第34話『勝負』

ゼンたちが逃亡して20日が経った。

ゼンの恩師レミューがいるサザナまであと少しだった。


「ゼン……さっきはごめん」


「気にするな。慣れない環境なんだ、そう言う時もあるさ」


シルキーが珍しくゼンに謝ったのは、

先ほどの戦闘でシルキーらしからぬ"放射した禍力"の狙いをミスショットした。


ゼンがフォローに入り、シルキーは間一髪で助かっていた。


「俺もこの状況に完全に適応できていない」


「そう……」


「むしろ禍動が落ちてる気さえしている」


彼らは命を常に狙われ続け、精神的疲労がピークに達していた。


特にゼンはひどく、一番長く戦いに身を置いているため、ふと糸が切れれば崩れ落ちてもおかしくない。


そして、精神的な不安定さがあるシルキーに至っては日に日に禍力が痩せ細り、命中率も落ちてきている。


禍動は精神力に左右されるため、シルキーの重大な弱点かもしれない、と密かにゼンは思った。


「おーい!新聞買ってきたぞ?」


陽が傾きはじめた森の陰から声が聞こえた。いまこのメンバーの中で元気のはヴェトンだけかもしれない。


「手配書は回っていたか?」


唯一素性が割れていないヴェトンが村に偵察ついでに新聞を買っていた。


「あぁ、それと通報懸賞もかけられているから街には当分行けそうにないな」


「ヴェトンもしかして何か食べた?」


「ギクっ!」


フィーナがヴェトンの口元の匂いに気づいた。


「やっぱり!ずるい!ひどいひどーい!」


「そりゃ役得ってやつだろ?あははは!」



ー ドス ー



「はは……は……」


「ヴェトン?」


一気に冷えた表情で後ろをゆっくり振り向くと銀髪の男がヴェトンを後ろから刺していた。


(へぇ、すげぇなこのデケェ奴……空気の変化だけで感知して腕でガードしたのか)


「 !! 」


ゼンが(刺客)と瞬時に脳で判断し、ヴェトンの正面にいたフィーナがやや遅れて反応する。


シルキーだけは既に敵の間合いへ踏み込み、目を見開き敵の眼前まで進んでいた。


(やば!速ぇっ!)


銀髪の体勢が整っていないためシルキーに応戦が間に合わなかった。その時!


ドン!ドドド!


遠くから放たれた新手の攻撃で、間合いから間一髪でシルキーが銀髪を仕留め損ない離れる。


「ちっ……」


逃げるのが少し遅れ、シルキーの左腕が弾け飛んでいた。

しかし撫でる様に傷に手を触れ、一瞬で欠損箇所が再生する。


間合いをはかりながらシルキーは考えていた。


(あのヴェトンの腕、そして腰まで貫通してる…なかなかいい刀ね。それより……)


(それより……)


ゼンも同じことを思っていた。


(( いつから…? ))


「青い目ってことはこいつがシルキーか?」


「思ったよりガキだな?」


のそのそと新手が近づいてきた。


「シルキー、フィーナ連れて今どのくらい全力で走れる?」


ゼンの問いにシルキーが短く答えた。


「……ぶっちゃけ30分くらい……かな?」


「頼んだ」


シュッ……ーー


その場からシルキーが一瞬で消える。


脚に纒禍を集中させ、呆然とするフィーナを抱きあげてシルキーが、再び瞬間移動したようにその場から消えた。


「リデア!リノビオ!」


新手が「追え!」と言わんばかりに銀髪のリデアと遠くから攻撃を放ったリノビオに声をかけた。


しかしリデアだけはヴェトンが立ち塞がる。


「よぉ……刺して終わりはねぇだろ?」


「すげぇなお前……はは!」


腰に手を当てるヴェトンを見てリデアは笑いながら刀を振った ━━



この旅でのゼンたちの敗北条件は他の勝負事とは違う。


『フィーナの捕縛、もしくは殺害』


負けず嫌いのシルキーもそれを理解しているので、黙ってフィーナを連れて逃げた。


謎の男と睨み合い互いに動かない。いや、不要に動けないと言った方が正確かもしれない。


敵はゼンに柔らかい口調で投げかけた。


「いい判断だ。他のギルドが手を焼くはずだ。

強いだけならとっくに死んでるしな……」


「……」


「そうだよなぁ、ゼン?」


(こいつ……強いな……)


━━━━━━━━━━━━━


シルキーがフィーナを抱えて大地を蹴り上げては中空を飛ぶように逃げるが、何度振り返っても、リノビオはしつこく喰らいて追いかける。


(こいつ速いだけじゃない……強い……)


「お前さっきから俺に攻撃してる?」


リノビオがそう言ったのは、シルキーは敵の確認と同時に、得意技である視覚攻撃でリノビオの肉体破壊を試みてはいた。


「シルキーさん?」


不安そうに見つめるフィーナに、シルキーは優しく微笑む。


「大丈夫、最悪意地でもあいつを止めるから。そしたら逃げることだけ考えていなさい」


その裏で、内心シルキーは焦りがあった。


(視覚攻撃は格下にしか通じないのよねぇ。ゼン以外だとはじめて……かも)


━━━━━━━━━━━━━


隣でヴェトンとリデアは高速で動きながら、ぶつかる衝撃だけが辛うじて見える戦闘をしてる。


その中でゼンは対峙する敵と静かに睨み合っていた。


沈黙を破ったのはゼンだった。


「お前は……スパージュだろ?」


スパージュは突然の本名を暴かれて驚いた,


「……なぜ知っている?」


「中坊だった頃にあんたを学校で見たことがある。卒業者OBの講演で……たしか、『未登録魔獣ハンター』のギルドだろ?」


「エクセレント!!」


「な……なんだ?」


「思い出した!懐かしいなぁ、ほとんどのガキは寝ていたのにちゃんと聞いてくれてたのか?嬉しいねぇ」


「たしか『狙った魔獣を狩る時は肉体を疲弊させるのではなく、精神を疲弊させてから狩る』だったよな?」


「はっはっは!エクセレントだゼン!」


スパージュは満面の笑みを浮かべた。


「……おそらく数日前からだろ?隠禍いんかで気配を消しながら張っていたな?」


「うん!いいぞ、ゼン!お前の禍動探知には引っかかってないはずだが、視線で気づいてたか……ますますお前を気に入った……ふふ」


「今の俺なら『れる』と思ったか?」


ゼンは過去最高に疲れ切っていた。


「別に"最強"を殺したいわけでもないし、金も要らない、ただ狙った通りに大物を仕留めるのが快感なだけだ」


スパージュはマントを脱いだ。


「……行くぞ、後輩くん」


スパージュは一瞬で間合いに入り、目にも止まらない素早いナイフ捌きで攻撃を仕掛けた。

ゼンはシュヴァイツアーを抜いて応戦する。


(ゼン、お前の戦闘はずっと見てきたからわかる……)


ゼンがシュバイツァーを高速で振り下ろす。


(まずは左袈裟)


ガキィン!


(次は突き…)


キィン!


(次は禍力による炎……よし、今だ!)


ゼンの周りが炎で包まれた瞬間 ━━


後ろから草のつるの禍力により手に巻きついた。


(あらかじめ……この禍力を隠してた……?)


シュヴァイツアーを落とした。


「しまった!」

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