第44話『揚力』
ゼンに敗れ自害した校長室は、今は皇帝のネオマと王妃の居室となっている。
校長ひとりが使うには贅沢すぎるこの部屋は、図らずも臨時とは言え、王の居室としてお
その校長室にルミシスが一人、訪れた。
「お休みになるところでしたか?」
「それよりルミシス、生きていてなによりだ」
「恥ずかしながら……」
「余に苦言を言えるのはルミシスだけだからな」
「滅相もございません……」
「……おおよそはグラリオから聞いた。余はどこで間違えた?」
「間違えなど……間違えたのは私です……」
「そんなことはない。余が兄ユラソルを冷遇したのが間違えだった。いや、過去を辿れば兄の不始末を私がつけたことによって皇帝となり、今こうなったと考えると、あの時から……余が……」
そう言いかけたところに王妃が口を挟んだ。
「そんなことはございません。皇帝陛下、私はあの時にあなたと出会い……こうして……」
王妃は涙ぐみ、それ以降言葉が出せない。
そこにルミシスが割って入った。
「皇帝陛下、失敗は学びでございます。私は今日それがわかりました。まずは失敗を認めてからが成功の一歩かもしれません。」
「そうだな……」
「そこで一つ
「何なりと申せ」
「フィーナと言うこの禍学の学生についてですが……」
「心臓の悪魔と呼ばれた学生か、それがどうした?」
「率直に……お赦し頂けませんでしょうか?」
「……ゼンか?」
「はい……彼がこの国に必要になります」
ネオマは貧相な花瓶にささっている一輪の花を見つめた。
「それは?」
「ここの生徒が危険を
ルミシスは花の知識がないが、素直な感想をもらした。
「美しい花ですね」
「余は最初この禍学専門学校が不気味だった。そもそも禍動は
「はい……」
「しかし、この有事を通じて初めて彼らと、生徒と接してわかった。彼らは決して化け物でもなく、血の通った人間である。その真心が余には伝わった。この地獄を通して、それを学んだ……」
「皇帝陛下……」
ネオマは机にあった杯を手に取り、水を口を湿らせたあとカランと杯を置いた。
「ゼンとフィーナにかけられた懸賞金を取り下げろ。そして、その金額をこのエレメントを救う勇者がいるなら、彼らに等しく与えよ」
「素晴らしいご英断かと、そのように致します」
ルミシスが外に退出しようとすると、ネオマはルミシスを呼び止めた。
「明日からの食事は2日に一回でいいと伝えよ」
ルミシスはさすがに止めたが、王妃が代わりに説明をした。
「皇帝陛下と先ほど話し合ったのです」
「しかし……!」
王妃はルミシスを遮った。
「ここには乳児までいると聞きました。子供たちを優先してあげてください。その次は前線の兵士たちに……皇帝陛下と私は残り物を頂けるだけでも有難いのです」
ルミシスはブワッと涙が溢れ、不覚にも無言で退室をした。
(二度と皇帝陛下にこのような思いはさせない……)
壁にもたれかかれ、物心のない子供の頃を除けば生まれて初めて声を上げて泣いた。
その声は校長室にも聞こえている。
皇帝と王妃はそれに目を合わせるだけだった。
妃はネオマに不安そうにこぼした。
「ルミシス様にはまだ秘めておかれますか?」
「今は有事だ……そのあとでもいい」
妃は少し口元を押さえて笑った。
「けど、あの様子ならネオマ様のお考えを聞いたら血相を変えて怒るんじゃないでしょうか?」
「ふふ、そうだろうな……けど、いいんだ。今回のことで確信したよ。皇帝など頭に冠を頂くだけの単なるお飾りだ……」
「まぁ……随分と思いきられたことを」
「………」
「……どうした?」
王妃は一つ聞きたいことがあった。
「私に子供が出来ないからですか?もし子供がいたらお考えは変わりましたか?」
「いや、変わらない」
そう言うと王妃の隣に座った。
「大事なのは皇帝ではなく、『国』を考える者たち自身なのだ。その想いがあれば皇帝などいなくても平和は続くと余はそう思う」
「皇帝陛下……」
「もしケイミューやゼンがこの国を救ってくれたら、どこか海の近くに住もう。政治も国も忘れて、犬を飼って、何か仕事をしたい……」
「……ぷっ」
「おかしいか?」
「いえ、貴方様らしいかと……そうなる日が楽しみです」
「私もだ……」
彼女はネオマの胸の中にそっと飛び込み、ネオマも彼女を強く抱いた。
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