『レベル999で世界最強になった俺、倒した敵の「上限」を奪って無限に進化する ~神話級ボスをワンパンしたら、レベルの概念そのものが壊れた~』
第16話 俺を追放した勇者たちが神の操り人形になっていたので、今度は俺が救う
第16話 俺を追放した勇者たちが神の操り人形になっていたので、今度は俺が救う
「――この世界から」
黄金の聖剣が、まっすぐハルトへ向けられていた。
その剣を握る男を、ハルトが見間違えるはずはない。
勇者カイル・アークライト。
かつてハルトが荷物持ちとして所属していた、勇者パーティーのリーダーだ。
カイルの背後には、聖女ミリア、魔導士セイン、重戦士ガルドが並んでいる。
ともに旅をした元仲間たち。
そして、ハルトをパーティーから追放した四人だった。
「久しぶりだな」
ハルトが言った。
「再会して最初の言葉が、それか?」
カイルは聖剣を下ろさない。
「王都を消し、魔王と手を組み、天界軍を反乱させた。挙げ句に神まで喰らったそうだな」
「王都は消してない。あそこにあるぞ」
ハルトが後ろを指さす。
魔界へ移された王都では、今も人々が避難と復旧を続けている。
城も、家々も、住民も無事だ。
「見え透いた幻術を使うな!」
カイルが怒鳴った。
「神々は俺たちに真実を見せてくださった。王都はお前の力で跡形もなく消滅した!」
「目の前にあるのに信じないんですか!?」
エリナが思わず口を挟む。
カイルの瞳にある金色の輪が強く光った。
一瞬だけ王都へ向いた視線が、見えない何かに引き戻される。
「世界の敵が作った偽物に惑わされるものか」
「認識阻害を確認しました」
メタトロンが低い声で告げる。
「彼らの視覚情報が、天界の記録へ強制的に置換されています。実物の王都を見ても、破壊された光景として認識している可能性が高いです」
「やっぱり、操られてるのか」
ハルトは元仲間たちの瞳を見た。
四人全員に刻まれた金色の輪。
第十五話まで神兵を縛っていた神命術式によく似ている。
だが、神兵のものより深い。
思考だけでなく、記憶と感情にまで根を張っていた。
「ハルト、下がれ」
ノクスが前へ出る。
「話が通じる状態ではない。まずは拘束する」
「待ってくれ」
「貴様を消すために来た相手だぞ」
「でも、元仲間だ」
「貴様を追放した者たちだろう」
「それと、神に操られてるのは別の話だ」
ハルトは一人で前へ歩き出した。
「お前は本当に、敵にまで甘いな」
「敵かどうか、まだ話してないから分からない」
「今、世界から追放すると宣言されたばかりだが?」
「だから、これから話す」
ノクスは眉間を押さえた。
「エリナ。あれをどうにかしろ」
「私に止められると思いますか?」
「思わん。言ってみただけだ」
「魔王様が諦めないでください!」
カイルの聖剣に、天界の光が集まっていく。
「話すことなどない。神託は下された」
「カイル。神に会ったのか?」
「何?」
「直接会って、王都が消えたのを自分で確かめたのか?」
「神々の言葉を疑うのか!」
「俺は、お前が見たものを聞いてる」
カイルの表情が止まった。
神々から授かった記録。
天界の声。
だが、自分の目で王都の跡を見た記憶はない。
その疑問が生まれた瞬間、瞳の輪が激しく輝いた。
「黙れ!」
カイルが大地を蹴った。
聖剣がハルトへ振り下ろされる。
ハルトは片手で受け止めようとした。
しかし光の刃は手のひらをすり抜け、肩口の外套を切り裂いた。
「ハルト!」
エリナの声が飛ぶ。
ハルトは後方へ跳び、続く斬撃をかわした。
「今の剣、触れなかったぞ」
「当然だ」
カイルが聖剣を構え直す。
「これは第一神ゼノスより授かった《神託聖剣》。世界の敵と認定された者の防御を無視する」
「防御無視ですか!?」
エリナが顔を引きつらせる。
「どんどん能力が雑に強くなってません!?」
「神とはそういうものだ」
エルシアがアストラを抜いた。
「自分たちで決めた規則を、自分たちだけ無視する」
「お前も神の敵か、エルシア!」
魔導士セインが杖を掲げる。
空に千を超える光の矢が現れた。
「神託魔法――《千光葬陣》」
「全軍、障壁!」
ノクスの号令に、人間と魔族が同時に防御術式を展開する。
降り注ぐ光の矢を、アダマスの黄金盾と神兵たちの翼が受け止めた。
「ハルト様へ近づけさせるな!」
個体七〇八が神槍を構える。
「待て!」
ハルトが止めた。
「四人とも、倒さなくていい!」
「攻撃ヲ受ケテイルノダゾ!?」
「分かってる。でも、あいつらの目を見ろ」
カイルたちの瞳に浮かぶ神命の輪。
「自分で戦ってるわけじゃない」
「……了解。ナラバ、救出対象ト判断スル」
個体七〇八は槍の向きを変え、四人ではなく天界の門へ狙いを定めた。
