第6話 神の使徒を倒したら、世界のルールを奪った


空に浮かぶ巨大な目が。


初めて、恐怖に揺れた。


『貴様……』


神の声が低くなる。


『下界ノ人間ガ、我ラヲ脅スカ』


「先に力を奪おうとしたのは、そちらだろう」


俺は手のひらに浮かぶ黒い炎を見る。


魔王軍第六将ザルガから得た《獄炎支配》。


燃やす対象を、自分で選ぶことができる。


物質。


魔力。


魂。


そして。


神の力すら。


今の俺なら燃やせるらしい。


『愚カナ』


空の目から、金色の光があふれ出した。


『神ハ、貴様ラ人間トハ異ナル』


光が町を覆う。


地上にいた人々が、次々と膝をついた。


冒険者たちも。


兵士たちも。


聖女リリアたちも。


誰もが顔を青ざめさせている。


空から降り注ぐ圧力が。


人間を無理やり服従させようとしていた。


『頭ヲ垂レヨ』


神の声が響く。


『我ラハ、世界ノ支配者デアル』


広場の石畳に亀裂が走る。


建物の屋根が軋む。


人々は、立っていることすらできない。


「くっ……!」


バルガスが戦斧を杖代わりにしながら、必死に耐えている。


「これが……神の力……!」


受付嬢も机へつかまり、震えていた。


「息が……できません……」


俺は周囲を見回した。


どうやら。


俺には何も感じない。


少し風が強くなった程度だ。


『黒鉄ハルト』


神の目が俺をにらむ。


『ナゼ、膝ヲツカヌ』


「膝をつく理由がない」


『我ガ威光ガ、効カヌダト……?』


神が驚いている。


だが。


俺からすれば。


この程度で驚かれる方が不思議だった。


「やめろ」


俺は空へ向かって言った。


『何?』


「町の人間が苦しんでいる」


『下等ナル者ガ、神ノ前デ苦シムノハ当然ノコト』


「そうか」


なら。


話し合いは無理らしい。


俺は《絶対命令》を使う。


「消えろ」


空から降り注いでいた圧力が。


一瞬で消滅した。


人々が大きく息を吸う。


神の目が見開かれた。


『我ガ神威ヲ、消シタ……?』


「神の力も、魔力の一種らしいな」


『違ウ!』


巨大な目が激しく震える。


『神威ハ、世界ヲ統ベル絶対ノ力!』


「絶対ではなかったようだ」


『黙レ!』


空の亀裂が、さらに大きく開いた。


金色の雷が走る。


亀裂の向こう。


雲よりも高い場所から。


一つの人影が降りてくる。


白い翼。


金色の鎧。


光で作られた長槍。


人間に似た姿をしているが。


その背中には、六枚の翼が生えていた。


『神罰執行体ヲ召喚スル』


空の目が告げる。


『神ノ意思ニ逆ラウ者ヲ滅ボス、天上ノ処刑者』


白い翼の存在が、ゆっくりと目を開いた。


金色の瞳。


感情はない。


まるで人形のようだった。


『個体名、黒鉄ハルト』


処刑者が俺を見る。


『世界規格ノ超過ヲ確認』


俺の前に。


青白い文字が浮かんだ。


《神性生命体を確認》


《名称――天律執行者メタトロン》


《推定レベル――測定不能》


測定不能。


初めてだった。


俺以外の存在に。


その表示が出たのは。


少しだけ期待する。


「強いのか?」


『対象ノ発言ヲ無意味ト判断』


メタトロンが槍を構えた。


