。
あるのは、神が決めた最も効率のいい動きだけだ。
「メタトロン。あとどれくらい持つ?」
「黄金鎧が生命力を神力へ変換する速度から算出。安全に解除できる残り時間は、五分四十二秒です」
「十分だな」
「この状況でそう言えるの、ハルトさんだけですよ!」
「一人ずつ戻す」
ハルトは四人へ向き直った。
「みんな、手伝ってくれ!」
その一言で、仲間たちが一斉に散った。
ノクスの影が地面を走り、セインの足元から伸び上がる。魔導士の手足を縛るのではなく、次々と開く魔法陣だけを黒く塗り潰した。
「術者を傷つけず、魔法だけを封じろとは。貴様の頼みはいつも面倒だな!」
「頼りにしてる!」
「その一言で魔王を働かせるな!」
エルシアは聖剣アストラを手に、カイルの前へ立つ。
二本の聖剣がぶつかり、白と金の光が弾けた。
「防御を無視する剣なら、受けなければいいだけよ」
エルシアは刃の軌道を読み、アストラの腹でカイルの手首だけを押し返す。二百年前に神々と戦った剣技が、神託聖剣を正面から封じていた。
「ハルト! 長くは止められないわ!」
「十分だ!」
個体七〇八と神兵たちは王都の上へ翼の盾を広げた。リリアはその内側に治癒結界を張り、エリナはメタトロンの解析結果を全員へ伝えていく。
人間も、魔族も、元神兵も、神も。
出会ったときには敵同士だった者たちが、今はハルトの無茶を実現するために動いていた。
「今さらですけど、すごい人数を巻き込みましたね!」
「駄目だったか?」
「逆です! 絶対に四人とも連れ戻してください!」
「分かった!」
「最初からそのつもりだ!」
バルガスが大斧を担ぎ、ガルドへ突進する。
「おい、でかいの! 俺と勝負しろ!」
「邪魔をするな!」
二本の斧が激突した。
衝撃が大地を走り、バルガスの足がわずかに沈む。
「いい一撃だ! だが気に入らねえ!」
「何?」
「戦士が仲間の後ろに隠れて、神様の命令どおり斧を振ってんじゃねえ!」
「俺は、勇者を守る盾だ!」
「なら自分で守れ! 操られたまま振るう斧で、誰を守れる!」
ガルドの黄金鎧が一瞬揺らいだ。
そこへハルトが駆け込む。
「ガルド。黒牙の渓谷を覚えてるか?」
「知らん!」
「吊り橋が落ちて、お前が谷へ落ちかけた場所だ」
「黙れ!」
「俺が荷物の縄を結んで、お前を引き上げた」
「そんな記録は存在しない!」
「記録じゃなくて、お前の手を見ろ」
ガルドの左手には、古い縄の切れ端が巻かれていた。
あの日、引き上げられた後に自分で切り取り、腕へ結んだものだ。
「お前は言った。『借りは必ず返す』って」
「違う……俺は、役立たずのお前を……」
「追放した。そこは本当だ」
ハルトは否定しなかった。
「でも、一緒に戦ったことも本当だろ」
ガルドの顔が歪む。
偽の記憶は、ハルトを一度も役に立たなかった荷物持ちとして見せていた。
だが腕には、自分で残した証拠がある。
「俺は……知っていた」
ガルドの斧が止まった。
「お前が何度も俺たちを支えていたことを。それでも、追放を止めなかった」
「ああ」
「それを認めたら、俺は……自分が情けなくなる」
「情けなくてもいいだろ」
「何?」
「今から変えればいい」
ガルドの瞳にあった金色の輪が、大きく割れた。
記憶と鎖が、初めて離れる。
「ハルト!」
ガルドが叫んだ。
「この鎖を、喰らえ!」
「任せろ!」
黒い領域が一本の鎖だけを包む。
【世界捕食界――対象確定】
【深層従属環・ガルド接続部を捕食】
金色の鎖が砕け、黄金鎧が光の粒となって消えた。
ガルドは片膝をついたが、倒れる前にバルガスが肩を支える。
「重てえな、お前!」
「……お前も大概だ」
「口が利けるなら無事だ!」
「一人目、解放を確認!」
メタトロンが告げる。
「残り四分八秒!」
「次はミリアだ!」
ハルトが振り返る。
ミリアは祈りを続けていた。
だが《完全回帰》が修復しているのは仲間の身体ではない。ひび割れた深層従属環だった。
「やめて、ミリアさん!」
リリアが結界越しに呼びかける。
「その魔法は治癒じゃありません! みんなを戦わせ続けるための拘束です!」
「私は聖女。神の命令に従い、勇者を癒やす者」
「違います!」
リリアは杖を下ろした。