「切り替えが早いですね!」
「ハルトニ仲間ト認定サレタ者ハ、我々ノ仲間デモアル」
「三万六千人でその理屈を共有すると、とんでもない規模になりますね……」
戦場の後方で、倒れたアクアリアがゆっくり身体を起こした。
『あれは……《深層従属環》』
その声に、全員が振り返る。
「知ってるのか?」
『神兵へ与える命令術式とは違います。対象の記憶に偽りを混ぜ、本人の正義感を利用して行動させるものです』
「壊せるか?」
『外側から無理に壊せば、偽りだけでなく本来の記憶まで失われます』
アクアリアはハルトから目をそらした。
『かつて、私も術式の完成に協力しました』
エルシアの表情が険しくなる。
「なら、解き方も知っているでしょう」
『本人が、植えつけられた記憶と現実の矛盾に気づく必要があります。わずかでも自分から神託を疑えば、環に亀裂が入ります』
「話せばいいんだな」
ハルトが再びカイルへ向かう。
『簡単ではありません。疑問が生まれるたび、環は痛みと偽の記憶で思考を塗り潰します』
「それでも、話さないよりいい」
重戦士ガルドが巨大な戦斧を振り下ろす。
ハルトは刃の側面を拳で押し、軌道を大地へそらした。
「相変わらず重い一撃だな、ガルド」
「馴れ馴れしく呼ぶな!」
「お前、前は『もっと腰を入れて受けろ』って毎日言ってただろ」
「俺が、お前に……?」
ガルドの動きが止まる。
金色の輪に、小さな亀裂が走った。
「聞くな、ガルド!」
セインが雷撃を放つ。
ハルトはガルドを抱えて横へ跳び、二人まとめて雷をかわした。
「なぜ俺を助ける!」
「仲間だったから」
「俺たちは、お前を捨てたんだぞ!」
「それでも、一緒に旅したことまで消えるわけじゃない」
ガルドの輪に、二本目の亀裂が入った。
「やめろ!」
カイルの神託聖剣が迫る。
ハルトはガルドを後ろへ押し、攻撃をかわす。
「世界捕食界を使えば、あの輪だけ食べられませんか!?」
エリナが尋ねる。
「今は無理だ」
メタトロンが代わりに答えた。
「従属環と四人の記憶が完全に融合しています。敵性指定を行えば、彼らの記憶まで捕食する危険があります」
「じゃあ、また自分で切り離してもらうしかないんですね」
「そのとおりです」
聖女ミリアが祈りを捧げる。
「神託治癒――《完全回帰》」
ガルドの輪に入った亀裂が、塞がり始めた。
「まずい。聖女が術式まで治してるぞ!」
バルガスが叫ぶ。
ハルトは一瞬でミリアの前へ移動した。
「ミリア。王都で疫病が流行ったとき、三日間ずっと治療してたのを覚えてるか?」
「黙りなさい!」
「お前は、神に命令されたから助けたんじゃない。目の前で困ってる人がいたからだって言ってた」
「黙って!」
「今、王都の人たちは生きてる。それでも俺を倒すのか?」
ミリアの杖が止まった。
視線が、遠くの王都へ向く。
金色の輪が偽物として塗り潰そうとする。
だが王都から、一人の少女が声を上げた。
「ミリア様!」
かつて彼女に救われた住民だった。
「私たちは生きています! ハルトさんが、王都を守ってくれたんです!」
続いて、城壁の上からいくつもの声が上がる。
「勇者様、私たちはここです!」
「王都は消えていません!」
「どうか、自分の目で見てください!」
金色の輪と、目の前の現実がぶつかり合う。
ミリアの手から杖が落ちた。
「私、は……王都を、守るために……」
「ミリア!」
カイルが呼ぶ。
「神託を疑うな!」
その命令に反して、ミリアはハルトを見た。
瞳の輪へ、はっきりと亀裂が走る。
「ハルト……」
震える声が、確かに届いた。
「私たちを、止めて」
直後、天界の門から金色の鎖が伸び、四人の身体を包んだ。
『自我汚染ヲ確認』
第一神ゼノスの声が響く。
『深層従属環、第二段階ヘ移行』
四人の輪が広がり、全身を覆う黄金の鎧へ変わっていく。
「戦闘能力、急上昇!」
メタトロンが警告する。
「四人の生命力を神力へ変換しています。このまま長時間戦わせれば、元へ戻せなくなる危険があります!」
「ゼノス!」
ハルトが天界を見上げた。
『勇者ハ神ノ剣。剣ニ意思ハ不要』
「違う」
ハルトの足元に、黒い光が集まる。
「こいつらは、俺を追放した」
カイルの聖剣が輝く。
「腹も立ったし、見返したいとも思った」
ガルドが斧を構え、セインの背後に魔法陣が展開する。
「でも――だからって、神の道具になっていいわけじゃない」
ハルトは四人をまっすぐ見た。
「今度は俺が、お前たちを追放する」
世界捕食界が、ハルトの周囲に小さく展開される。
狙うのは四人ではない。
彼らと天界をつなぐ、金色の鎖ただ一つ。
「神の支配から」
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