第7話 魔王が会いにきたので、とりあえず話を聞く
王都へ向かうことを決めた翌朝。
俺は、アルディアの町の門前に立っていた。
同行するのは。
受付嬢。
バルガス。
聖女リリア。
天律執行者メタトロン。
魔王軍第六将ザルガ。
そして、ゴブリンキングだった。
「多くないか?」
俺が言うと。
受付嬢が勢いよく振り返った。
「誰のせいだと思っているんですか!」
「俺か?」
「ほかに誰がいるんですか!」
門前には。
町の住民や冒険者たちが集まっていた。
俺たちを見送るためらしい。
「ハルトさん、王都でも頑張ってください!」
「神様なんかぶっ飛ばしてくれ!」
「町を救ってくれてありがとう!」
次々に声が飛んでくる。
俺は少し困りながら、手を上げた。
人に見送られるのは慣れていない。
勇者パーティーにいたころ。
町へ入れば、歓迎されるのはレグルスたちだった。
俺は荷物を運び。
馬車を片づけ。
宿の裏口から入っていた。
出発するときも同じだ。
町の人間が勇者を見送る横で。
俺は全員分の荷物を背負い、最後尾を歩いていた。
今は。
俺の名前が呼ばれている。
不思議な気分だった。
「ハルトさん」
受付嬢が、小声で呼ぶ。
「何だ?」
「少しくらい、何か言った方がいいですよ」
「何を?」
「見送りに来てくれた皆さんへです」
俺は集まった人々を見る。
全員が。
こちらを期待するような目で見ていた。
「王都へ行ってくる」
俺が言うと。
受付嬢が額へ手を当てた。
「それだけですか?」
「戻ってくる」
今度は。
町の人々から歓声が上がった。
どうやら。
これでよかったらしい。
「絶対に戻ってきてください!」
「また串焼きを食べに来てくれよ!」
串焼き屋の店主が手を振っている。
俺はうなずいた。
「ああ」
戻ってくる理由がある。
それは。
悪くないことだった。
◇
「なぜ私まで同行することになったのでしょうか」
アルディアを出てから。
受付嬢が何度目か分からない質問をした。
彼女の名前は。
エリナというらしい。
今さら知った。
「王都のギルドへ報告があるんだろう?」
俺が答える。
「それはあります」
「なら問題ない」
「あります!」
エリナが声を上げる。
「報告だけなら、ギルドの馬車を使えばよかったんです!」
「この方が早い」
俺たちは。
空を飛んでいた。
正確には。
俺が《天律支配》で重力を弱め。
《飛翔》で全員を運んでいる。
俺の周囲には。
透明な足場のような空間が作られていた。
その上に。
全員が乗っている。
眼下には。
森や街道が流れていく。
普通の馬車なら。
王都まで三日。
今の速度なら。
半日もかからない。
「空を飛ぶなんて聞いていません!」
エリナは床へしがみついていた。
「落ちない」
「理屈では分かっています!」
「なら大丈夫だ」
「気持ちの問題です!」
隣では。
バルガスも顔を青くしている。
「ハルト」
「何だ?」
「もう少し低く飛べねえか?」
「低いと木に当たる」
「なら遅くしてくれ!」
「王都へ急いだ方がいいと言っただろう」
「限度がある!」
バルガスは。
Bランク冒険者だ。
空を飛ぶ魔物とも戦ったことがあるはずだが。
自分が飛ぶのは別らしい。
一方。
リリアは周囲の景色を眺めていた。
「きれいです」
「怖くないのか?」
「少しだけ」
リリアは微笑む。
「でも、ハルトさんが落とさないことは分かっていますから」
「そうか」
その後ろでは。
ザルガが腕を組んで立っている。
『コノ程度ノ飛行デ騒グナ』
「お前は翼があるから言えるんだ!」
バルガスが怒鳴る。
『地上ヲ這ウ人間ハ大変ダナ』
「今はお前も床に乗ってるだろうが!」
ザルガの翼は。
俺が神性だけを燃やした影響で。
