第49話『幸日』

王宮が占領されて2日が経った気持ちのいい昼間。


敵を蹴散らすつもりで街道を走っていたため、予定よりもかなり早くエレメントに到着しそうであったが、4人に奇妙な思いが巡る。


「なぁ?やっぱおかしくないか?」


ヴェトンの言葉に3人も頷く。

ゼンも不思議だったことを語り始めた。


「街道をこんなに堂々と走っているのにギルドとの戦闘が全くないな……」


「それに町外れにあれだけいた魔族にも一切会わないですよね?」


フィーナの言葉にシルキーが補足を入れた。


「この辺ってアリエッタでしょ?強い魔族がゴロゴロいる場所なんだよね」


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アリエッタは西のサザナ、東のエルシアのちょうど真ん中に位置している国である。


余談だが、ロータスの祖国シュトの真北にある隣国で、そのまま300キロほど南下をすればエレメントに到着する場所に位置している。


主な産業は軍事テクノロジーであり、中心都市から生み出される最新鋭の兵器は、全世界へと供給されていく。


そのため腕に覚えがある者はよくここで武器を仕入れては、試し斬りと称し、近くの魔族と戦闘をおこなった。


逆に、魔族は魔族で戦闘狂いのため、魔界でくすぶっている実力者たちはこぞってこの地を訪れては人間を狩るために訪れている。


つまり双方にとって絶好の場所であった。


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「私もギルド辞めてプラプラしてた時に立ち寄ったことあるけど、なかなか手応えある魔族が多くいたわ……」


「けどよ、なんか昼寝してても大丈夫そうなほど何にもないぜ?」


ヴェトンがそう言い切るくらい、見渡す限り雲ひとつない青空と、鳥のさえずりだけが聞こえる平和な光景が続く。

とてもそんな物騒の地には思えなかった。


「試しにさ、その辺の町に行ってみる?ご飯もそろそろ尽きてきたしさ」


「たしかに……もしかして何かの間違いで俺たちの手配書が下げられたかもしれんしな」


シルキーの提案に乗ることにしたゼンたちは、念のため変装をしてアリエッタの中心部の街に潜入してみた。


まず真っ先に街の掲示板に立ち寄ると手配書が貼っていなかった。


「たまたま貼られていないだけか……?」


(それとも何かの罠か?)


ゼンは2択に悩んだ。

幸運にも向かいから歩いてくる親子連れにゼンが声をかけた。


「あの……私はギルドの者なんですが、少しよろしいですか?」


「どうしましたか?」


「手配書が全くないんですが、この辺は今は懸賞金はないんですか?」


「はて?」と父親は考えていたが、そういえば、と思い出したようだった。


「あぁ、今朝だったかな?町長が手配書を剥がしていたな。随分と高額の懸賞金だったから惜しんでましたね」


「……そうですか」


「しかも有力情報を通報するだけでお金もらえるから私も最初は探したんですけどねぇ」


「……ぷっ」


「えっ?」


笑いそうになったヴェトンをフィーナが肘でつついた。


「感謝致します」


その後、ゼンたちは木陰でヒソヒソと話し合った。


「バカ!あそこで笑う奴がいるか!」


「だって目の前にいるのがまさに探してるゼンだなんて思わないだろうなってよ」


ゼンの説教をヴェトンは笑ってやり過ごした。


「でも先生……取り消したってのは本当っぽかったですね?」


「あぁ、王宮で何か方針転換があったのか、それどころじゃないことが起きたのかもな」


「けど、それって余程じゃない?勅命まで出してフィーナを殺そうとしたわけでしょ?おいそれと取り下げられるような軽いものじゃないわ」


シルキーの疑問は的を得ている。


「そこなんだ……そうなると真っ先に考えられるのは『戦争』……」


「戦争!?」


ゼンの言葉にヴェトンが驚いた。


「そのクラスじゃないとあれだけの高額賞金を取り下げることはないだろう。取るに足らない理由ならギルドたちが黙ってないさ」


「相手はどこかな?それともクーデターとか?」


「クーデターか……シルキー、なかなかいい線かもしれんな。ふむ……確かに皇帝陛下がおられるエレメントに楯突く国はないだろうからな」


「だったら余計な戦闘がないし、エレメントまでは意外と楽に行けるかもな」


「まぁヴェトンの言う通り戦闘がなければあと……ってフィーナどうした?」


フィーナはかなりムスっとしていた。


シルキーにフィーナが耳打ちをした。


「ふむふむ……うんうん……ゼン!フィーナ腹減ったって!」


「!!」


かつてヴェトンと知り合ったエリーナの街で、フィーナの腹が減りすぎてヤンキー化したトラウマが蘇った。

ゼンたちは即、町のレストランに入った。





レストランでは念のため4人は偽名を用いた。


シルキーを仲間にしたタイミングから手配書が出回ってしまいギルドに追われたため、これがはじめて4人でレストランに入った日だった。


4人はエリーナでの話で盛り上がっていた。


「えっ!フィちゃん(フィーナの偽名)が!?」


シルキーが手を叩いて大笑いした。

ヴェトンも腕を組んで「うんうん」と頷いた。


「懐かしいな、俺も正直あれでフィーちゃんがしばらく怖かったもん!」


「てかヴェン(ヴェトンの偽名)との出会いもめっさウザイわぁ……トイレ行きたいのにこんなバカに絡まれるとか超最悪じゃん!」


「あれは辛かったな……人生でトップ3のやばい事件だったよぉ」


フィーナの思い詰めた懐古にゼンが「ところで」と言い出した。


「あの日なんでそんなに腹痛になったんだ?」


「先生がその辺に生えてる草食べさせたんでしょ!それでお腹壊しちゃったんだからぁぁ!」


「うん、100パーこいつが悪い!」


これにゼンは納得ができなかった。


「ゼンスキー(シルキーの偽名)は知らないからそう言うけど、草ではなくて球根だったんだ!しかも本当に食べれる草なんだって!本で見たんだ!」


予定外のシルキーの偽名呼びに目をひん剥いてシルキーがゼンの胸ぐらを掴んで制止した。


「ちょ……ちょっ!!ちょっと待てお前!その名前はマジでやめろ。そしてその名前をお前に言われるのが一番恥はずい!」


シルキーは『シルシル』と言う偽名にすると決めていたが、ゼンはすっかり忘れてしまっていて、かつてシルキーがトリニティで使っていた偽名を口に出してしまった。


「なに?そのゼンスキーって?」


「ヴェンまで傷を抉るのやめてあげて!」


フィーナのフォローが、よりシルキーの心を抉り机に突っ伏して何度も机に頭を何度も打ち付けるシルキーだった。


「あぁ!もう死にたい!死にたい!死にたい!」


「なんだこいつ……?」


一人だけ意味がわかっているフィーナがお腹を抱えて大笑いしていた。



フィーナにとってこの旅を通じ、一番楽しかった4人の思い出だったのかもしれない。


一行は、この2日後にはエレメントに到着し、フィーナに夢で語りかけ、アザを作った『繁栄の石』と対面をすることになる。


その対面から数日後にフィーナは、ゼンとヴェトン、シルキーに関する全ての記憶を奪われることになる。


無論、目の前で繰り広げられているこの幸せな記憶も当然二度と思い出すことは出来なくなるのであった。

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