『神命ニ基ヅキ、対象ヲ消去スル』


「話はできないのか?」


『不要』


「そうか」


後ろから。


受付嬢の声が聞こえた。


「ハルトさん!」


振り返る。


彼女はまだ顔色が悪かった。


それでも。


俺を止めようと、必死に立っている。


「あれと戦うつもりですか?」


「ああ」


「相手は神の使いです!」


「そうらしいな」


「今までの魔物とは違います!」


「それも分かっている」


受付嬢の手が震える。


「もし、勝てなかったら……」


町は滅びる。


それを言おうとして。


言葉にできなかったらしい。


「大丈夫だ」


俺は答えた。


「町には攻撃させない」


「ですが」


「それに」


俺は空のメタトロンを見る。


久しぶりに。


どのくらい強いのか分からない相手だ。


「少し楽しみだ」


受付嬢は。


言葉を失った。



『処刑ヲ開始スル』


メタトロンが槍を振る。


その瞬間。


世界から音が消えた。


風。


人々の声。


建物の軋み。


すべてが聞こえなくなる。


次に。


色が消えた。


空も。


町も。


人間も。


白と黒だけの世界へ変わる。


俺以外の全員が。


動きを止めていた。


火の粉すら。


空中で静止している。


「時間停止か」


俺がつぶやく。


だが。


声は普通に出た。


体も動く。


《魂魄耐性上限を捕食》


《時間干渉への抵抗を獲得しています》


ザルガから能力上限を奪ったことで。


時間停止にも抵抗できるようになったらしい。


メタトロンの表情が。


初めてわずかに変化した。


『行動ヲ確認』


「時間を止めたのか?」


『対象ノ時間抵抗能力ヲ確認』


「質問に答えてくれ」


『不要』


メタトロンが消える。


俺の目の前へ現れた。


光の槍が。


胸を貫こうと迫る。


俺は手のひらで受け止めた。


槍の先端が触れた瞬間。


強い衝撃が腕へ伝わる。


今まで戦った敵より。


はるかに重い一撃だった。


俺の体が。


空中を後ろへ押される。


十メートル。


百メートル。


町の上空を越え。


森の上まで移動したところで。


ようやく止まった。


「なるほど」


少し感心する。


俺を動かした相手は。


十年間で、ほとんどいなかった。


『防御ヲ確認』


メタトロンが追ってくる。


『第一処刑術式デノ消去ニ失敗』


槍を引く。


その穂先に。


七色の光が集まった。


『第二処刑術式ヲ実行』


空に巨大な円が現れる。


円の内側には。


見たことのない文字が無数に刻まれていた。


『対象ノ存在情報ヲ削除スル』


「存在情報?」


『肉体、魂、記憶、因果』


七色の光が。


俺の周囲を囲む。


『全テヲ世界カラ消去スル』


光が閉じる。


俺の視界が白く染まった。


体が。


少しずつ薄くなる。


手の輪郭がぼやけ。


腕が透けていく。


痛みはない。


だが。


俺という存在そのものが。


世界から消されようとしている。


《警告》


《存在消去干渉を確認》


《現在の耐性では完全防御できません》


初めて。


警告が出た。


このままでは。


本当に消えるらしい。


「これは少し危ないな」


『処刑ヲ継続』


