第48話『復路』

「いい加減、名前教えてくれる?」


『そっちこそいい加減覚えてよ?何度も言ってるのに!』


「そうなの?忘れちゃうの。夢で会話してるからかな?」


『繁栄の石、もう言わないからね?』


「……繁栄の石?」


『フィーナ、こっちに来る心の準備は出来た?』


「うん。だけど約束して?何をされるのかわからないけど、先生たちや仲間には何もしないで!」


『もちろん、ちゃんと皆んなも歓迎するよ』


「……どこに行けばいい?」


『エレメントまで来て?』


「エレメント?私の学校があった場所じゃん……」


『そうなのよ、なのにそんな遠くまで行っちゃって。すぐ来れる?』


「行くわよ……エレメントのどこ?私は生まれてからずっと学校からほとんど出たことないから場所言われてもわからないよ?」


『そうね……真っ黒い花が咲く山って言えば誰かしら知ってるかも?』


「わかった……先生やレミューさんに聞いてみる」


『早くした方がいいよ、じゃないと皆んな死ぬかもしれないから』


「死ぬ?皆んなって誰が?」


『この世の全ての人』


「えっ……?」


━━━━━━━━━━━━━━━


ここで目が覚めたフィーナはレミューに言われた通り鮮明なうちにメモに記した。


「段々と馴れ馴れしくなってきたな……」


フィーナは下に降りたが誰もいなかった。

ゼンとシルキーは2日前からレミューと修行のため外に出ていて、この日ヴェトンも別の所でレミューと格闘を教わっていた。


「どうしよう……」


その時、タイミング良くドアが開き、ヴェトンとレミューが帰ってきた。


「あ、レミューさん、ヴェトン!」


「おぉ!フィーナ!やばい!俺はめっちゃ強くなったぜ!」


「皆んな、今さっき……」


「うふふ、あいつらと違ってヴェトン君は素直だから覚えが早いわ」


「あのね……」


「いやぁ、完全に体術だけならゼンに勝て━━」


「あのぉっ!!」


フィーナが2人の会話を遮った。


「おや?どうしたフィーナちゃん?」


「あの……見ました……夢……!」


その様子にレミューは真剣な顔つきになった。


「何かわかった?」


「はい……」


「ヴェトン君、ゼンとシルキーは裏の渓谷にいるから呼んできて」


「は……はい!」


ヴェトンがすかさず飛び出したあと、フィーナをダイニングチェアに座らせてレミューは話を聞いた。





シルキーを担いでゼンもレミューの家に到着した。


「フィーナ!何かわかったのか?」


「先生!いまレミューさんが地図を書いてるのぉ」


「レミュー先生……どこにフィーナが言ってる場所は実在するんですか?」


「あぁ、フィーナちゃんよくメモの内容ナイスだよ。黒い花でわかったよ」


━━━━━━━━━━━━━━━



黒い花 ━━


エレメント市街から10キロほど北東に離れた山がある。人は『香黒山こうこくやま』と呼ばれている。


正式な国の登録名は『べレルマウンテン』と言う。


美しい漆黒の花が咲き誇り、時折その香りが風に乗ってエレメントまで漂うことがある。

そのため、国民から正式的な名前を呼ばれることはなく、香黒山と呼ばれた。


しかしこの黒い花は誰も見たことがない。


黒い花を探しに冒険家が何度も山に入ったが、誰も辿り着けなかった。

帰ってこれるのはまだいい方で、ほとんどは行方不明となった。


何度か国の公式的な調査で学者などを派遣したが、記録だけでも7回は遭難し、死体すら発見されていない。

人々はいよいよ魔獣の仕業か、神隠しに遭ったと言い合って恐れた。


歴史の経過と共に、黒い花は幻かもしれないと半ば結論付けられ、噂だけが今も一人歩きしているのが現状である。



━━━━━━━━━━━━━━━



「出来た!これ見ながら行けば山までは辿り着けるだろう?」


レミューから地図をもらったフィーナは驚いた。


「すごい!ゼン先生の地図だったら絶対にわからなかったよぉ」


「ゼンは昔から美術の才能はないからな……」


「むっ!……俺のことはいいだろ!」


子供みたいに怒るゼンに、フィーナはクスクスと笑った。


「よし、そうと決まればすぐにここを出よう」


ゼンの勇足にヴェトンとフィーナが反対した。


「待てよゼン、修行はいいのか?強くなってきたんだからもう少しいようぜ?」


「あとシルキーさん爆睡ちゃん状態なのよ?」


しかしレミューは急いだ方がいい、と言う。


「多分だけど、早い方がいいわ。その石とやらは弱ってるんでしょ?」


フィーナが先ほど見た夢で気になっていたのは、最初に比べて段々と声が弱まった印象があった。


「たしかに……そうですけど……」


「ヴェトン、シルキーを背中に乗せて行くぞ?俺はフィーナをおぶるから」


ヴェトンはレミューのそばにいたかったので、まだ少し仏頂面だった。


「……本当にいつもゼンは急だよな?」


