第54話『暗闇』

王宮が占領されて3日目の夜になった。

ゼンたちはメルコたちを倒し、そのまま南へ歩みを進め、ようやくエレメントの国境を渡った。


国境周辺は高い山に囲まれていて、そのいただきからエレメントの街をフィーナとゼンが見下ろしている。


「フィーナ……ようやく帰ってきたな……」


「うん……」


月夜に照らされた2人は落ち着いたように言葉を静かに交わしている。

両者の視線の先には一際目立つ要塞のような校舎がある。


言うまでもないが、禍学専門学校、2人がいつか再び戻ろうと誓った場所である。


「あれからまだ一ヶ月しか経ってないってわかってても……懐かしいな……」


「そうだねぇ……先生が私を学校から連れ出してくれたあの夜も、たしかこんな月だったよね?」


「そうだったかもな……」


「………」


「……懐かし過ぎて数年振りと言っても過言ではないよね?」


「…………………それは少し過言過ぎるだろ?」


「ごめん。少し盛った」


「あの……もういいっすか?」


うんざりした顔でシルキーが会話に割って入った。


「お、戻っていたのか?すまん気づかなかった。それでどうだった?」


30分ほど前に山の麓にあった集落を見つけた一行は、シルキーとヴェトンだけで偵察をして、たったいま戻って来ていた。


「シルキーとも話だけど、結論から言うと全員逃げたっぽい」


「慌てて逃げた感じね。衣類とか食料、貴重品らしきものだけなかったから」


シルキーたちの報告を受け、ゼンはいよいよエレメントで何かがあったことを確信する。


「そうか……」


「ゼンはここで休んでてもいいぞ?」


ヴェトンが心配したのは、前日にゼンがメルコの黒魔法を受けたダメージがまだ残っていることだった。

回禍で治したくても、このダメージの原因がイメージできないため治せずにいた。


「大丈夫だ……行こう」





4人は下山してバレルマウンテン(通称:香黒山)にあるはずの洞窟を探している。


「多分だけど、あっちかな?」


この石との交信は全て夢の中でしか出来ないが、近づけば近づくほどフィーナは夢を見なくとも、導かれるようにその洞窟の居場所まで進んでいく。


「本当に大丈夫か?」


ヴェトンは少し心配だったが、ゼンに心配は「案ずるな」と言う。


「方向音痴のフィーナが迷わずに率先してエレメントまで導いたのだから、きっとフィーナを呼んでいる石とやらに辿り着くまでは問題ないはずだ」


茂みはどんどん深くなり、遭難者が当てずっぽで探し当てることが不可能なほど、複雑なコースを4人はどんどんと進んでいく。


そしてようやくフィーナが指をさした。


「あれじゃない?」


フィーナが指す先には、間違いなく数万年規模まで遡っても、人が足を踏み入れてないであろう、草木で覆われた洞窟を発見した。


「いいか?俺が先頭、フィーナはシルキーから離れるなよ?ヴェトンは後ろから来てくれ」


4人は隊列を組んで暗い闇を歩く。

先頭のゼンは手から禍力の炎を出して、慎重に階段を降り続ける。


螺旋のように続く階段の下を見ても、暗すぎてどこまで続いているかわからない。


(気が遠くなるほど深い階層だな……)


ゼンはふと横を見ると、壁画がゆらめく炎に映し出されている。

おそらく数千年どころではない考古学の研究対象の年代物であった。


「階段長ぇな?」


飽き性のヴェトンが耐えられなくなってきた。


「もう少し頑張ってくれ」


シルキーが歩みを止めた。


「ねぇ……」


シルキーの見ている壁画には、腕にハートの模様が入っている裸体の少女が、男性にナイフで刺されていた。


「なかなか悪趣味な絵だな……」


「しかも刺されてんのに笑ってんじゃん……」


「もしかしたらフィーナのように身体にハートの模様がある少女たちは、昔からこうやって殺されていたのかもな」


ゼンは炎を近づけ壁画を見続けた。

鳥の鳴き声がした時、ヴェトンは震え出した。


「お……お化け出そう……」


「はぁ?この図体でなに可愛いこと言ってんのよ?」


シルキーが突っ込むとフィーナは口を押さえて笑っている。


「ヴェトンもお化け怖いんだね?私も実はね、お化け怖いんだ」


フィーナはニコニコして、ゼンに問いかけようとするが、ゼンは怖い顔をして壁画を見ていた。


「……先生?」


「なぁ?ゼン、お化け出てパンチしてもすり抜けたりするのかな?」


「すまん、考え中だ。静かにしてくれ……」


少ししょんぼりしながら、3人はゼンの気が済むのを待った。

ゼンはいよいよ蒼白な顔になっていく。


「すまんが、少しここで待ってくれないか?この壁画を最初から見たい」


「えっ!なんで!?こんな怖いとこにずっといんの嫌ぁっ!」


フィーナはゼンのマントを掴んで離さない。

ゼンはフィーナのその手を取り、言い聞かせるように頼む。


「ほんの30分程度だ」


「長っ!無理!イヤ!」


「そうか、ありがとう」


フィーナの話を全く聞かず、ゼンはささくさと駆け上がってしまった。


「あいつの耳はどうなってんだ……?」


「自分のしたいことになるといつもこれだよ」


口を尖らせながらフィーナは体育座りのように腰を下ろした。

そして、ゼンがいなくなり3人は暗闇に包まれた。


「シルキー、ゼンが帰ってくるまで炎出して?」


「いいけど、5分ごとに20Gちょーだい」


「えっ?金取るのかよ?」


「当たりま………」


キーキーキーキーキーキー!!


猿のような奇声に3人はビクっとなり、ヴェトンの右腕にはシルキー、左腕にはフィーナがギュッとまとわりついて硬直した。


ボワッ……


シルキーは躊躇なく禍動の炎を出す。


「えっ?……金払わないぜ?」


「う……うるせぇし……ヴェトン黙れ……」


「も……もしかして……シルキーさんも……お化け……ダメな感じ?」


「……フィーナも黙れ……」


3人は震えながらゼンを待った。

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