メタトロンの声が響く。


俺は自分の体を見る。


存在を消す力。


防ぐことはできない。


なら。


別の方法を使えばいい。


「消えろ」


《絶対命令》を使う。


だが。


七色の光は消えなかった。


『神律ニヨル処刑ハ、下位能力デハ停止デキナイ』


「そうか」


絶対命令でも。


神の力には届かない場合があるらしい。


なら。


燃やす。


俺は手のひらに。


黒い炎を生み出す。


《獄炎支配》。


燃やす対象を選ぶ。


今。


俺を消しているもの。


神律。


世界のルールを利用した処刑術式。


俺は炎へ命じた。


「この力だけを燃やせ」


黒炎が。


俺の体を包む。


七色の光と。


黒い炎がぶつかる。


火花が散る。


周囲の空間が。


何度も歪む。


俺の体を消そうとする神律。


それを燃やそうとする獄炎。


しばらくの間。


二つの力が拮抗した。


そして。


パキン。


小さな音が鳴る。


七色の光に。


亀裂が入った。


『何……』


黒炎が亀裂へ入り込む。


神律を。


内側から燃やしていく。


光が。


次々と黒へ染まる。


最後には。


七色の処刑術式すべてが。


炎となって消滅した。


俺の体に色が戻る。


輪郭も。


完全に元へ戻った。


《存在消去への抵抗に成功》


《特殊耐性――存在固定を獲得》


「危なかった」


俺は自分の手を開く。


消えかけた感覚は残っている。


今の攻撃は。


これまでのものとは違った。


力が強いだけではない。


世界のルールを使い。


相手そのものを消す。


神の戦いとは。


こういうものらしい。


『理解不能』


メタトロンが、初めて感情を見せた。


驚き。


わずかな混乱。


『神律ハ、下界ノ力デ破壊不可能』


「現に壊れた」


『否定スル』


「否定しても結果は変わらない」


『再実行スル』


空に。


先ほどの何倍もの魔法陣が展開される。


一つ。


十。


百。


空全体が。


七色の円で埋め尽くされる。


『第三処刑術式』


メタトロンの六枚の翼が。


すべて広がった。


『世界隔離』


町を含む一帯が。


透明な壁に包まれる。


外の景色が見えなくなる。


完全に。


世界から切り離された空間。


『対象ヲ含ム領域ゴト消去スル』


「町ごとか?」


『対象ノ消去ヲ最優先トスル』


「関係のない人間もいる」


『許容損失』


その言葉を聞いた瞬間。


俺の中で。


楽しみが消えた。


強い相手と戦えることは。


少し嬉しかった。


だが。


町の人間を巻き込んでまで。


俺を倒そうとするなら。


遊ぶ必要はない。


「許容できない」


『対象ノ意見ハ不要』


「なら」


俺はメタトロンを見る。


「すぐに終わらせる」


全身の力を抑える。


今までより。


さらに慎重に。


相手は神性生命体。


どの程度の攻撃なら。


倒せるのか分からない。


だが。


町を消そうとしている術式を。


発動させる時間は与えない。


俺は空を蹴った。


メタトロンの目の前へ移動する。


『高速移動ヲ――』


拳を振る。


メタトロンが。


光の槍で受け止める。


ゴンッ!


