第23話『火種』

「人間をハントしろ」


ギルドも例は少ないが、人間を討伐することも過去にはあるのでそこに違和感はない。

違和感を感じたのは魔族ならともかく、たかが人間を捕まえるだけで、何故我々がこの場に呼ばれたのか、である。


そして更に言葉を失ったのはその成功報酬額であった。


『7,000万G』


(皇帝陛下直轄国の年間予算ではないか…)


と、情報通のアクシィ頭目が目を丸くした。


実務主義のヴェナート頭目が手を挙げて発言を求めた。


「その前代未聞の報酬金をかけられた人物とは?」


「元禍学専門高等学校教師のゼンと、同じく元生徒のフィーナの2名です」


とロータスが言うと、上席であるルミシスが刷ったばかりの手配書をみずから渡す。


(ゼン?たしか禍学の至宝と言われた男か?)


ヘムスの会長はゼンを知っていた。

なぜなら数年前のゼンたちの卒業時にシルキーとゼンにヘッドハンティングをしたことがあった。


「彼らは何をしたのですか?」


と、ごく当たり前の質問が出た。ロータスは「それは」と前置きし、表の理由だけ述べた。


「先日、ゼンはフィーナと共謀して禍学の校長を殺害したおそれがあり、現在逃亡中である」


これには元禍動士として校長と同窓で旧知だったアクシィの会長の衝撃はすさまじかったが、冷静を装いとある疑問をぶつけた。


「容疑の段階でこの前代未聞の報酬金は何か裏があるのでは?」


またもや当たり前の質問をぶつけたがそこはルミシスが冷静に


「あったとしても知る必要はありません」


ピシャリと遮った。これにより三者は


(このゼンと言う男の力に手を焼いているのだろうが、他にも裏がありそうだ)


と、言う思惑だけは感じ取れた。


その後は細かな調整や申し送り事項など細かな話になった。秘書がいないため協会長がみずからペンを走らせる必要があった。


その最中で唯一ペンが止まり、互いの顔を見回した重要事項があった。


『ギルドのバランス崩壊の危険を考慮して、ギルドに対する報酬金の分配は3協会で談合せよ』


その代わり、7,000万Gを出すのはこの三大ギルド協会のみとした。


彼らは異論を挟まず、3人とも口角があがったのをルミシスたちは見逃さなかった。





会談が終わり、彼らは一目散に場から離れてそれぞれの馬車に乗り込む。


その様子をルミシスとロータスは窓から見下ろしている。


「なかなかの癖者ぞろいと聞いていたが、大した悪人ではなかったな」


と、ルミシスがロータスに言った。


ロータスは昨夜の情事の前にルミシスと相談していた。


ロータスはこの計画着想の前からギルドの数があまりに多いことがずっと懸念だった。

いくら委託しようにも数が多すぎては余計な経費や説明が必要のため、どうしても再編成が必須だった。


「奴らの口元を見て確信したよ。おそらく頭の中は、『三大ギルド協会に報酬金が集中するならば、中小の会員ほぼ全てがそっちに流れることになる』と思ったのだろう。これで事実上この世には3つのギルドになった。それも全て大規模予算を採択してくれたルミシスに感謝している。」


ロータスは窓から視線を変えずに背中のルミシスに謝辞を簡単に述べた。


「それがいいと思ったから採択したまでだ。礼には及ばん。それより、あの3つの協会はどうなると思う?」


「おそらく、アクシィは禍動士だけの集団らしく『校長の仇』などと言って禍動士を集め、ヴェナートはよそで眠っている実力者や引き抜きをはじめるだろう…そして本命のヘムスが実質全ての中小協会を手中におさめる、かと」


ロータスは続けた。


「奴らはゼンを殺れると思うか?」


ルミシスは素っ気なく答える。


「無理だろうな。周りからゼンの話を聞く限り奴らでは敵う相手じゃないし、そこは我々としても想定内だ。ただ…」


「ただ?」


ロータスの問いにルミシスは少しだけ笑って言った。


「かつて商務局にいた時、ギルドを管轄していた先輩の言葉だが、本物と呼ばれるギルドは自由気ままで、戦闘が何より好きらしい。そういう奴らは大手よりも個人で非公認組織に所属していると話していた。本当にそんな奴らがいて、表に出てくるなら…あるいは、と思った」


ルミシスの視線が窓からロータスに移つす。


「滞っている政務に戻る。期待してるぞ?ロータス」


と、言葉をかけた後、強引にロータスの腕を掴んで向かい合わせ、背の低いルミシスは出来るだけ背伸びしてキスをした。


「次からはヒールを履いた方がいい」


ロータスの嫌味にルミシスは微笑して去った。





各協会はロータスの指示通り、3日後に手配書を交付し、どの新聞もこのことを取り上げた。


ギルドたちの反応は様々で、報酬金の大きさに尻込みする者、逆に金に目が眩む者、徒党を組む者などが多い中、


と、ルミシスの予見した通り無名のバーサーカーたちが、『最強の禍動士』の首を狩らんと三頭と化したギルドへ続々と加入していった。


この日を境に各ギルドの戦闘カースト勢力図が一変した。

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