第27話『酩酊』
この酒場の真隣にある小さい小屋がシルキーの家らしい。
意外にも可愛いコスメやキラキラしたベッドなど、女の子の憧れのような部屋だったため、可愛いもの好きのフィーナは目を輝かせた。
そんなフィーナにシルキーは淡々と注意をする
「あんま触んないでね?触れてほしくないとこは結界だらけだから、触ったら死ぬよ?」
そしてフィーナに少し意地悪な質問をした。
「ねぇ?禍学の3年なのになんでそんなに弱いの?」
遠慮なく聞くシルキーにおどおどするフィーナ。
「えっとね…先生たちの時代って、たしか実技は1年生からなんだよね?ちょっと前から3年の今の時期からになっちゃったんだぁ」
苦笑いするフィーナにシルキーは追い討ちをかける。
「よくそんな弱さで旅が出来るわね?」
「うん…本当だよね…えへへへ…でもゼン先生が私のこと"絶対に守る"って言ってくれて、いつも助けてくれてるんだぁ」
と、頭を掻きながら再び苦笑をした。
無意識だったがシルキーの心が掻き乱れ、フィーナに『あること』を告白しまう。
「少し遅くなるかもだから、お風呂はあっち、トイレはそこ、私のベッドで寝ていいわ。パジャマもそこの使ってね?そんじゃ!」
シルキーが再び家を出ると降りしきる雨は更に強くなっていた。
「何であんなこと言ったんだろ?まぁどうせ本当のことだしぃ!」
フィーナの口癖を少し真似ながら、胸を高鳴らせてゼンの元へ小走りで向かった。
ドアが閉まった後フィーナは彼女から言われた『あること』にショックを隠せなかった。
「……嘘……シルキーさんが……ゼン先生の『元カノ』……?」
◆
戻ってきたシルキーの一言目は
「一杯飲む?」
だった。
その一言の意味は野暮なことだが少し解説したい。
この言葉には3つの意味があった。
まず、ゼンたちが飲酒を許されるのは禍学には酒がないため当然卒業後からになる。
卒業後はみんなギルド加入になるため、酒を飲めるクラスメイトの再会は貴重であった。
そして、もう2つ目は労いだった。
ゼンは守ることに集中するため実は酒はおろか、この旅の間きちんと睡眠を取った事がない。
ヴェトンが仲間になるまでに至っては仮眠もせず神経を常に研ぎ澄ましていた。
その点でもヴェトンをよほど信頼している証だった。
ただ、いくらヴェトンがいても連戦の疲れは確実に身体を襲っており、そのゼンの疲労困憊の様子をシルキーは見抜いていた。
だからこそ、
"私がいるから安心して心を和らげて欲しい"
という、かつての関係の中で育んだ、2人きりの時だけ見せるシルキーなりの優しさである。
「あんまり…強くないから、本当に一杯だけ」
ゼンの前にグラスを置き、そしてシルキーも同じ酒を注いだ。
「とりあえず…乾杯…なのかな?」
「ふっ、嫌味か?首に金をかけられた日に乾杯か」
グラスの合わす音が店に小さく響く ーー
◆
「で、マジであの校長殺したの?」
「いや、追い詰めたのは間違いないが…最期は自分で……」
その言葉でなんとなく校長からフィーナを守るために立ち向かったことを察知したシルキー。
「あの子はなんなの?何かしたの?」
「わからん…ただ、急に『今夜中に殺せ』と言われて…」
「どこから?」
「セレメントの王だが、命令は皇帝陛下として、だ」
この事実にシルキーは少し驚いた。
各地に王はいるが、あくまで皇帝から委任されたに過ぎない。中央都市セレメントは皇帝ネオマが自ら統治している。
セレメントだけの統治のみを指す場合は「王」とされ、便宜上はセレメントのみの統治権を持つ。
ただし、ネオマは14カ国の皇帝でもあるため全世界に命令を出す時は皇帝陛下としての指令を出す。
フィーナ殺害の指示はセレメントとしての立場ではなく、全世界の頂点としての殺害指示をゼンに命じた。
どんな凶悪犯であっても一人の人間を殺すのに皇帝陛下が勅命を出すのは異例中の異例であった。
「あんた、全世界を敵にしてるってことじゃん?」
これまでの最高懸賞金額から桁が6つも違うため、頭の中ではわかっていたが、実際にこうやって直接ゼン本人に聞き、現実感が湧いた。
「どうするのよ?」
ゼンの目的を聞くシルキーにゼンは逆質問した。
「レミュー先生…覚えてるよな?」
苦々しそうに笑うシルキー。
「当たり前じゃない。あんな化け物忘れるわけないでしょ?あのババアがどうしたの?」
「今は教師を辞めてサザナにいるらしい。フィーナを匿ってもらえないかな?って……」
これには初耳のシルキーが驚く。
「うそ!辞めたんだ?100歳まで先生やると思ってた」
「ふふ、確かにな」
とゼンも苦笑して同意した。
「そういや俺たち2人で突っかかったけど、かすり傷すら与えられなかったもんな」
懐かしそうにシルキーに語りかける。
「ゼンなんてやられて泣いてたじゃん!?『俺、強くなりてぇ…』とか言っちゃってさ」
からかうように笑うシルキーにゼンも応酬した。
「は?シルキーなんて何日も学校に来なくなって俺が無理やり引っ張って行ったの忘れたのかよ?」
「はぁ!?私が学校行かないなんて普通だったから!」
しばらく沈黙が続いたあと、ゼンが苦笑したあとシルキーも笑った。
「懐かしいな…あの時の学校のことも、お前とのことも」
「そうだね…こうやっていつも喧嘩して仲直りしてたもんね…?」
酔いが回ったゼンがコクっと頷くとシルキーの肩に頭を乗せる。
お酒を飲ませた3つ目の理由はゼンに酔っ払わせて本音を喋らせてリラックスして欲しかった。
そして今、4つ目の理由が出来てしまった ーー
こうしてかつての恋人だった時代を思い出し、大人になった今なら、ゼンも私も向き合えると…。
シルキーにもし誤算があるならば、その様子を窓からフィーナが見てしまったことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます