第50話『将軍』
王宮が占領された2日目の早朝に話を戻したい。
エレメントの総指揮は魔族No.2であるコロニアルがおこなっている。
狙いはかつて人間に奪われたと言われる伝説の魔族の国宝であった石である。
しかし滑稽だったのは形や特徴、そもそも何故それが国宝にまでされているのかは、遠い昔に起こった魔界の大異変によって消滅していた。
1000年前に現魔王軍のNo.2であるコロニアルたちによる旧魔王城の発掘調査で偶然発見した。
その後の遺物研究によって、『かつて魔王の持っていた国宝の石がヒューマン族(かつての人間の呼称)によって盗まれた』、と書いてある文字を最近ようやく解析できた。
その石は王室に宝庫に眠ると、皇帝ネオマの兄ユラソルの背信によって魔族にもたらされていたが、王宮陥落後に探し回ってみて、それが
まんまとユラソルに一杯食わされた魔族は、また一からの振り出しに戻り、現在も捜索が難航している。
「下手に焼き払えばどこに隠れているかわからん、建物を壊すことも
と、知恵者コロニアルはメルコを通じて魔族たちに命令をした。
『街も人も壊して焼き殺す』と、鼻息荒くのこのこ魔界から来た魔族たちは、今や慎重に物音を立てず、箱や倉庫を探し回る羽目になった。
立つ瀬がなくなったのは、ユラソルに騙され、エレメントの王宮を手招きした魔族No.3のメルコだった。
(ここまで大事して何の成果もなしであれば……明日にはこの首が繋がっておらぬかもしれぬ)
メルコは報告をと思いコロニアルがいる部屋に訪れた。
かつて一時だが、ロータスの仕事部屋でもあった、あの史料編纂室である。
コロニアルは個人の戦闘では他の魔族を圧倒するが、それよりも誇りにしていたのは知性だった。
そのためかなりの読書家で、同時に魔族史における歴史家でもあった。
宝が見つかる報告を受けるまでの時間潰しと思っていたが、思わぬ発見に結局ここから外へ出ることがなかった。
「失礼します」
メルコが部屋に入ると本棚から読み捨てられた本が乱雑に積まれている。
「どうした?」
「……この量の書物をたった一日で?」
「噂通り人間は賢いな。国家運営に余念がない。取り入れたい制度が山ほどある」
「はぁ……」
「しかし、これはくだらん」
思わず放り投げたのはエレメントの歴史や神話などの書物だった。
コロニアルがつぶさに読破したが、どれもこれも驚愕の内容だった。
(ほとんど嘘ばかりではないか……)
たとえば2500年前に、ある街が魔王軍の手によって壊滅されたとあるが、その当時の魔王軍の総指揮はまさに読者であるコロニアル本人であった。
「こんな出撃命令など出してはおらぬわ」
おそらく人間にとって都合の悪い歴史はすべて魔族の仕業と片付けていたと思ったコロニアルは、更にペラペラと本をめくり、その度に見つけた嘘を朱色でアンダーラインを引いた。
その作業をしながらコロニアルが思ったことは、この国は、この人間の世界は、何もかもが嘘によって作られている、という思いだった。
(真実を知ったら愚民たちはどう反応するのか?)
そう思うと悲劇的な笑いが込み上げてくるコロニアルだった。
しかし、メルコにとってはそんなことはどうでもいい。
「コロニアル様、報告したいことが」
国宝石(繁栄の石のこと)と、その所有者である皇帝ネオマが見つからないと打ち明けた。
「そうか、見つからないか」
コロニアルは次に、と用意していた本を読みながらメルコの話を聞いている。
「そもそも石の形状も大きさもわからずでして」
「それは道理だな、そもそもそんな石があるのかも私は未だに疑っている」
(コロニアル様は国宝石が気にならないのか?)
探せと言う割にはあまり関心を持たないような不思議さにメルコ最近よく違和感を感じていた。
「
「ネオマがこの地下の通路を通ったのは確かなんですが……」
王国襲撃時に数十の魔族兵がネオマの跡を追ったところまでは判明している。
その逃走経路は途中から道が6つに分岐する。
つまり東西南北どこにでも抜けられる。
魔族の追っ手がネオマをあと一歩まで迫ったが、ブレア将軍によって阻まれ、全て撃退された。
ブレアは生涯で戦争指揮はなかったが、個人としての戦闘IQはその称号にふさわしい、いや、凌ぐほど優秀だった。
まず彼は倒した敵の血を持っていた水で撒き、痕跡を消した。
そしてトリックとして西の通路と、東の通路に魔族の死体を担いでそこに捨てた。
魔族はまんまとブレアの計略に
(これで当面は北側に追手は来ないだろう)
この咄嗟の起点によってネオマを逃したばかりか現在も魔族たちは、ネオマの影すらない東側と西側に分かれて捜索を続けている。
余談になるが、そのブレアはメルコとの壮絶な戦闘で戦死してしまい、今も王宮前に首が晒されている。
不幸にも、じめっとした日が続き、肉が腐りはじめていた。かつてのプリンスの面影はない。
今や蝿がたかるブレアだが、生前は非常に人当たりが良く、誰にでも親切だった。
そして顔立ちも良かったため女性のファンが多く、軍事パレードでは彼を見るために男性よりも女性が殺到したほどだった。
その軍事パレードがあったある日、一人の少女がブレアに手紙を渡そうと、警備局員の目をかいくぐりブレアの前に飛び出してきた。
警備局員は冷や汗をかきながら少女は慌てて取り押さえたが、ブレアはその少女に馬で近寄ると、警備局員に優しく離すように命令した。
ブレアは非礼を詫びながら下馬をし、事もあろうに片膝をついて、少女の手紙を受け取った。
この美談はエレメントだけでなく、各国に伝わり、世界中の誰もがブレアの顔を記憶した。
そのブレアが首だけになり、王宮前に晒されていたことは、誰しもが悲しむと同時に、この国の行く末に絶望して逃げるのに十分な材料となった。
ブレアの
さて、その首を
ブレアはメルコにつけられた顔の傷を見た。
「お前に傷をつけて、しかもまだ治らないとは……人間にしてはなかなか強かったな」
「王国の将軍だったようで、かなり手こずりましたよ。あれほどの強者なら万全な状態で闘いたかったですね……」
メルコはかつて『
この十三将は魔界の中で魔王が直接対峙して、認めた13の強者たちで、魔界きっての武闘派精鋭軍団である。
かつてメルコはその頂点に君臨していた。
目の前にいるコロニアルには勝つことが未だに出来ないが、異常な暴力性を持ち、魔界でも魔王とコロニアルを除けば彼を止められる者はいない。
この精鋭軍団はいずれも出世における実質的なパイロット機関になっており、リーダーになると将来は魔王界の上流階級となり、政治にも参加できるようになる。
メルコの前任は目の前にいるコロニアルが十三将のリーダーであった。
なぜ13なのかは魔王が語らないため、忌数字ではないかと想像する他ない。
話を戻す。
「……ここまで探してもいないとなると、南側か北側かもしれません。特に怪しいのが北側ですね」
「北側?」
「北側には我々で言うところの"官製魔法学校"があるんです。ただ
「ならば、向こうから出てきてもらおうか」
コロニアルはメルコに策を授けた。
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