第37話『深層』

「私も不死身じゃないんだ、病気の一つや二つあってもいいだろ?」


レミューがタバコをふかした。


「タバコなんか吸ってるから……」


「ふっ、ゼンは相変わらず真面目だね?若い子は好きだけどやっぱりゼンはタイプじゃないなぁ」


ゼンは沈痛な面持ちで念押しで聞いた。


「先生あと数年で本当に……?」


「間違いなく死ぬよ。数年どころか来年もわからないよ」


「だからさ……」


思い詰めたレミューに恐る恐るゼンが聞く。


「だから……?」


「ヴェトン君みたいなイケメンに囲まれた死にたーーい♡」


「レミュー先生!おれ……好き……レミュー先生……好き!」


瞬間的に頭がイカれてしまったヴェトンはそれだけを繰り返す。


「いい加減にしろこのバ……えっと……年増?」


結局ぶっ飛ばされるシルキー。


「で?フィーナちゃんだっけ?悪いけど……守ってやってもいいけど私はすぐ死ぬし、そして君がなぜ殺されるのかはわからない。ごめんね?」


(ここまで来たんだ)


そう思ったゼンは簡単に諦められなかった。


「なにか……本当にないんですか?」


「てか、そんなこと知ってたらもっと早く教師なんて真っ先に辞めて王宮の奴ら皆殺しにしてたわよ」


(……たしかにレミュー先生が知ってるなら犠牲になっても生徒を守るか……)


「無駄足だったようね」


シルキー頭のたんこぶをさすりながら、がっかりしているフィーナの肩に手を置く。


レミューは口から輪っかの煙を出しながらゼンに聞いた。


「もしかしてこの子、超校則違反の『タトゥー』を入れたからとか?」


少し茶化しながら笑うレミュー。


「先生ふざけないでくださいよタトゥーなんてフィーナにはどこにも…」


「あっ!」


そう言えばと、なにかを思い出したシルキー。


「フィーナのお尻に…ハートの形をした『タトゥー』あったわよね?可愛い顔して意外とヤンキーなんだ?って思ったのよ」


はじめフィーナはポカンとしていたがようやく思い出せた。


「あぁ!あれタトゥーじゃなくてアザなのよ。まだあったんだ?お尻にあると気づかないのよねぇ」


「………」


レミューが真剣な表情になったため、ゼンに嫌な予感が走った。


「レミュー先生……タトゥーを入れた生徒がいたら直接、校長先生に報告でしたよね……?」


「えぇっ!そうなんですか?」

「マジ?不良は退学ってこと?」


生徒しか経験のないフィーナとシルキーは知る由もない。

この校則は王宮ルールと呼ばれて、教師になると王宮の研修で初めて習うルールの一つだった。


「昔から不思議だったんですよ……だってうちの学校は基本的に生まれてすぐに入学で、基本的に卒業まで外に一歩も出れないんですよ?」


ゼンの疑問はレミューも当時から抱いていた。

レミューがフィーナに質問をした。


「フィーナちゃん、そのアザはいつ気づいた?昔からあったの?」


「ううん、先生と学校から逃げた日にプールの授業でモイス先生に指摘されてたな……」


「ほう……」


レミューはタバコ咥えて目を細めた


そしてゼンはあの日のことが脳内でパズルのように組み立てられていく。


「レミュー先生……その日に校長からフィーナを殺すように言われたんです」


「てことは、完全にフィーナのケツに出来たアザが原因か?あ、でもタトゥーとアザを見間違えた?ややこしいな」


ヴェトンのデリカシーのなさに頭をこつくシルキーだったが、レミューが頷く。


「ヴェトンちゃん、その直感は正しい。学校からしたらタトゥーだろうとアザだろうといいんだよ、探している形が見つかれば……」


ゼンが静かに被せた。


「タトゥーのようなハートのアザを持つ学生を王宮は探していた……?」


「ここまでの事実整理をすると、何故か禍学の生徒からハートのアザが出る子供が出ることを王宮は知っていた」


「……なるほど」


「そんでもって、見つけたら学校はそれを校長を通じて王宮に通報するようになっていたんだろうね」


シルキーが怒りを抑えながら静かに呟く。


「つまりそのアザがあるからフィーナは殺されそうになってるってこと?」


「おそらくそのアザが出ると王宮にとって都合の悪いことが起きるんだろうな」


ヴェトンの言葉にフィーナが不安になる。


「私……なにかおかしくなったり、モンスターみたいになっちゃうのかな?怖いよ……先生……」


「大丈夫だ……」


ゼンがフィーナの肩に手を置くのをレミューは目を細めて見ていた。


「ゼンも先生なんだね……ふふ」


「え?ちょ……恥ずかしいこと言うのやめてくださいよ!」


フィーナが肩に置かれたゼンの手の上に手を重ねた。少し震え、様子が変だった。


「夢かも……」


「え?」


「私……あの日から……先生と逃げた日から段々と変な夢ばかり見るの」


全員がフィーナの言葉に集中をした。


「いつもね、知らない女の子が泣いてるのに声が笑ってる不気味な夢……」


「それでね、最近『こっち来なよ』って私を呼ぶの……」


「こっちって?」


シルキーが心配そうに質問をした。


「わからない……けど、『もうすぐわかるから』って言われたの」


「……」


レミューが沈黙を破る。


「よし、その夢が進むならしばらくここにいなさい!」


「レミュー先生……!」


「何があっても私とゼンやシルキーもいるしなんとかするよ。それから……」


ゼンとシルキーを厳しい顔で見据える。


「夢の中身がわかるまで2人はそれまで私と修行ね?」


ゼンも、特にシルキーは露骨に嫌な顔をする。


「げぇ……」


「そしてヴェトンちゃんは私と体術の練習しましょ?言っとくけど私は結構厳しいわよ?」


「頑張ります!!」


「そしてフィーナちゃんは夢を見たら必ず覚えてるうちに字でも絵でもいい。必ず書き留めて?」


「はい!ありがとうございます!」


レミューの修行は1週間続くことになる。

幸運だったのか、或いは悲劇だったのか、この西の最果てサザナという土地にいたため、ゼンたちはわからなかった。


この修行の期間に世界が一変することが起きる。

魔族たちによって首都セレメントがたった一夜で陥落する。

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