第51話『虐殺』

「ならば、向こうから出てきてもらおうか」


なかなかネオマが見つからないメルコに、コロニアルは一つ策を授けようとした。


「いかにして?」


「期限を設け、その間にネオマが名乗り出なければどこかの国を陥落させる、と使者を送るのだ。民を取るか、自身の命を大事にするか、もし後者を取れば民から見捨てられるので、その選択はしないであろう」


「なるほど!」


メルコはようやく元気を取り戻し意見を述べた。


「本気であることを見せつけるためにどこか国を攻めても宜しいですか?」


「威嚇侵攻ならいい。ただし派手にはやるな。やり過ぎれば人間たちは死兵となりこちらの損害は大きくなる。必ず逃げ道まで用意しろ」


(また始まった……)


コロニアルの政治信条の一つに

「戦闘、戦争は割に合わない」としている。


メルコはコロニアルを魔族の中で一番尊敬はしているが、こと軍政において性格は正反対だった。


「逃げ道など不要、攻めて攻め攻めるのみ!」


メルコはこの場でそう叫びたかった。


メルコも外交官と言う立場となり、知恵も備わってきた。

それでも未だに軍人出身として兵士との距離感がかなり近かった。


そのためコロニアルから、暴れたがる兵士を抑える役目をよく押し付けられていた。


本来ならメルコのエレメント王宮攻めは、移動魔法を発見した時点でも良かった。

しかし、コロニアルから反対をされたため時期を逸し、エレメントに何度も潜伏をしていた矢先にユラソルと出会い、今日まで至ったに過ぎない。


「煩わしい政治なんかより暴発したい!」


兵士たちの叫びはメルコも同じ気持ちだが、兵士をなだめたり、時に心を鬼にして恫喝をして鎮めている。

その苦労の横に、涼しい顔をしてコロニアルは通り過ぎれば、メルコにしても思うことはある。


(コロニアル様は兵士の気持ちがわからない)


この点だけはコロニアルと分かり合えなかった。


しかしコロニアルの心情は、魔族の国家方針は武略ではなく政略を玉座に据えている。

魔族としては非常に稀有けうな非戦論者であった。


(ふん、魔族の総勢数、出生率を見てからほざけ)


コロニアルはコロニアルで、出来るものなら一笑に付したい気持ちであったであろう。


魔界がかつてある事故により汚染して以来、魔族のDNAが大きく変わり、今も奇形児が続出している。

そして乳児のうちはおそらしく体が弱く、大抵は5歳になる頃までに死んでしまう。


また、繁殖はしても育児などの文化はないので、産まれてすぐに捨てられ、大抵は飢餓や魔獣に食われたりして死ぬ。


その上、出生率が著しく低い事情もあり、魔族は実のところ衰退の一途を辿っていた。


そんな事情を抱えるコロニアルとしては、貴重な生命をおいそれと死なせたくない。

そのため、戦争は最後に取っておきたかった。


一方で、欝屈とした兵士を思いやるメルコの気持ちもコロニアルはわかっている。


(いずれメルコにもわかる)


コロニアルの懐は大きく、不適格なメルコをわざわざ外交官に推挙して交渉を学ばせるほど、彼を育てて可愛がってはいた。


「ところで、コロニアル様が読んでおられるのは何の本でございましょうか?」


ようやくコロニアルはメルコを見た。


「この国の神話集だ。さっきも言ったが、ほとんど嘘だらけだ。多少の事実があるとすれば、このイペと言う初代皇帝が実在の人物と言うことくらいだな」


コロニアルは不愉快そうに本を投げ捨てた。


「イペ?」


「あぁ、40000年に魔界から国宝石を逃げ出して、人間の世界を作った、言うならば我々の裏切り者とされている」


「……申し訳ございません。過去の話には興味がなく」


「ふっ、外交官なら歴史は勉強すべきと私は思うがね」


「その話は今度またお聞かせください……」


「まぁいい。先ほどの手筈通り、ネオマが現れるまで適当な国で暴れてやれ。ただし、先鋭施設や中心地での戦闘は禁止ずる。正規兵が来たら撤退しろ。農村くらいなら派手に暴れてもかまわん」