槍が大きく曲がった。


メタトロンの体が。


空中を滑る。


だが。


吹き飛ばなかった。


六枚の翼で。


衝撃を受け止めている。


『物理攻撃力ヲ再評価』


「耐えたか」


『対象ノ危険度ヲ上方修正』


メタトロンの鎧が。


より強い光を放つ。


『制限解除』


金色だった鎧が。


白銀へ変化する。


翼が。


六枚から十二枚へ増えた。


体の周囲に。


巨大な光輪が現れる。


《警告》


《天律執行者メタトロンの完全起動を確認》


《神性出力――十二パーセント》


十二パーセント。


まだ。


全力ではないらしい。


『対象ヲ、最上位危険個体ト認定』


メタトロンの声が。


先ほどよりも重くなる。


『神罰兵装ヲ解放』


空の魔法陣から。


無数の武器が現れた。


剣。


槍。


斧。


弓。


鎖。


すべてが光で作られている。


数は。


数えきれない。


『天上武装――万象処刑』


武器が。


一斉にこちらへ向く。


『攻撃開始』


光の雨が降った。


俺は避けない。


町を守るためには。


ここで止める必要がある。


俺は両手を広げる。


《獄炎支配》。


黒い炎を。


町の上空へ広げる。


巨大な炎の壁。


光の武器が。


次々と黒炎へ突き刺さる。


剣が燃える。


槍が燃える。


神の力で作られた武器が。


すべて炎に飲み込まれ。


消えていく。


だが。


数が多い。


黒炎の壁を抜けた一本の槍が。


俺の肩へ突き刺さった。


「……」


初めて。


俺の体へ。


武器が刺さった。


深くはない。


だが。


血が一滴。


空へ落ちる。


地上から。


悲鳴が聞こえた。


「ハルトさん!」


リリアの声。


俺は肩の槍を抜く。


傷は。


すぐに塞がった。


痛みもほとんどない。


それでも。


俺へ傷をつけた。


「やはり強いな」


『損傷ヲ確認』


メタトロンの光が強くなる。


『攻撃有効』


「そうらしい」


『処刑ヲ継続スル』


再び。


無数の武器が作られる。


だが。


同じ攻撃を待つ必要はない。


俺は。


抜き取った光の槍を見る。


神の力で作られた武器。


手の中で。


まだ強い光を放っている。


《解析可能な神性物質を確認》


《捕食を実行しますか?》


「できるのか」


青白い文字が浮かぶ。


《神敵の効果により、神性存在および神性物質を捕食可能》


俺は槍を握りしめる。


「捕食する」


光の槍が。


粒子へ変わる。


そのまま。


俺の手の中へ吸い込まれた。


《下位神性を捕食》


《神性値が上昇しました》


《神性武装への耐性を獲得》


《神力の一部使用が可能になりました》


体の中へ。


新しい力が流れ込む。


魔力とは違う。


もっと。


世界の根本に近い力。


神力。


俺は手のひらを開く。


先ほどの光の槍と。


まったく同じものが作られた。


メタトロンの動きが止まる。


『神罰兵装ノ複製ヲ確認』


「こう使うのか」


『下界ノ者ガ、神力ヲ使用シタ……?』


「使えた」


『許可サレテイナイ』


「許可は必要なのか?」


『神力ハ、神ニ選バレタ者ノミガ扱ウ』


「なら」


俺は光の槍を構える。


「今、俺が自分を選んだ」


槍を投げる。


空気を裂き。


メタトロンへ迫る。


メタトロンが光の盾を作り出す。


槍と盾がぶつかった。


直後。


盾が砕けた。


槍はそのまま。


メタトロンの肩を貫く。


『損傷……』


白銀の鎧に。


亀裂が走る。


『自身ノ神罰兵装ニヨリ、損傷……』


「お前の武器だから、効きやすいのかもしれないな」


『理解不能』


「そればかりだな」


俺はメタトロンの前へ移動する。


今度は。


拳に神力を集める。


神の力を。


俺の力と混ぜる。


《獄炎支配》。


《神力》。


黒い炎に。


金色の光が混ざる。


神を燃やすための炎。


「これはどうだ?」


メタトロンの胸へ。


拳を当てる。


『防御術式ヲ――』


「遅い」


拳を。


軽く押し込む。


ドンッ。


先ほどより。


ずっと小さな音だった。


だが。


メタトロンの背後にあった光輪が。


粉々に砕けた。


十二枚の翼が。


一斉に光を失う。


白銀の鎧へ。


黒い炎が広がっていく。


『神性……焼却……』


メタトロンの体が震える。


『神性生命体ヘノ、直接損傷ヲ確認……』


黒い炎は。


肉体を燃やしていない。


神としての力だけを。


正確に燃やしている。


「町を消す術式を解除しろ」


『拒否……』


「解除しろ」


《絶対命令》。


先ほどまでは。


神の力に阻まれて通じなかった。


だが。


今のメタトロンは。


神性を燃やされ。


俺より弱くなっている。


『……命令ヲ、受諾』


メタトロンが腕を下ろす。


町を囲んでいた透明な壁が。


音を立てて消えた。


世界に。


色と音が戻る。


止まっていた時間も。


再び動き始めた。


町の人々が。


大きく息を吸う。


「助かった……」


「町が戻ったぞ!」


「ハルトが神の使いを止めた!」


歓声が上がる。


だが。


戦いはまだ終わっていない。


空の巨大な目が。


こちらを見ていた。


『メタトロン』


神の声が響く。


『命令違反ヲ確認』


メタトロンが。


わずかに顔を上げる。


『我ハ……命令ニ従ッタ』


『下界ノ者ノ命令ニ従ウ個体ハ、不要』


空から。


金色の雷が落ちた。


狙いは。


俺ではない。


メタトロンだった。


雷が。


その体を貫く。


『……』


メタトロンの翼が。


さらに崩れていく。


「何をしている?」


俺は神の目を見る。


『失敗作ヲ処分シタ』


「自分の使いだろう」


『神ノ命令ヲ遂行デキヌ道具ニ、価値ハナイ』


道具。


その言葉に。


少し引っかかった。


俺も。


王国では似たような扱いだった。


荷物を運ぶ。


敵を弱らせる。


仲間を守る。


役に立つ間だけ使われ。


価値がないと判断されれば。


簡単に捨てられる。


メタトロンが。


空中から落ち始める。


俺はその腕をつかんだ。


『ナゼ、救助スル』


「死なせる必要がない」


『我ハ、貴様ヲ消去シヨウトシタ』


「命令されていたんだろう」


『ソレガ、我ノ存在理由』


「今は違う」


メタトロンの金色の瞳が。


わずかに揺れる。


『理解不能』


「それでもいい」


俺は地上へ降りる。


メタトロンを。


広場へ横たえる。


白い翼のほとんどは消え。


鎧も砕けていた。


だが。


まだ生きている。


神性を大きく失ったことで。


もはや神の兵器ではないらしい。


受付嬢たちが近づいてくる。


バルガスが。


恐る恐る尋ねた。


「そいつ……生きてるのか?」


「ああ」


「神の使いだぞ」


「今は弱っている」


「そういう問題なのか?」


俺にも分からない。


ゴブリンキング。


ザルガ。


そして。


神の使徒。


最近。


敵を生け捕りにすることが増えている。


報酬のために始めたことだが。


情報を聞けるという利点もある。


「話を聞きたい」


俺がメタトロンを見る。


「神々について知っていることを話せるか?」


『命令系統ガ切断サレタ』


メタトロンが答える。


『現在、上位神ヘノ忠誠命令ハ存在シナイ』


「なら、話せるのか?」


『質問ニ回答スル義務モ存在シナイ』


「そうか」


命令から解放されたことで。


俺の言うことを聞く理由もなくなったらしい。


それは当然だ。


「無理に話さなくていい」


『……』


メタトロンが。


俺を見上げる。


『我ヲ破壊シナイノカ』


「今は敵ではないだろう」


『再度、貴様ヲ攻撃スル可能性ガアル』


「そのときは、また止める」


『我ハ、神々ガ作リ出シタ処刑兵器』


「今は違うと言っただろう」


『デハ、我ハ何ダ』


答えるのが難しい。


命令に従うためだけに作られ。


その命令を失った。


自分が何者なのか。


分からなくなっているらしい。


「自分で決めればいい」


俺は言った。


「俺も、つい最近そうした」


勇者パーティーを追放され。


王国の命令から離れ。


初めて。


自分で生き方を決めるようになった。


「何をするかは、自分で選べる」


メタトロンは。


しばらく黙っていた。


やがて。


ゆっくりと目を閉じる。


『選択……』


初めて聞く言葉を。


確かめるようにつぶやいた。



空の巨大な目は。


まだ消えていなかった。


『黒鉄ハルト』


神の声に。


先ほどまでの余裕はなかった。


『貴様ハ、禁忌ヲ超エタ』


「使いを倒したからか?」


『神力ヲ奪ッタ』


「槍一本だけだ」


