第46話「弱点」

「うっ……」


ゼンが気を失ったすぐあと、交代するようにシルキーが目を覚ました。

怪我はレミューの回禍によって回復している。


「シルキー、戦闘中に随分と気持ちよさそうに眠っていたね、ふふ」


「……!」


レミューの声を聞いた瞬間、何度も宙返りをしながら後退し、いつもの倍以上の間合いを取った。


横目で気絶しているゼンを少し見た。


「なにが『鍛える』よ?これ以上、あんたのドSプレイに付き合うつもりはないんだけど?」


「負けるのが怖いんだ?」


「……は?」


「シルキー、あんた学生の頃から何度も注意したのにまだあの癖が治ってないわね?」


「テメーに頭を殴られまくってたから忘れちゃったのよ!」



ドドドドッ!



シルキーは得意の閃光を手から放った。


「本当その攻撃好きだね?」


レミューも同じ様に手のひらをシルキーに向けて同じ数の閃光を放った。


(速っ!)


後発で放たれたレミューの閃光はシルキーの閃光よりも速く、既にシルキーの近くまで伸びていた。


閃光が衝突した。


(しかも……強い!)


シルキーの閃光は取り込まれ、逆に増幅したレミューの閃光がシルキーに直撃した、


「きゃぁぁっ!」


シルキーが吹き飛ばされ、痛みに耐えきれずに数秒間転げ回った。

砂埃が舞う中でどうにか立ち上がるが、レミューほどの相手を戦闘中に数秒見失うのは死と同じである。


(……どこ?)


「ああっ!!」


後ろに回っていたレミューに首を絞められ、髪を掴まれる。


「は……放せよ……ババァ……」


「今度こそ頭に叩き込んでよね?シルキーは敵との戦闘で少しでも手こずると、相手をイメージ以上に強いと考える癖があるのよ、アンタ」


シルキーは真後ろで首を絞めるレミューに向け、指先から何度も閃光を放つが、難なく避けられてしまう。


「首に纒禍をして締め上げられるのは避けたのね?」


「ぐっ……」


レミューはニヤッと笑い、髪を掴んだままシルキーを足払いで地面に叩きつけた。


「ぐっ……あ……」


「言っておくけどシルキーあんたは強いよ?あと5年もしたら今の私をボコれるくらいまで強くなる。けど……」


レミューはシルキーの顔を地面に押し付けた。


「あああっ!!」


更に地面にシルキーを叩きつける。


「あんたはゼンに一生勝てない」


今度は掴んでいる腕の骨を折った。


「うぁぁぁっ!!……ぐっ!!」


「何故か?それは『自信』が足りてない。だから弱い敵には強いけど、実力者には苦戦するの」


再びシルキーの髪を掴むと、顔を何度も地面に叩きつける。


「ぅ……うぅっ……」


「いい加減、雑魚専ざこせんは卒業しなさい?」


レミューはようやくシルキーを解放した。


「ふーぅぅ…」


手に絡まったシルキーの抜けた髪の毛を取り払った。


「はぁはぁ……はぁはぁ……ぺっ……」


コツン……


シルキーは折れた歯を口から吐き出し、レミューを睨みつける。


「どうすればあんたを殺せるか聞きたいとこだけど、その前にゼンにどうやったら私は勝てる?」


「やべ、おっぱい出ちゃってる」


レミューはシルキーの問いを無視し、着崩れた服を直している。


「おい!聞いてんだろ!?」


「うっさいわねぇ、ちょっと待ってよ!」


ため息を吐いた後、レミューは鋭い目線でシルキーを見た。


「イメージ修行しかないかな?自分より強い相手でもどうやったら勝てるか考えてみなよ?」


「……それでもゼンに勝てるイメージが湧かない。禍力なら負けない。けど、肉体的な力とか武器の扱いが上手いし……」


「力が強くて武器も扱いこなす意味では私もゼンには勝てないことになるよ?他に心当たりはない?」


シルキーはここまで言われて理解わかった。


「ゼンは常に自分より強い敵と戦ってきた……」


「その通り、わかってるじゃない?」


「……」


「シルキーは多数戦には強いけどタイマンだと弱いでしょ?それは多数戦だとあんたの頭は『殲滅せんめつ』のみを考えている。だから余計なことを考えずに戦っている」


一呼吸空けてレミューは続ける。


「でも一対一サシだと余計な相手の情報を頭に詰め込みすぎる癖がある。だから自然と嫌なイメージが湧いて、自分の禍動が弱くなり、結果いつも接戦になっちゃうんじゃない?」


「……そうかもね」


「そんな戦い方が続けてたら、いずれプチパニック起こして勝てる相手にも勝てなくなるわよ?」


レミューの指摘は的を得ている。


先日のリノビオとの戦闘もシルキーはコンディション絶不調であったが、それでも焦らずに戦えば本来はシルキーの圧勝だった。


「そこで授けるわ……禍動の極地、『奥禍おうが』……」


奥禍おうが?」


「奥義と思ってもらっていいわ……私がつけた名前なの♡かっこよくね?」


「そういういいから!……どんなのか教えて!」


「奥義の語源はわかる?」


「知らん」


「ぐっ……!テメェー……少しは考えなさい!」


少しイライラしながらもレミューは続けた。


奥義の語源は、武術などの教えにおいて、秘伝を部屋の「奥」で相伝したことに由来している。


「イメージしてみて?」


「イメージ……?」


シルキーは目を閉じてイメージを沸かせる。


「部屋……閉じ込めるのね?」


(やっぱり天才ね、この子……)