メルコは退室したあと、かつてのルミシスの執務室で世界地図を広げた。


「ふむ……たしかここは強力な人間が集うと言われていた土地だな……」


メルコは軍事産業の国、アリエッタに朱色で大きなバツをつけた。





メルコはすぐに100の兵を連れてアリエッタに進軍した。

彼らはアリエッタには行ったことがないため移動魔法が使えない。

そのためなるべく人間に悟られないように機動力が発揮される少数での軍事行動を余儀なくされた。


「ここから先がアリエッタだ。中央都市まではもう少しかかるが、ここから先は人間を見たら一人残らず殺せ。ただし施設は残せ、それ以外なら目に映るもの全てが破壊の対象だ!」


歩いてばかりの兵隊魔族たちはメルコの指示に高揚した。

人間には三大欲求「食欲」「睡眠欲」「性欲」があるが、魔族には「破壊欲」がそこに加わる。


メルコの指示は四つ目の本能欲求を刺激した。


まずアリエッタに到着早々、農作業中の農夫婦とその5歳くらいの息子を見つけて殺された。


「ちょうどいいのがあるぞ!」


カラス避けに使っていた3体のカカシを見つけた魔族兵が、人間3人の首をねじ切ると、カカシの頭にそれを突き刺して据えた。


その先に殺害した農夫たちが住む集落を発見し、発狂しながら殺到した。


集落の人間はその声が最初なにかのお祭りかと勘違いした。


「えっ?お祭り!?」


大人の不用意な言葉は子供の好奇心をくすぐり、集落の子供が次から次へと家から飛び出した。


大人たちは笑って見送った後、仕事を再開した。


そのすぐあとに少し奇妙な声がしたが、子供達が興奮して奇声をあげただけだろうと思っていた。


辺鄙へんぴな農村のためのんびりしている。


しかし、その奇声が悲鳴だとわかったのは女たちからの知らせだった。


「ま……ま……魔族……魔族!!」


「魔族!?」


くわだ!それから戸締りをしろ!」


男たちは魔族を見たことがないため、人間に似てた狂人程度を想像していた。


くわを持って外に出ると、先ほどまで笑っていた子供が細切れになって散らかっている。


その後、この集落の結末は言うまでもない。


エレメントが陥落後から2日目という時間軸のため、この頃にほぼ各国にエレメント事変が伝わり始まり、ゼンたち4人の手配書が取り下げられていた時期である。


しかし、市民への伝達は各国まちまちだった。

エレメントの隣国はほぼ全ては市民に伝えた一方で、中心から遠い国であればあるほど余計な混乱は避けるべきと消極的に報じた。


アリエッタは少し事情が違っている。


この軍事産業国家の働き手はほぼ外国人で構成されている。

知らせれば国に忠誠がない以上スパナを放り投げて一目散に母国へ帰るだろうと予測した。


また、国としてはこれから戦争が始まろうとしている時だからこそ、武器を作って売り捌きたいという商人根性がアリエッタ国王にあった。


むしろそれが本音だったかもしれない。


「そもそもエレメントとアリエッタの間には一つ国が挟まっている。まだ慌てる時間ではない」


アリエッタの官僚は国王の意向を忖度そんたくした結果、メルコたちは半日でアリエッタ南エリア1/3を地獄絵図に一変させた。


南アリエッタで蹂躙じゅうりんされた村人たちは北へ北へと逃げた。

それとは逆に、アリエッタで食事を終えたゼンたち4人は再びエレメントの北部にある香黒山へと走らせる。


必然的にこの村を追われた農民とゼンたちは出会うことになる。


遭遇までの時間、およそ二時間後 ━━━

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