第24話『襲撃』

ゼンたちが逃亡してから13日が経った。


一行はトリニティに向かうが、近づけば近づくほど魔物や魔族が多くなり、今もこうして戦闘を余儀なくされ、少し進みが遅れた。


ゼンが弾き飛ばした魔族はヴェトンが上空5メートルから捕捉して強烈な打撃を与えて木っ端微塵となる。


「なんかトリニティに近づくごとに強さも上がってねぇか?」


ヴェトンは死体の山となった魔族を見据えてゼンに問う。


「あぁ、ここの森は生命力が強いのかもな。それに魔族や魔物を引き寄せるんだろう。つまり中央部には更に敵の数も質も上がるかもしれん」


愛刀シュヴァイツアーを鞘に納めると雨が降った。


「また雨ぇ?もう…最悪ぅ!」


と緊張感のないフィーナの声を引き締めるようにゼンはフィーナを背負った。


「ヴェトン走るぞ…少し時間をかけすぎた」


ヴェトンは木々をすり抜けるように疾風のように駆けていく。


「しかしゼンは速ぇな。フィーナを背負って俺と同じ速度かよ」


「禍力を足に纏って走ってる俺と、素の脚力で同じ速度のお前がおかしいだけだからな?本当なんなんだお前は!?」


フィーナはゼンの背中から呑気にヴェトンにその技を教える。


「それをね、纒禍てんかって言うんだよ?」


「フィーナは出来るのか?」


「うーん…まだ指に纏えるくらいの範囲なの。それでも10分も使ってたら禍動切れちゃう」


「難しいんだな禍動って…俺はそんな能力なくてよかったぜ」


「うん…それでも普通は全身に纏いながら戦える人は珍しいんだって。けど、ゼン先生は私の歳の頃には全身に纒禍をしながら2時間は戦えたらしいんだよね」


「やっぱゼンってすごい人なの?」


これにはゼンは赤面しながら謙遜する。


「すごい定義がわからんが、状況とその日のコンディションによっては上下する。まだまだ上には上はいるはずだ」


ゼンの講義がいつものように始まった。


「そもそも禍動の闘いは『じゃんけん』みたいに絶対的な強さがないんだ」


「これから会うシルキーって奴はそれ差し引いても強いんだろ?」


ヴェトンの質問にゼンはユニークな喩えをした。


「そう言う意味で言うと、あいつの場合はチョキでグーを砕く反則みたいな奴だからな…」


ゼンは懐かしそうにある挿話をした。


「俺が禍学の生徒時代はスパルタ教育全盛期で、1年生選抜vs2年&3年生の選抜連合と戦った時があった」


「ゼンが一年坊だった時の話か?それで?」


ゼンがふふ、と笑いながら続ける。


「2、3年全員倒して最後まで立っていたのはシルキーだけだった」


「えぇ!?先生は?やられちゃったの?」


「試合が終わった瞬間に禍動が切れて倒れてしまった……」


「へぇ……先生もそんな時代が」


「ただ、シルキーは倒した上級生の顔に一人一人に禍動の文字で落書きして煽ってたくらい異常だったという思い出話だ」


その話にヴェトンがゲラゲラと笑った。


「どんなゴリラだよ?」


「あはは、ゴリラか…意外かもしれんが見た目は普通の女の子だよ?生身の肉体だけならフィーナとそこまで変わらないかもな」


この一言で2人の目つきが変わった。


「えぇ!女の子なの?やったー!女子トークに飢えてたんだよねぇ」


「おっぱいは!?」


「お前らは何でそんなアホな発想がすぐ出来るんだ…ヴェトンのセクハラは論外として、女子特有の話題は多分苦手じゃないかな?俺と似て友達いなそうだったし」


能天気な2人に突っ込むゼンだったがヴェトンが急に真面目な話に話題を変える。



「なぁ?さっきから見られてるよな?」


これにはゼンが感心した。


「さすがだなヴェトン。しかも少しずつスピードを上げているが振り切れない」


「どうする?」


約1キロ先の方角を顎で指すゼン。


「向こうは俺たちが気づいているとは思ってない。そのアドバンテージを使って返り討ちにする」


「どうすりゃいい?」


「フィーナをお前に預けたら俺は振り返って奴らを仕留める。ヴェトンはあそこのほこらでフィーナを置いて守ってくれ。もしかしたら俺を切り離す戦法かもしれんからな」


そう言うとゼンはフィーナをヴェトンにパスした


「私はボールじゃないんだけど!!」


フィーナの愚痴を言った時にはゼンは既に地面を蹴り上げ、敵の方角に向け、たったひと蹴りで800メートル先にいた敵の懐まで入り対峙した。


「!!」


敵はまさかの方向転換に驚くが、刀を抜く前にゼンのシュヴァイツアーの鞘の先で鳩尾を抉られ失神する。


ゆっくり地面に下降しながら敵を捕捉する。


(あと一人か…?)


大木に隠れていたもう1人が杖の先から光の放射をゼンに浴びせ、慌てて回避する。


(危なっ!)


間一髪で避けるが森が球体状に抉れる。


(すごい威力だな…杖による攻撃力増幅か…まだこんな知識を知っている禍動士がいるんだな)


「ちっ…」


悔しがる禍動士は次々に杖の先から光の放射を放つもゼンのシュヴァイツアーが次々に弾き、徐々にゼンが近づきつつある。


敵の禍動士に焦りが見えたが、

ゼンが「ある場所」を踏んだ瞬間笑った。



カチ……



つんざめく爆風がゼンを襲った。


「やった!!」


と、喜ぶ禍動士だったが真後ろからシュヴァイツアーを突き立てられていた。


上半身が傷だらけのゼンは静かに言う。


「脚の纒禍が間に合わなかったら今頃あの世だったな…」


「クソ…」


突き立てたシュヴァイツアーの刃を首筋に寝かせる。


「杖を今どき使わないのは常に片手が塞がらないようにすることで、体術向上による攻め守りのレパートリーを増やすのがトレンドの戦法だ」


「…っ……」


「勉強は常にすることを勧める」


敵は汗をかきながら薄ら笑いを浮かべた。


「……禍学の時から勉強は苦手だったんだよ」


ゼンはすぐに話題を切り替えた。


「なぜ襲ってきた?話せば見逃してやる」


「……懸賞金だよ。今日お前と一緒にいる女の首にとんでもねぇ値がついたんだ」


「そうか…なら約束通り逃すが、次は…わかるな?」


そう言うとゼンがスーっと消えた。


「たしかに…最強ってのは言い過ぎじゃないみたいだな……」


禍動士が薄ら笑いを浮かべて尻餅をついた。

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