まだ完全には回復していない。
飛ぼうと思えば飛べるらしいが。
長距離は難しいという。
ゴブリンキングは。
透明な床の中央で正座していた。
『高イ』
「怖いのか?」
俺が尋ねる。
『怖クナイ』
「震えているぞ」
『寒イダケダ』
空の上は。
確かに地上より少し寒い。
だが。
ゴブリンキングの歯が鳴っているのは。
寒さだけではないだろう。
メタトロンだけは。
空中に浮かびながら。
無表情で俺の隣を飛んでいた。
白銀の鎧は砕け。
六枚あった翼も。
今は二枚だけ。
それでも。
飛行能力は残っているらしい。
「メタトロン」
『何ダ』
「王都まで、あとどのくらいだ?」
金色の瞳が。
遠くを見る。
『現在速度ヲ維持スル場合、四十分後ニ到着』
「そうか」
『ダガ』
メタトロンが。
進行方向へ視線を向けた。
『前方ニ、高密度魔力反応ヲ確認』
「魔物か?」
『不明』
ザルガも。
何かを感じたらしい。
表情が変わった。
『コノ魔力……』
「知っているのか?」
『マサカ』
ザルガが。
空の先を見つめる。
雲の向こう。
黒い点が見えた。
点は。
少しずつ大きくなる。
人影。
誰かが。
空中に立っている。
長い黒髪。
頭から伸びる二本の角。
黒い外套。
武器は持っていない。
ただ立っているだけ。
それなのに。
周囲の空が歪んでいる。
俺たちが近づくほど。
その男から感じる力が強くなる。
ザルガが。
透明な床へ膝をついた。
『魔王様……』
全員の動きが止まった。
「魔王?」
バルガスがつぶやく。
『ソウダ』
ザルガの声が震えている。
『魔王軍ヲ統ベル御方』
人類が。
長年討伐を目指してきた存在。
勇者レグルスが。
聖剣を持って倒すと宣言していた相手。
その魔王本人が。
俺たちの前にいた。
◇
「会いたかった」
魔王は。
静かな声で言った。
敵意は感じない。
だが。
油断できる相手ではなかった。
これまで戦った誰よりも。
力が大きい。
終焉竜。
ザルガ。
メタトロン。
そのどれとも違う。
力が外へあふれていない。
すべて。
体の内側へ圧縮されている。
深い海のようだった。
表面は静かだが。
どれほど底があるのか分からない。
俺の目の前に。
青白い文字が浮かぶ。
《超高位魔族を確認》
《個体名――魔王ノクス》
《推定レベル――測定不能》
《警告》
《対象の能力解析に失敗しました》
メタトロンに続いて。
二人目の測定不能。
だが。
メタトロンとは違う。
あのときは。
神性によって数値が隠されていた。
目の前の魔王は。
単純に。
強すぎて測れない。
そんな気がした。
「黒鉄ハルト」
魔王ノクスが。
俺の名前を呼ぶ。
「俺を知っているのか?」
「数日前までは知らなかった」
魔王は薄く笑う。
「だが、今では魔界で知らぬ者はいない」
「そんなに有名になったのか」
「終焉竜を倒し、我が配下を二人も従えた」
魔王の視線が。
ゴブリンキングとザルガへ向く。
ゴブリンキングは。
さらに深く頭を下げた。
ザルガも。
膝をついたまま動かない。
「従えたつもりはない」
「では、なぜ同行している?」
「情報を聞くためだ」
『我ハ配下ニナッタ!』
ゴブリンキングが。
突然口を挟む。
「そうなのか?」
『ソウダ!』
「初めて聞いた」
『前ニ言ッタ!』
そういえば。
王国へ渡さない代わりに。
配下になると言っていた気がする。
だが。
《絶対命令》があるので。
特に必要性を感じていなかった。
魔王ノクスが。
小さく笑った。
「面白い男だ」
「よく言われる」
「褒めているとは限らない」
「そうか」
魔王の視線が。
今度はメタトロンへ向く。
「神の処刑兵器まで連れているとはな」
