第45話『修行』

ゼンたちが逃亡して24日が経った。

王宮の時間軸では、ユラソル逮捕の数日前にさかのぼる。


この時はまだレミューの自宅近くの渓谷けいこくでゼンとシルキーが修行をしていた。


修行2日目にして、2人は大の字で息を弾ませて倒れている。

激しさとは打って変わり、黒い空には美しい星が輝いている


戦闘中にもかかわらず、ふと目の前に広がる光景と絶望的な力の差に、ゼンは現実逃避をしてしまった。


そのゼンの胸の上にレミューが勢い良く座った。


ドガッ!


「うぐっ……」


「ほらほら、美人先生にお尻だぞ?童貞のゼンには少し刺激の強いご褒美だったか?」


ゼンはグリグリとレミューに纒禍てんかされた体重をかけられ、圧死するような悲鳴を何度もあげた。


「はぁはぁ……本当に死にかけなのかよ?」


「まだ意識あったんだねシルキー?少しはタフになったじゃないか?」


レミューが不敵な笑いをしながら、今度は指一本動かすことができないシルキーの首の上に乗っかった。


「うぐぉっ!……お……こ……殺……す……」


息ができないシルキーだったが、まだ減らず口は叩けた。


「え?殺す?ふーん……どうやって?」


「ぐ……ゴォ……」


「でも確かに病気より、可愛い生徒に殺される方がいい人生かもね?」


レミューは更にお尻に体重をかけると、ようやくシルキーは失神してしまった。


「ふぅ……少しは強くなってると思ったけど、まだまだね?念のため腕試しやっといて良かったよ」


ゼンがよろめきながら立ち上がった。


「ま……まだ……だ……」


シュバイツァーを杖のようにしてふらつきながら立ち上がり、レミューを見据えた。


「いいぞゼン!そうこなくちゃな?」


「うおおおおっ!」


声を出すことでようやく身体が動き出し、鞘を外した抜き身の刀を全力で振りかぶった。

が、レミューの持っている小枝で難なく防がれてしまう。


(いくら小枝を纒禍で強化しても……シュバイツァーを防げるのか……?)


「あんたの弱点は戦闘中に考え過ぎてるからこそ、シンプルな敵に苦戦する……もしかしてヴェトン君とか苦手タイプなんじゃない?」


ヴェトンとは個別で修行をしているレミューは、ゼンの苦手な相手だと瞬時に見抜けていた。


レミューは小枝だけで受け止めながら、お留守にしているゼンの足元を払う。

ゼンは地面に呆気なく転がった。


それでも健気(けなげ)に立ち上がるゼンを、まるで我が子を可愛がる目で見つめた。


「そうこなくちゃゼン♡」


「はぁはぁはぁはぁ……」


(戦闘中に考えるな……考えるなら、攻撃を繰り出す前にイメージをしろってことか……)


顔は下を向いたままゼンの荒い呼吸が段々と静まっていく。



シュッ……



(消えた……!?)



レミューにこの修行初めての焦りが見えた。


(いない……!どこ!?)


ドドドドッ!!


どこから放ったかもわからない雷の禍力攻撃が背後からレミューを襲った。


「ちぃっ!」


レミューは迎撃できる時間がなく、地面に転がり攻撃を避けた。

すると目の前から不可避の光の禍動がレミューを包んだ。


「動けない!これは……」


目を凝らすとレミューの体全体に禍動の糸が何重にも巻きつかけれている。


ドゴオォォォッッッッ


纒禍の応用禍動でバリアを張り、間一髪でレミューは閃光に焼き尽くされるのを免れたが、そのバリアはボロボロで音を立てて崩れ去っていった。


その瞬間 ━━━


(上っ!?)


上空からゼンが全身全霊で太刀を振りかぶった。


刃が当たる寸前に、顔を分厚い纒禍で防ぐレミューだったが纒禍がどんどんとめり込み、やがて肉体に到達していく。


「ぐっ……!」


(禍力の糸が強力すぎる!結構やばいかも……)


踏ん張る地面が崩れていき、支えきれなくなったレミューの足元は転ぶように仰向けに倒れた。

レミューの体を支えている地面も、ゼンが押し斬る力でヒビを作りながら押し込まれていく。


(いける!)


ゼンの力がどんどんと増し、全ての禍動をこの腕とシュバイツァーに込めたその時、レミューは嬉しそうに呟いた。


「ゼン……強くなったね?」


「!?」


ドスッ……


「がはっ……!!」


(バカな……糸はまだ巻き付いて……!?)


「せっかく相手を縛ったなら近接じゃなくて遠距離攻撃でフルボッコが基本よ?」


唯一動かせるレミューの指がゼンの脇に抉るように刺さっていた。


「化け物かよ………」


ゼンは意識を失った。


「おっと!」


体に巻き付けられた糸が解けて、レミューは前のめりに倒れるゼンを抱きしめた。


(ゼンは既に全盛期だった30代の私に肉薄している。あと2、3年も過ぎればその頃の私より強くなるだろうね)


「末恐ろしい子だわ……ふふ、あとはアイツか?」


ゼンを岩場の上に寝かせながらシルキーを見ていた。

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