『量ノ問題デハナイ!』


空が揺れる。


『人間ガ神力ヲ扱ウコト自体ガ、世界ノ秩序ニ反スル!』


「俺に言われても困る」


倒した相手から。


上限や能力を奪う。


それが。


俺の能力だ。


神の力だけ。


例外にする理由はない。


『今スグ神力ヲ返還セヨ』


「どうやって?」


『自ラ命ヲ絶チ、魂ヲ天上ヘ差シ出セ』


「断る」


『貴様ニ選択権ハナイ!』


「ある」


俺は空の目を見上げる。


「今までずっと、なかっただけだ」


王国に召喚された。


役目を与えられた。


荷物持ちとして扱われた。


勇者パーティーへ入れられ。


追放された。


すべて。


誰かに決められてきた。


だが。


今は違う。


「俺の力をどう使うかは、俺が決める」


『人間風情ガ……!』


金色の目から。


強い光が放たれる。


だが。


今度は町を攻撃しなかった。


神も。


理解したらしい。


中途半端な攻撃では。


俺を倒せない。


『七日後』


神の声が。


世界全体へ響き渡る。


『天界ノ門ヲ開ク』


空に。


巨大な時計のような紋章が現れた。


七つの光が。


円を描く。


『我ラ五柱ノ神ガ、直々ニ下界ヘ降臨スル』


五柱。


俺を観測していた神々。


すべてが。


地上へ来るらしい。


『黒鉄ハルト』


巨大な目が細くなる。


『七日後、貴様ノ存在ヲ完全ニ消去スル』


「分かった」


『恐怖シタカ』


「いや」


俺は少し考える。


五人の神。


一人でも。


メタトロンより強い可能性が高い。


しかも。


全員が異なる能力を持っているだろう。


倒せば。


どれほど多くの上限を奪えるのか。


想像できない。


「七日後まで待つ必要があるのか?」


『何?』


「今、来てもいい」


空の目が。


再び揺れた。


『……』


「こちらから行く方法があるなら、それでもいい」


『思イ上ガルナ!』


巨大な目が閉じる。


空の亀裂も。


急速に小さくなっていく。


『七日後ガ、貴様ノ最期ダ!』


最後に。


その声だけを残し。


神の目は消えた。


空が。


元の青さを取り戻す。


静寂。


しばらくして。


町中から大きな歓声が上がった。


「神を追い返した!」


「ハルトが勝ったぞ!」


「町を守ってくれた!」


人々が。


俺の名前を呼ぶ。


俺は少し困った。


まだ。


完全に勝ったわけではない。


七日後。


五人の神が降りてくる。


その前に。


準備をした方がいいだろう。


俺の目の前に。


青白い文字が浮かぶ。


《天律執行者メタトロンの撃破を確認》


《対象は生存しています》


《神性生命体の戦闘不能を撃破として認定》


《能力上限の捕食を開始します》


文字が。


今まで以上の速度で流れる。


《時間干渉上限を捕食》


《空間干渉上限を捕食》


《存在固定上限を捕食》


《神性耐性上限を捕食》


《神力保有上限を捕食》


《世界干渉上限を捕食》


そして。


《特殊権能の獲得条件を満たしました》


《神性権能――“天律支配”を獲得》


「天律支配?」


《世界に存在する法則へ、一時的に命令できます》


《現在操作可能な法則――重力・温度・時間速度・空間距離》


俺は。


試しに手を上げる。


近くに落ちていた。


小さな石を見る。


「重力をなくす」


石が。


ふわりと浮かび上がった。


周囲から。


驚きの声が上がる。


次に。


空中の石へ手を伸ばす。


距離は十メートルほど。


「距離をなくす」


石が。


一瞬で俺の手の中へ現れた。


移動したのではない。


俺と石の間にあった距離そのものが。


消えた。


「なるほど」


これは。


今まで得た能力とは。


まるで違う。


炎を出す。


飛ぶ。


魔物へ命令する。


そうした能力ではない。


世界の決まりへ。


直接触れる力。


俺の前に。


最後の文字が現れた。


《レベル上限が3999から9999へ上昇しました》


《神性レベルが1へ上昇》


《進化条件の一部を達成》


《現在の種族――人間》


《進化候補――亜神》


人間から。


神に近い存在へ。


変わり始めているらしい。


だが。


今すぐ進化するつもりはなかった。


人間で困っていない。


それに。


七日後までに。


確認しておきたいことがある。


「メタトロン」