『現在、神々トノ命令系統ハ切断サレテイル』
メタトロンが答える。
「ならば、今は自由か」
『自由ノ定義ヲ解析中』
「そうか」
魔王は。
少しだけ優しい目をした。
神々の使いであるメタトロンを。
憎んでいる様子はない。
「ハルトさん」
エリナが。
俺の服の袖を引いた。
「何だ?」
「逃げた方がいいのでは……」
小声だった。
だが。
魔王には聞こえていたらしい。
「逃げる必要はない」
「そ、そうですか?」
「少なくとも、今すぐ殺すつもりはない」
「安心できる言葉ではありません!」
エリナが。
俺の後ろへ隠れる。
バルガスは。
戦斧へ手をかけていた。
「魔王が、こんな場所で何の用だ」
「黒鉄ハルトと話をしに来た」
「話?」
「ああ」
魔王は。
俺だけを見る。
「神々を倒す気はあるか?」
いきなりだった。
エリナが。
目を見開く。
バルガスも。
言葉を失った。
「倒すと決めたわけではない」
俺は答えた。
「話し合いに行く」
「神々と?」
「ああ」
「話し合いができる相手だと思っているのか?」
「できないなら、そのとき考える」
魔王は。
しばらく黙ったあと。
声を出して笑った。
「本当に面白い」
空気が震える。
笑っただけで。
周囲の雲が吹き飛んだ。
エリナが。
再び透明な床へしがみつく。
「笑っただけで雲が消えましたよ!」
「そうだな」
「落ち着いている場合ですか!」
魔王は。
笑いを止める。
「神々は話を聞かない」
「知っているのか?」
「ああ」
魔王の表情が。
わずかに冷たくなる。
「我ら魔族は、神々に作られた」
「作られた?」
「この世界を管理するための道具としてな」
メタトロンが。
魔王を見る。
『記録ニ存在シナイ』
「神々に都合の悪い記録は消されている」
「何のための道具だ?」
俺が尋ねる。
「人間を成長させるためだ」
魔王の答えに。
リリアが息をのむ。
「人間を……?」
「敵がいなければ、人は強くならない」
魔王は続ける。
「魔物を配置し、魔族を生み出し、ときに魔王を立てる」
「神々が?」
「ああ」
「では、魔王軍と人類の戦争も……」
リリアの顔が青ざめる。
「神々が仕組んだものだ」
魔王の声に。
怒りが混じる。
「人間が強くなるたび、神々はその力を回収する」
「回収?」
「勇者が死んだとき、その魂は天界へ運ばれる」
魔王は。
俺の腰にある聖剣を見る。
「そして、蓄えた経験と力を神々へ捧げる」
聖剣エクスレイヴ。
俺を真の所有者として選んだ剣。
これも。
神々が作ったものなのだろうか。
「勇者は世界を救う存在ではない」
魔王は言った。
「神々へ力を届ける器だ」
誰も。
すぐには言葉を返せなかった。
リリアが。
震える声で尋ねる。
「それでは、これまで命を懸けて戦ってきた勇者たちは……」
「神々の餌になった」
静かな言葉だった。
その残酷さが。
かえって強く伝わった。
「証拠はあるのか?」
俺が尋ねる。
「ある」
魔王が。
片手を上げる。
空間が裂けた。
黒い穴が開く。
その中から。
一つの結晶が現れた。
人の頭ほどの大きさ。
透明な結晶の内部には。
無数の光が渦巻いている。
「これは?」
「勇者の魂の欠片だ」
リリアが。
口元を押さえる。
「そんな……」
『神性反応ヲ確認』
メタトロンが。
結晶を見つめる。
『内部ニ、複数ノ人間魂魄ヲ検出』
「本物か」
俺が聞くと。
『肯定』
魔王は。
結晶を俺へ投げた。
俺は片手で受け止める。
触れた瞬間。
無数の声が聞こえた。
助けて。
苦しい。
帰りたい。
声は。
すぐに消えた。
結晶の中で。
何かが眠っている。
「どこで手に入れた?」
「天界から奪った」
「天界へ行ったことがあるのか?」
「一度だけな」