「治すって、元に戻すことだけじゃない。もう戦えない人を休ませるのも、傷つく場所から連れ出すのも、回復役の仕事です!」
ミリアの指が震えた。
自分の魔法で元仲間たちの生命力が削られ続けている。
それでも深層従属環は、治癒をやめることを許さない。
「私には……神託が……」
『ミリア』
弱い水の光が、彼女の前に鏡を作った。
アクアリアだった。
能力上限を失った女神が、残る力で記憶の欠片を水面へ映している。
『あなたが本当に守りたかったものを見なさい』
水鏡に、王都で疫病が広がった日の光景が浮かんだ。
三日間、休まず治療を続けるミリア。
薬草が尽きかけた夜、泥だらけの袋を抱えて戻ってきたハルト。
『神に命じられたから治すのか?』
過去のハルトが尋ねる。
『違うわ。助けを求めている人がいるからよ』
過去のミリアは、疲れた顔で笑っていた。
『なら、俺も薬草を取ってくる』
『あなた、三日間ずっと走っているじゃない。少し休みなさい』
『ミリアも休んでないだろ』
映像が消える。
ミリアの頬を、涙が一筋流れた。
「私が、治したかったのは……」
祈りが止まる。
「誰かを戦わせるためじゃない」
彼女は杖を自分の胸元へ向けた。
「《完全回帰》――対象変更」
治癒の光が、金色の鎖ではなく、鎖に押し込められた本来の記憶を包む。
「私は、私の意思で命を守る!」
深層従属環が内側から割れた。
「ハルト!」
「ああ!」
【深層従属環・ミリア接続部を捕食】
二本目の鎖が消える。
黄金鎧から解放されたミリアを、リリアが受け止めた。
「ごめんなさい、ハルト……私たちは、あなたを――」
「謝るのは後でいい。今は休め」
「……昔から、そればかりね」
ミリアはかすかに笑った。
「二人目、解放!」
エリナが声を上げる。
「これなら残りも――」
「伏せろ!」
ノクスの警告と同時に、空を埋め尽くす魔法陣が開いた。
セインだ。
「二名ノ自我ガ汚染サレタ。救済ノタメ、戦場ゴト浄化スル」
「本人の言葉じゃなくなっています!」
メタトロンが叫ぶ。
「深層従属環が、セインの思考を完全に閉鎖しました!」
「神託魔法――《終天星雨》」
無数の光が、王都へ降り始める。
「させるか!」
解放されたばかりのガルドが、王都の前へ立った。
「《不動城塞》!」
巨大な盾壁が立ち上がる。
「《聖域治癒》!」
ミリアの光が人間、魔族、神兵を区別せず包み込む。
二人はもう、神に命じられて動いていない。
自分たちが守るものを、自分で選んでいた。
「カイル、見ろ!」
ハルトが叫ぶ。
「お前の仲間は、神に背いても誰かを守ってる!」
「違う……あれは、汚染された偽物だ!」
「本当にそう思ってるのか?」
カイルの聖剣が、ハルトへ振り下ろされる。
ハルトは刃をかわし、黄金鎧の胸元をつかんだ。
「追放した日、お前は俺の目を一度も見なかった」
「黙れ!」
「弱いから捨てるって言ったのに、剣を握る手が震えてた」
「黙れ!」
「あの日、お前に何があった?」
世界捕食界が、カイルと天界を結ぶ鎖へ触れる。
捕食はしない。
ただ、鎖に埋め込まれた偽の記憶と、本物の記憶の境目を探る。
次の瞬間、ハルトの脳裏へ一つの光景が流れ込んだ。
追放の前夜。
一人で野営地を離れたカイルが、天から降りた光の前で膝をついている。
『黒鉄ハルトハ、ヤガテ世界ヲ喰ラウ』
光の中から、ゼノスの声が響く。
『勇者カイル。仲間ヲ守リタケレバ、今夜ノウチニ黒鉄ハルトヲ殺セ』
『断る! ハルトは俺たちの仲間だ!』
『ナラバ、勇者パーティー全員ヲ処分スル』
記憶が途切れた。
ハルトの手が、わずかに止まる。
「今のは……」
「見るな!」
カイルがハルトを突き飛ばし、両手で頭を押さえた。
深層従属環が激しく明滅する。
「俺は、お前が役立たずだったから追放した!」
「カイル」
「違う……そうだ。俺は、お前が嫌いだったから……」
自分に言い聞かせるほど、金色の輪へ亀裂が増えていく。
やがてカイルは顔を上げた。
その瞳に、初めて神託ではない苦しさが浮かんでいた。
「俺は……お前を殺せなかった」
震える声で、追放の日に隠した真実を告げる。
「だから、お前を守るために追放したんだ」
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