俺は地面に横たわる神の使いを見る。


金色の瞳が開く。


『何ダ』


「天界へ行く方法を知っているか?」


周囲の人々が。


一斉に静かになった。


受付嬢の眼鏡が。


わずかにずれる。


「ハルトさん」


「何だ?」


「まさかと思いますが……」


「七日後に神々が来ると言っていた」


「はい」


「待っている間に、また町を狙われるかもしれない」


「それはそうですが」


「なら」


俺は空を見上げる。


「こちらから先に行った方が早い」


受付嬢は。


頭を抱えた。


「どうして神々に狙われた直後に、天界へ攻め込む話になるんですか!」


「攻め込むとは言っていない」


「では何をしに行くんですか?」


「話し合いだ」


地面に座っていたザルガが。


初めて口を開いた。


『ソノ拳ヲ持ッテカ?』


「必要なら使う」


『ソレヲ攻メ込ムト言ウンダ』


魔王軍の将に。


なぜか正論を言われた。


メタトロンは。


空を見上げる。


しばらく。


何かを計算するように沈黙し。


やがて答えた。


『天界ヘ続ク門ハ、三ツ存在スル』


「近いのは?」


『王都ノ地下』


俺は眉を上げる。


王都の地下には。


魔王を傷つけられる聖剣が眠っていると聞いた。


さらに。


天界へ続く門まであるらしい。


「偶然ではなさそうだな」


『王都ハ、古代ニ神々ガ築イタ祭壇ノ上ニ存在スル』


メタトロンが続ける。


『地下最深部ニ、天界門ガ封印サレテイル』


「開けられるか?」


『神性ヲ持ツ者ナラバ可能』


俺は。


自分の前に浮かぶ表示を見る。


《神性レベル1》


条件は満たしている。


「決まりだな」


「何がですか?」


受付嬢が。


嫌な予感しかしないという顔で尋ねる。


「王都へ行く」


「本当ですか!」


彼女の顔が明るくなる。


国王の依頼を。


ようやく受けると思ったらしい。


「王都を守ってくださるんですね!」


「そのつもりだ」


王都には。


大勢の人間がいる。


神々との戦いに巻き込むわけにはいかない。


「そのあと、地下の門を開く」


「門?」


「天界へ行く」


受付嬢の笑顔が。


固まった。


「……王都を守ったあとに?」


「ああ」


「天界へ?」


「ああ」


「神々の本拠地へ?」


「ああ」


受付嬢は。


ゆっくりと机へ突っ伏した。


バルガスが。


そんな彼女の肩をたたく。


「諦めろ」


「何をですか……」


「こいつが普通のFランク冒険者になることをだ」


俺は冒険者証を見る。


そこには。


今もはっきりと。


Fの文字が刻まれている。


「まだFランクだ」


「そのFランクが天界へ殴り込みに行こうとしてるんだよ!」


「話し合いだ」


「拳を使う前提だろうが!」


バルガスの叫び声が。


広場へ響いた。


そのころ。


遥か北方。


黒い城の最上階で。


一人の男が。


空に消えた神の目を見つめていた。


長い黒髪。


頭に伸びる二本の角。


闇よりも濃い外套。


玉座の周囲には。


魔王軍の幹部たちが並んでいる。


「神々が動いたか」


男が静かにつぶやく。


その男こそ。


人類が討伐を目指していた存在。


魔王だった。


「ザルガは敗北したようです」


側近の魔族が頭を下げる。


「処分いたしますか?」


「不要だ」


魔王は。


薄く笑った。


「面白い人間が現れた」


「黒鉄ハルト……ですか」


「ああ」


終焉竜を倒し。


黒翼竜を倒し。


ゴブリンキングを従え。


ザルガを生け捕りにし。


神の使徒すら撃破した。


世界の均衡を。


たった数日で壊し始めた男。


「神々は、彼を恐れている」


魔王の笑みが深くなる。


「それはつまり」


玉座から。


ゆっくりと立ち上がる。


「我らにとって、最高の味方になる可能性がある」


「では、勧誘を?」


「いや」


魔王は首を振った。


「まずは会う」


その瞳に。


強い闘志が宿る。


「そして確かめよう」


黒い魔力が。


城全体を覆う。


「彼が神々を倒せるほど強いのか」


魔王が。


王都へ向けて歩き始める。


七日後を待たず。


人類最強。


魔族最強。


そして神々。


三つの力が。


王都へ集まろうとしていた。

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