魔王の外套が。
風に揺れる。
「二百年前、天界門を開いた」
「何があった?」
「敗北した」
あっさりと答えた。
だが。
その目には。
深い悔しさがあった。
「五柱の神に囲まれ、力の大半を奪われた」
「生きて戻ったのか」
「ああ」
「強いな」
俺が言うと。
魔王は少し驚いた顔をした。
「敗北した話を聞いて、最初に出る言葉がそれか?」
「五人に囲まれて生き残ったんだろう」
「そうだ」
「なら強い」
魔王は。
しばらく俺を見たあと。
再び笑った。
今度は。
先ほどよりも小さく。
「やはり、気に入った」
「俺はまだ、お前を信用していない」
「それでいい」
魔王は答える。
「むしろ、簡単に信じる者の方が危うい」
「目的は何だ?」
「神々を倒す」
「そのために、俺を味方にしたいのか?」
「できればな」
「断ったら?」
空気が。
少しだけ重くなる。
バルガスが。
戦斧を握り直す。
ザルガとゴブリンキングは。
息を止めていた。
魔王ノクスは。
俺を見たまま答える。
「力を確かめる」
「戦うということか?」
「ああ」
「今ここで?」
「そのつもりで来た」
エリナが。
悲鳴に近い声を出す。
「待ってください!」
全員が。
彼女を見る。
「ここで戦ったら、どうなると思っているんですか!」
「町からは離れている」
俺が言う。
「そういう問題ではありません!」
眼下には。
広い森が続いている。
近くに村や町はない。
だが。
俺と魔王が戦えば。
どの範囲まで被害が出るか分からない。
「エリナの言うとおりだ」
俺は言った。
魔王が。
眉を上げる。
「戦わないのか?」
「場所を変える」
俺は。
《天律支配》を使う。
空間距離へ干渉する。
遠く。
地平線の先にある。
巨大な荒野を感じ取る。
人も。
魔物も。
ほとんど存在しない場所。
俺たちと荒野の間にある距離を。
一時的に消す。
景色が歪んだ。
次の瞬間。
俺たちは。
空から荒野の上へ移動していた。
エリナが。
目を何度も瞬かせる。
「今……何が……」
「距離をなくした」
「王都まで使えばよかったのでは?」
「それでは景色が見えない」
「観光気分だったんですか!」
そんなつもりはない。
だが。
空から見る景色は。
悪くなかった。
魔王は。
周囲を見回す。
「空間転移ではないな」
「距離を消した」
「神の権能か」
「メタトロンから奪った」
その言葉に。
魔王の笑みが消えた。
初めて。
本気で驚いたらしい。
「神の権能を奪った?」
「ああ」
「一度見せてもらえるか?」
「戦えば分かる」
魔王の口元に。
再び笑みが浮かぶ。
「いいだろう」
エリナたちを。
荒野の端へ移動させる。
俺と魔王から。
十分な距離を取る。
さらに。
透明な空間障壁を作った。
これなら。
多少の衝撃には耐えられる。
「ハルトさん!」
エリナが。
障壁の向こうから叫ぶ。
「本当に戦うんですか!」
「少しだけだ」
「あなたの少しは信用できません!」
「手加減する」
「もっと信用できません!」
魔王ノクスが。
そのやり取りを見ていた。
「信頼されているな」
「そう見えるか?」
「ああ」
俺には。
怒られているようにしか見えない。
「条件は?」
俺は魔王へ尋ねる。
「どちらかが敗北を認めるまで」
「死ぬまでではないのか?」
「お前を殺すつもりはない」
「俺もだ」
「随分と余裕だな」
「殺したら話を聞けない」
魔王の笑みが。
少し引きつった。
「お前は敵を生け捕りにする趣味でもあるのか?」
「素材が残る」
「素材?」
「討伐証明部位が必要だ」
魔王が。
初めて困った顔をした。
「私を冒険者ギルドへ持っていくつもりか?」
「依頼が出ているなら」
「出ているだろうな」