「そう、次にその部屋にどうやって閉じ込めたい?空間の色や大きさ、匂い、部屋の物質は何で出来てる?その部屋には何が置かれてる?」


「……鏡」


「鏡?」


「鏡張りの部屋に閉じ込める……」



━ !? ━



レミューは突如出現した狭い鏡の中に閉じ込められてしまった。

しかもシルキーはいない。

レミューだけが閉じ込められている。


(試着室くらいの大きさかしら?)


48枚の多面鏡で構成されている狭い部屋を触ったり、コンコンと指で叩く。本物の鏡であった。


「これでどうするつもりかな?」


その時、シルキーが鏡に映った。


「!!」


「こう見えても私、オシャレとかメイクとか、ネイルとかすんの好きなのよ。だから閉じ込めるって聞いて、真っ先に鏡張りの部屋がすぐイメージ出来たわ」


レミューが驚いたのは、鏡の狭い部屋には何度も見回してもシルキーはいない。

しかし鏡の中のシルキーは歩き回りながら語りかけている。


「実態がないんじゃ反撃も出来ないわねぇ、ちょっとピンチかも……」


鏡の中にいるシルキーの足が止まった。


「これなら絶対にあんたをれる……」


(逆に私は鏡に映ってない。本物の鏡のようだけど物理無視……つまりこれはシルキーのイメージの世界に私が閉じ込められてるってことね?完璧じゃん……)


「たしか、生徒に殺されるのはアンタの本望だったわよね?」


レミューの力で叩いても鏡が壊れない。


(仕方ない禍力でぶっ壊すか……あれ?)


その間に鏡の中のシルキーは両手に閃光を溜め、鏡から眩く光でレミューが包まれる。


(禍動が出せない!……あの子……まさか……)


多面鏡にいる48体のシルキーから容赦ない閃光が放たれた。


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!!


爆風と共に鏡の部屋は消滅し爆炎があがった。


「はぁはぁはぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


エネルギーの消耗が激しく、外にいたシルキーは再び大の字に倒れ込んだ。


「痛てて……っ」


(……は?)


声の主は爆炎の中からするレミューの声だった。


「すごいわね、一発で奥禍おうがを覚えただけじゃなく、禍動を強制的にオフにする効果も付与したのね?その発想は私にもなかったよ」


爆炎がようやく薄くなり、レミューの姿を見ると首から下の右半身が抉れ血を流していた。


レミューは倒れているシルキーに向け微笑んだ。

対照にシルキーに戦慄が走った。


「はぁはぁ……化け者かよ……?」


「90点ってとこかな?次あれやるなら天井と足元の地面も鏡にしなさい?それなら100パー私を殺せたわよ?」


━━━━━━━━━━━━━━━


鏡の中で絶体絶命だったレミューは、シルキーの光の禍力が放たれる瞬間に心臓と頭を守るように、体の半分を犠牲にして飛び、天井にしがみついていた。


━━━━━━━━━━━━━━━


「やってくれたわね……さすがにここまで禍力を喰らったのは生まれて初めてかも、ふふふ」


そう言うと、残った左手で傷を撫で、身体は全て再生した。


「嘘でしょ……?」


(臓器、骨、筋肉繊維、神経、細胞、すべてが再生してる……クソ……無敵かよ)


「血液までは再現出来ねぇからクラクラするわ。まぁ、シルキーも私くらいになるまでにはこのくらいの欠損も治せるようになんじゃね?」


「はぁはぁ……生憎、私はあんたと違って人間やめるつもりないから……」


「とにかくシルキー、私が『死ぬかも』って思わされたのは、あんたが人生で初よ?」


(……!)


「絶対に勝てないと思った相手を殺せるイメージはこれで出来た?このイメージは絶対に忘れないでね?私からの最後の授業だと思ってさ……」


(そうか……最初からそのつもりで……)


「うわ、泣いてるし!アンタ昔からいつも負けると泣くよね?ダサー!」


(ぐっ!このババァ、私の口調にそっくり……)


瞼が段々と閉じていくシルキーはあることをお願いした。


「ねぇ、私の折った歯を治せるくらいの余力はあるわよね?治してよ?」


「は?甘えんな、自分でやれ」


(違う、私がこの人に憧れて口真似したんだっけ……)


「奥禍で全部禍動使っちゃったのよ……」


レミューは上を見ながら人差し指を唇に当て、「あ、そう言えば」と、なにかを思い出した。


「私でも奥禍おうが使ったら一発で禍動切れるから気をつけてね?」


「っ………先に言えよ……」


シルキーは目を閉じたあと、再び心地良く眠りについた。

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