第55話『秘密』

フィーナの夢に語りかけてくる不思議な『石』を見つけるべく、ゼンたちは逃亡の出発地エレメントに帰還した。

そしてエレメント国境近くの洞窟を、下へ下へと進んでいくのだった。


ゼンは3人を残して、一人洞窟に描かれている壁画をじっと見つめている。



(なるほどな……これはすごい収穫だな)


ゼンは洞窟の壁画の始まりからを丹念に分析していた。


(考古学者とか昔は憧れたなぁ……)


ゼンは禍動士として生まれたため、将来はギルドから教師にしかなれない。


そのためそんな夢は子供のうちから諦めていたが、それでも中等学部(13〜15歳の禍学専門学校生)から、よく図書室で考古学を勉強していた。


(色の幅が少なすぎる……そして平面的な画法、なによりこの描かれている虎のような生き物……この尻尾の先にある火のような膨らみはまさしく20000年前に絶滅した火蝶ヤマネコか……)


カツカツと靴の音をさせて階段を下っていく。


(おそらく、この壁画は推定2万年前に作ったものだ……)


カツカツカツ


(そしてこのハートの模様が身体に刻まれた少女を刺し殺している。男の持っている武器には……王家の紋章……)


カツカツ……


(禍学専門学校が創立される前から王宮ではフィーナのように身体にハートの模様が入った少女を殺していたのか……)


ゼンの足が止まる。


「これは……」





ゼンが戻って来た瞬間に3人が飛び出して抱きついた。


「ゼン!!」

「ゼン先生!やっと帰って来たぁぁ!」

「めっちゃ遅かったじゃねぇかよぉぉっ!!」


暑苦しそうに3人を剥がそうとするが離れなかった。


「うぉっ!フィーナはともかくなんだお前らまで!?なにかあったのか?」


「だってぇ……なんか出そうなんだもん!!」


シルキーが目をウルウルさせてゼンに抱きついている。


「あのなぁ?お化けってのは……まぁいいや。それよりも少しわかったことがある。歩きながら話すか?」


3人はゼンの壁画を見た感想と説明を受け、驚きを見せた。


「それ本当なの!?」


「あぁ、禍動士って名前と魔族が使う魔法にそこまでの差はない。なぜ人は魔法じゃなく、禍動なんておかしな名前をつけたのか?それはおそらく……」


「おそらく?」


「俺たちはこの国にとってわざわいとされていたんだ」


「私たちがいつか脅威になるから?」


「少し違う。禍動を持つ者の中にフィーナのような国にとって禍をもたらす者が必ず現れるのが脅威なんだ」


「どゆこと?」


フィーナがゼンに疑問をぶつけると、ようやく最後の階段を降り切った。


「それはこいつに聞いてみよう……聞いてんだろ?」


目の前には台座に『石』が置かれている。

そして石の中にあるクリスタルが青く光った。


『聞いているよ……君がゼンなのかな?』


「石が喋った!!」


驚いたシルキーとヴェトンが思わず抱き合った。


『そして君がフィーナかな?会いたかったよ』


石の中心にクリスタルが埋め込まれており、反応によって光の輝き方が違っている。

いまは暖かなピンクの色に染まっている。


「私も会いたかった……なんて呼べばいい?」


『私は石だし……イッシー?』


「私コイツのノリ好きかも」


「シルキーは出しゃばらんでいい、イッシーとフィーナでしばらくは話をさせてやってくれ」


『まず何が聞きたい?なんでも答えるよ?』


「なんで私なの……?」


『うーん……まず、私のことから説明するね?』


「……うん」


『私はね、今の魔王よりずーっと何代も前の魔王によって作られたんだ』


「なんのために?」


『繁栄をもたらすため……とでも言えばわかりやすいかな?』


━━━━━━━━━━━━━━━


魔族の歴史は遡ることが出来ない。

いつどこで誕生したのか?あるいは何かの生物の進化において魔族が生まれたのか、今はそれを知る術はない。


魔族の歴史書で初めて登場したのは魔王ドルンである。

魔法を使う一族が広まり、いつの間にか『魔族』と称されていて、魔族の王ドルンの時代までは人間と全く変わらない姿をしている。


現代における文字や言葉、テクノロジーはドルンが一人で作ったと言ってもいい。


特にドルンのテクノロジーは凄まじく、酸素がある限り動き続ける伝導エネルギーシステムや、分子レベルで結合する酵素塗料など、現代の科学者が聞けば卒倒する技術を次々に発明した。


未来人であったり、異世界から転生されてきたのではないかと囁かれるほど、ドルンの才能は異常過ぎた。

もしかすると、魔王が畏怖された所以ゆえんは戦闘の強さではなく、このような天才的科学力を生み出す途方のなさだったかもしれない。


誰もドルンの研究が理解ができない。

かなり後のことだが、これが結果的に裏目に出て、魔族たちが滅亡しかけてしまった。


唯一無二の天才が生きてる間こそは、繁栄と発展、平和を送ることが出来た。

しかし、ドルンの死後に問題が発覚した。


この途方もない莫大な技術いさんは、次世代の魔族のたちに運用と保守を託されたが、どうしたらいいか誰も理解できなかった。


その中の一つに、彼の生きている間は無害だった核融合システムは、死後メンテナンスがマニュアル通りにいかなくなり、凡庸な研究員が魔力を込めたところ大爆発を起こし、魔界の半分以上が消滅した。