魔王の懸賞金。
いくらだろう。
ザルガでさえ。
かなりの額になるはずだ。
魔王なら。
一生働かなくていいほどの報酬が出るかもしれない。
「できれば体は残したい」
「……本気で言っているのか?」
「ああ」
魔王は。
しばらく沈黙したあと。
片手で顔を覆った。
「神々が恐れる理由が、少し分かった気がする」
「始めていいか?」
「ああ」
魔王が。
ゆっくりと両手を広げる。
武器は持たない。
だが。
周囲の空気が変わった。
黒い魔力が。
静かにあふれ出す。
荒野の地面が。
音もなく崩れていく。
岩が浮かび。
砂が空へ昇る。
空が暗くなる。
太陽が。
黒い魔力に覆われていく。
「我が名はノクス」
魔王の角が。
黒い光を放つ。
「第六代魔王」
その背後に。
巨大な影が現れる。
竜。
巨人。
獣。
無数の怪物を混ぜ合わせたような。
闇の化身。
「魔族を統べる者として」
影が。
ゆっくりと目を開く。
「人類最強の力を確かめる」
俺の目の前に。
青白い文字が浮かぶ。
《魔王ノクスが戦闘状態へ移行しました》
《対象の力により、周辺の世界法則が上書きされています》
《天律支配への干渉を確認》
《警告》
《対象は神性を持たず、神の領域へ到達しています》
神ではない。
それでも。
神と同じ領域にいる。
魔王は。
俺がこれまで出会った中で。
間違いなく。
最も強い相手だった。
「こちらも名乗った方がいいか?」
俺が尋ねると。
魔王が笑う。
「必要ない」
黒い魔力が。
爆発する。
「お前の名は、すでに世界が知っている」
次の瞬間。
魔王が消えた。
俺の目の前へ。
拳が現れる。
受け止める。
ドンッ!
触れた瞬間。
荒野の地面が。
数キロにわたって沈んだ。
空に。
巨大な亀裂が走る。
俺の体が。
初めて。
大きく後方へ吹き飛ばされた。
百メートル。
一キロ。
十キロ。
足で地面を削りながら。
ようやく止まる。
右腕が。
わずかにしびれていた。
俺は。
自分の手を見る。
「強いな」
遠くから。
魔王の声が聞こえる。
「まだ、始まったばかりだ」
魔王が。
再び俺の前へ現れる。
今度は。
俺が拳を振るった。
魔王も。
正面から拳を合わせる。
二つの拳が。
ぶつかった。
音はしなかった。
一瞬。
世界が静止する。
そして。
衝撃が解放された。
荒野が。
真っ二つに割れた。
空を覆っていた雲が。
すべて消滅する。
遠くの山脈が。
大きく揺れた。
障壁の中で。
エリナが絶叫している。
「少しだけって言いましたよね!?」
聞こえたが。
今は返事をする余裕がなかった。
魔王ノクスは。
俺の拳を受け止めながら。
楽しそうに笑っていた。
「素晴らしい」
「そちらも」
「これほどの相手は、二百年ぶりだ」
「神か?」
「ああ」
魔王の瞳が。
黒く染まる。
「だが」
その力が。
さらに膨れ上がる。
「神より、お前の方が面白い」
魔王の背後で。
闇の化身が大きく口を開ける。
世界の光が。
吸い込まれていく。
俺の目の前に。
警告が浮かぶ。
《超高密度魔力を確認》
《対象の固有領域が展開されます》
《領域名――神喰らいの夜》
荒野の景色が。
黒く塗りつぶされていく。
空も。
地面も。
すべてが闇へ変わる。
魔王の声だけが。
響いた。
「ここからは」
無数の赤い瞳が。
闇の中で開く。
「少し本気でいこう」
俺は拳を握る。
久しぶりだった。
倒せるかどうかを。
すぐには判断できない相手。
それでも。
恐怖はなかった。
むしろ。
胸の奥が熱くなる。
俺も。
少しだけ。
本気を出してみたくなった。
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