第33話『横道』
━━━ 5年前
「頑張れー」
深夜の森で仲間のギルドたちが魔族と戦っているが、シルキーは馬車の荷台から脚をぷらんとさせ、心が全くこもっていない声援を送っている。
「お前も戦え!!」
リーダーが剣で魔族の攻撃を防ぎながらシルキーを怒鳴りつける。
「………」
「おい!ぐっ……!」
呼びかけに応じないシルキーに怒りを滲ませ、リーダーは魔族を蹴り飛ばし間合いを取ると、再びシルキーに怒号を更に強めた。
「報奨金が入ってもお前には1Gもやらんぞ!」
無関心そうにそっぽを向いていたシルキーだったが、顔をようやく仲間達に向け、対峙している魔族に視線をやる。
すると魔族たちは次々と崩れ去り、戦っていた仲間達が唖然とする。
「ど……どうやったんだ?」
シルキーが加入するまでパーティー内で最強だった禍動士の男がシルキーに訊ねるが
「さぁねぇ?」
と、不敵の笑みを浮かべるのみだったので、皆の怒りが頂点に達しかけたが、
頬に手をつく所作、そしてすらりとミニスカートからのぞかせる脚の白さに、男たちは少し頬を赤らめる。
「それよりこの死体拾っといてね」
と、シルキーは座っていた馬車の荷台から降りてささくさと水浴びへ向かう。
『
『
あらゆる呼び名を欲しいがままに卒業したシルキーが、最大組織のギルド「ヘムス」に加入してから1ヶ月ほど経つ。
彼女がいなければ達成できなかったミッション、命を落としていたかもしれない場面は数知れない。
しかし生意気で言うことを聞かず、そして何より気まぐれ、性格の悪さに、簡単に言うと皆が手を焼いていた。
「おの女!いつかぶっ殺してやる!」
ぐちぐちと言いながら魔族の死体を拾う男たちだが、ギルド内最年長の男は言った。
「けど、シルキーってエロいよな……?」
「たしかに……そして可愛い!」
手を焼いて困る一方で、18歳の美しい少女に心がときめきもしていた。
そしてリーダーはシルキーの所在を思い出した。
「そういえば……いま水浴びかな?」
少し沈黙したあと3人はすけべ面をしてシルキーの後を追った。
◆
「なにが最強パーティーよ、ただの雑魚じゃん」
シルキーは在学中からその実力を内外に轟かせており、噂を聞きつけた複数のギルド協会が中等部時代から何度も口説かれていた。
余談だが、ギルドは国家公認の協会だけでも120団体ほど存在する。
更に非公認も併せればもう把握困難であった。
その中でも実力、資金力、ギルド加入数が飛び抜けている団体協会が3つ存在する。
人はそれを3大ギルドと呼び、その中でもっとも老舗である協会ヘムスが彼女を射止めた。
(ゼンのバカが安泰思考だからそこにしたのに!!)
実はシルキーは別にどこでも良かった。
「ゼンとならどこでも」と誓い合っていて、
卒業3ヶ月前からゼンにあれこれ相談していた。
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「ねぇゼン?」
ゼンの片腕にしがみついて甘えながら将来について話している。
「やっぱさぁ、ゼンってさ安定思考じゃん?ヘムスだったら安定してるでしょ?」
「おー」
「進路決まってないならそこにしない?スカウトに来た人からも私たちだったら2倍の報奨金払うって言ってくれてるしさ!」
「ほーん」
ゼンはその頃から教師にと思っていた時期だったから、つい上の空で返事をしてしまった。
「やった♡決まりね?」
更にムギュっとゼンに抱きつき頬にキスをする。
やがて加入手続きをしたあと、突然ゼンが教職を目指すと告げられた。
その日は最大の大喧嘩になり、結局は将来からも、恋人としても別れることになってしまった。
卒業後に契約通りヘムスに加入するが、浮かないシルキーとは別に協会は異例の厚遇で出迎えた。
「我がヘムスで最も勢いがあるパーティに加入してもらおう」
そして現在に至る。
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(ゼンのバカ……あいつがいなきゃ旅なんてつまんないよ……)
寂しそうに服を全て脱ぎ、旅の汚れを川で落としていく。まだ初夏前で少し寒かった。
(なにやってんのかなぁ……ゼン……)
パキッ
思いつめていたため、踏まれた枝が折れる音でようやく誰かがいることに気づいた。
(魔族……?いや……人……?)