ドルンが繁栄のために作ったエネルギーシステムによって、魔族が滅ぶ寸前まで壊滅したのは見方を変えるとコメディのような皮肉であった。


これによりドルンの技術は木っ端微塵になくなってしまった。


生き残った被爆者たちは、細胞を破壊するだけでなく、遺伝子を強制的に「超適応・再構築」させ続けて、その思わぬ産物により強靭な肉体と、頭には角を生やし、背中に羽を持つ「魔族」に変貌させた。


そのドルンの最後のテクノロジーが、このフィーナに語りかける石であった。

この石にプロダクトネームを付ける前にドルンは死んだ。

そのため研究時の仮呼称である【繁栄の石】と以下そう呼ぼうと思う。


ドルンは死期を悟ってから、この繁栄を残したかったのであろう。


ドルンにとっての繁栄は子孫繁栄が第一である。そして天災、疫病、飢饉などをこの世からなくし、平和の願いを込めた。


「有機物では壊れるな……」


ドルンは、願いを込めるデバイスを無機質な石にしようとした。

そしてデザインについてもいちいちこだわった。


使いやすい石を探せと命じられ、ドルンに次ぐ頭脳を持った助手は、せっせと毎日のように小さな石から大きな石を運び献上した。


「これではダメだ」


と、捨てられ続け、その異常なこだわりに閉口してしまったほどだった。


そんなことを続けているため、魔族にとっては一瞬の時間感覚であるが、80年をすべてこの石と向き合うことになった。


その間にもドルンの命の炎は細くなっていく。


跡取りもそれなりに非凡ではあったが、ドルンには到底及ばない。


(急がねば……)


設計を終えたドルンはこの石に天然のクリスタルを取り付け、そこに様々な魔法を注いだ。


そして最後の壁に立ち止まることになる。

いくらドルンが天才でも、神ではないから生命までは作れなかった。

一年ほどあらゆる魔法を使って試行錯誤したが、

ドルンはどうやっても神の領域には近づくことができず絶望した。


(あと、2ヶ月も経たずに俺は死ぬだろう。ならばいっそ……)


「ドルン様……私に何か出来ることをお命じ下さい」


助手は心配そうにドルンを見つめた。

その視線にドルンは覚悟をした笑顔を見せた。


「あとのことを……よろしく……頼む……」


ドルンは自分の命と引き換えに、無機質な石に己の生命をとうとう注ぎ込んだ。


繁栄の石の完成は、同時にドルンの死を意味する。

ドルンは生まれたばかりの繁栄のこどもと二、三ほど話したあと力尽きて死んだ。


「ドルン様!ドルン様ぁぁっ!!」


助手はドルンの死を確認すると、顔を伏せて肩を大きく震わせた。


「………やっと死んだか」


泣いているのではない、笑っていた。


その助手の名前は【イペ】と呼ばれている。

魔族にはたくさんの種族がいるが、イペは【ヒューマン族】に分類されている。


ヒューマン族の特徴は力が弱く魔力も大したことはない。

しかし頭脳は魔族の中でも群を抜き、追随できる種族はいない。

そのためイペは魔王ドルンに重用し、密室でも肩を並べて研究することを許した。


「これさえあれば魔王の息子など恐るに足らん」


そう呟き、繁栄の石を抱えて魔界を去った。

ヒューマン族には頭脳明晰以外に不名誉な特徴がある。


利己的、嘘つき、狡猾、野心と虚栄心に満ち、そして独立心を隠すことが上手かった。


イペは慎重だった。一歩でも多く魔族たちの世界から逃げた。草が生い茂る土地に辿り着くと、居並ぶ家臣たちとようやく腰を下ろした。


「私は……いや、余はこれより【皇帝】と、そう呼べ」


魔族は散々に探したが当時は魔界や人間界などの境界がなかったため広大すぎていたため、捜索が非常な困難だった。


イペにとっての更なる幸運は、前述した通り核融合のメンテナンス処理に失敗してそれどころではなくなった。

繁栄の石がなくなった魔族たちは数万年経った今も尚、復興とは遠ざかった世界となっている。


それとは対照的に、繁栄の石と共にイペたちは建国に全力を注いだ。

気づけば現代の14カ国へと成長することになる。


魔族たちから逃げた400年後に初代皇帝イペは最晩年を迎えた。

かつて腰を下ろした草しかないこの土地は、今や最新鋭の都市へと変貌した。


「ここをエレメントと名付けよ」


イペは息子たちに伝え、波乱の人生を終えた。


━━━━━━━━━━━━━━━


「じゃ、私たちも元々は魔族だったってこと?」


フィーナは繁栄の石こと、イッシーは頷くようにクリスタルが光る。


(魔族と人間の会話が成立するのはそういうことだったのか)


ゼンは納得は出来たが、この巨大すぎるタブーに汗を滲ませた。


『その上で何故フィーナが選ばれたのか?そして選ばれたフィーナにやって欲しいことがあるんだけど、その説明をするね?』


石のクリスタルは赤く、妖しく輝き出す。

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