「もしこれで解決して、フィーナのアザがなくなればまた復学できるかもしれないんだ!頼む!」


「わかったよ……じゃ行くか」


レミューがゴソゴソと何かを取り出してヴェトンに渡した。


「なんだこれ?防具?」


「あぁ、私が30年くらい禍動を流し込んだ防具だ。これがあれば大抵の奴らの禍動を喰らっても問題ないと思うよ」


「えぇ!?いいの?」


「大好きなヴェトン君のためだもん♡」


「レミュー先生、フィーナの件が片付いたらまた来るよ」


ヴェトンのまっすぐな目に、レミューは少し寂しい顔をして笑った。


「うん、待ってるよ。フィーナちゃんも、ゼンも……起きたらシルキーにも言っておいて?」


「わかりました……先生、会えて嬉しかった。また来ます!」


そう言うと嵐のように4人はレミューの家を背に、真っ暗な空の向こうへと飛び出した。


バタン……


ドアが閉まると同時にレミューは血を吐いた。


「あー!服に血ぃついた!」


慣れているのかケロッとしている。

しかし今度は咳まじりの吐血を繰り返した。


「やば、ちょっと修行に熱入りすぎたかな?」


レミューは一人用のソファにドカっと座ったあと手で口を抑えて、再び咳き込んだ。

手にはびしゃっとした血がついてる。


部屋はここ数日間が嘘のように静寂に包まれている。


「はぁ……一人暮らしって誰かが帰った後が一番寂しいのよねぇ……」


そう言うと更に苦しそうに咳き込んで吐血した。





ゼンたちはレミューの隠遁した自宅を出てから3時間が経った頃、レミューのシゴキで禍動切れを起こしていたシルキーが目覚めた。


「ぎゃあぁぁぁぁっ!」


「こいつ寝起きからうるせぇな?」


ヴェトンが迷惑そうな顔でシルキーを睨みつけている。


「おろせぇっ変態性欲魔人野郎!!私に触るなぁっ!」


シルキーは両手でヴェトンの頭をポコポコと叩いた。


「痛っ!痛って!ひぃ……!ゼン助けてくれ!」


ゼンが人差し指を立てて静かにするように注意した。


「敵に気づかれるかもしれないんだぞ?」


ゼンが一度止まり、事情をシルキーに伝えた。



「ふぅん……あのババァなんか言ってた?」


「ババァと言われてレミュー先生のことを連想するのは嫌だが、シルキーと別れを言えなくて寂しがっていたぞ。なんだかんだ楽しかったみたいだったし」


ゼンの言葉に少しだけジーンとして、無理やり話題を変えた。


「で?マジでここからエレメントに向かうの?」


「うん……大変だと思うけど……」


フィーナが申し訳なさそうにシルキーに謝った。


「ったく、仕方ないわね!で、その石コロとフィーナがめでたく対面してアザが消えたら終わりなわけ?」


「あぁ、そうだ……だから最後に力を貸してくれ」


ゼンとフィーナが頭を下げた。


「まぁ……どうせアンタたちがそれでゆるされても私はお尋ね者なんだし、付き合うわよ。この先はずっと一人だしね……」


「大丈夫だ……」


ゼンがシルキーの肩を叩く。


「その時は俺も教師を辞めてお前と同じギルドに今度こそ入るよ。なんとかしてヘムスの奴らに謝って脱走した罪を許してもらうからさ」


「ゼン……」


シルキーの頬が赤くなる。


「それに……」


「それに……?」


シルキーの心臓が一気に高鳴った。


(え?ちょっと待って……無理……これ以上私を期待させないでゼン!ああっ!でも聞きてぇ!なに?なによ!?早くしないと心臓が持たん!)


「その時はヴェトンも一緒だ……そして、卒業したらフィーナも誘って、また4人だぞ?なっ?」


シルキーがヴェトンの背中から落ちそうになった。


「えぇ!ヴェトンも来るの?やった!卒業後の楽しみ増えちゃったなぁ、あははは」


笑うフィーナにヴェトンは親指を立てた。


「当たり前だ!ゼンの刀もらってギルドやってみたかったしな?」


「お前……まだこの刀を諦めてないのか?」


ゼンとヴェトンのやり取りでイライラしたシルキーは大声を出した。


「だぁぁっ!わかったわよ!4人で仲良しこよし、いつメンで頑張ろうね!これでいい!?」


次にシルキーは顔を赤くしてヴェトンを睨みつけた。


「私まだ禍動が回復してないからしばらくおんぶして!?その代わりお尻触ったら殺すから!」


シルキーはゼェゼェ言いながら自暴自棄になった。

ヴェトンはぽかんとしている。


「そういや昔から不思議だったんだよ……ケツってどこからがケツなのかな?太ももの付け根かな?それとも膨らみがあるとこ全部なのかな?」


「ヴェトン、そんなことはいいから急ぐぞ!」


「……だな!行こう!」


「おいスケベトン!いきなりやらかしてんじゃんかよ!私のケツに手当たってんだけどぉっ!!」


「痛ぇぇぇっ!!脇腹蹴るんじゃねぇ!それと『ベ』じゃなくて『ヴェ』って言え!!」


ゼンとヴェトンは全力で大地を駆け抜けた。

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