雲間から月の光が入ると、照らされているのはパーティーの仲間たちだった。
「やっべ!!意外と胸でけぇ!」
まずリーダーが鼻の下を伸ばした。
「……なにしてるんですか?あっ……!」
ハッとして腕で胸を隠し身を屈めるシルキー。
いつもと違った弱々しい態度に、ベテランたちは自分の股間を揉みながら、ギルドの闇を無意識に白状した。
「なにって?へへ、そりゃ……パーティーに女がいればさ?ある意味お約束と言うか……わかるだろ?」
これはギルドのパンドラの筺とも言える。
ギルドの仕事柄、命を落とすことが当たり前のため、自然と命知らずの男で構成される。
そこに女性がいるのは禍学専門学校卒業生の進路がギルドに固定されていたためだった。
「女ギルドは
田舎の村の子供でも知っている常識だった。
男たちは死線を越えるたび、人間の生理として繁殖機能が高まるのはごく自然な現象と言える。
大抵はどの繁華街にも色町はあり、冒険者たちはそこで解消するのだが、長期の野営となるとその発散先がないため、仲間に女禍動士がいればたびたび仲間内で処理させられることがあった。
協会に苦情を言えば配置転換はあった。
しかし、新しいパーティ内で性的被害が起こってしまうのが実情だった。
この負の連鎖にギルド協会全体でも対策は考えはしているが、会員の大多数が男であるため、結局は
そのため女禍動士は気づけば妊娠をすることもザラで、悲惨なのはパーティー内の誰が父親かもわからないといったことも珍しくはない。
(こいつら……)
シルキーは生まれて初めて心が死んでいくことを覚えた。
(ゼンにすら見せたことないのに……)
立ち上がると、体を隠さず男たちに笑みを浮かべた。
「え、シルキー?もしや見られると"そう"なっちゃう性格なの?うんうん、いいね!」
ベテランたちは興奮の極みとなってニヤケている。
「今日はとことんエッ……えっ…………?」
「………」
笑みは浮かべるが、シルキーの瞳に感情がなく男たちに戦慄が走った。
シルキーはまず、ため息をひとつ吐いた。
「お前らにはさぁ、トラウマって言うんだっけ?それを一生埋め込ませてやるよ?」
それから数秒もかからず3人はほぼ死体と化す。
男たちが動けなくなったあと、丁寧に体を拭い、服に袖を通していく。
「よし、次は踏み潰しの刑ね?」
倒れた男たちを
顔面の骨が皮膚から飛び出すほど原形がなくなり、ヘムス史上最強の剣士であるリーダーは涙腺を負傷して強制的に涙を流している。
「ほ、ほう(もう)はんへん(勘弁)……して……」
シルキーはしゃがみ込み、リーダーの男の髪を掴み上げニコリと笑った。
「ぜってぇ勘弁しねぇ」
その後も執拗なほど痛めつけたあと、禍力の視覚攻撃で触れもせずにリーダーの腕の
断末魔を叫び終えると男は気絶した。
余談だがその後リーダーは二度と剣を持てず引退することになる。
「良かったわね?(ギルド内で)仲間同士の殺し合いが重罪なんて法律があって」
シルキーは無人の馬車に戻り身支度を整えると、これまで獲得したパーティの全財産が入った袋に目をやった。
「退職金ってとこかしら?」
ぎっしりと詰まった数袋の有り金袋をすべて掴み、馬車から降りるとあくび混じりに独り言を残した。
「ロクなもんじゃないわね、ギルドって……」
シルキーの向かう先は森の中、まさに闇の中に消えてしまった。
残された彼らは近くの山師に発見され、入院をすることになった。
この事態を聞きつけた協会はこの前代未聞に苦慮し、出した結論はシルキーを「行方不明」として宮廷に届けを出し、事態をおさめたのだった。
なお、パーティだった男たちは傷は癒えたが精神的な事情により今も入退院を繰り返している。
━━━━━ そして現在
ヴェトンが自分で食べた肉を「ない!」と騒ぎ、ゼンを疑って口論を始め出した。
それをフィーナが抑えている。
「ふふ……」
シルキーの表情にフィーナが気づいた。
「2人とも!シルキーさんも笑ってますよ!」
胸ぐらを掴み合っているゼンとヴェトンが止まり、シルキーに視線を送る。
「……明日は雨かもな?」
ヴェトンは力無くゼンを掴んだ手を離した。
「私が笑ったらなんか悪い!?ああっ!?」
4人の笑い声が雲ひとつない空に響き渡った。
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