第22話『結合』
王宮では徐々にゼン包囲網が形成されつつあった。
内務局局長のルミシスはロータスの仕事ぶりに感心する一方で危ういとも思っていたが、
たとえばロータスは会議をなくした。
この時代の会議の意味は合意形成でも意思決定の場でもなく、『保険』という側面が大きかった。
会議をする際は、出席者に重きを置き、
重臣が多ければ多いほど決定事項に対して王の不興を買っても
『さすがに誰々がいるから王に全員処断されることはないだろう』
とタカを括った。
実際にその通りで、よほどの会議内容じゃない限り「王が採用するかしないか」「発案者が誰なのか」が、老獪なこの国の政治舞台では重要だった。
特に派閥争いなどが起こっている時は要注意で、政敵からはもはや一挙手一投足まで見届けられ、その結果たった1つの失言で政治生命が終われるケースもザラにあったため、より誰を味方につけるかに絞り躍起になった。
そんな中、ロータスは大抵のことは1人で決めてしまう。
理由は『時間が惜しい』ということだった。
宮廷事情に詳しい同僚たちは止めるよう助言したが、ロータスは文字通り
「命をかける」
と言って取り合わなかった。
たとえ磔にされようが斬首されようがロータスには確固たる信念があり、
王に直接進言できる以上は命さえ捨てれば、根回しを前提にした会議などくだらんと思ったのだろう。
ただし、報告はルミシスには必ずあげる。
それでもルミシスは毎回進言する内容が客観的に見ても現実的で妥当と判断して退けたことはない。
「常に人の三歩先を読み、そして人よりも三歩進む勇気がある」
と普段人を滅多に褒めないルミシスが手放しで評価した。
そしてロータスもルミシスのことを、と言うよりも人に対し、生まれて初めて『信頼』というものを覚えた。
◆
ルミシスとロータスは自然と男女の関係になり、つい今さっき、その日の情事が終わった。
ベッドから出たルミシスがバスローブを身に包む。
いつものように眠たげな目をして袖を通した時、ふと漏らした。
「心臓の悪魔を知っているか?」
知ってるはずがない。これは王宮広しと言えど知ってるのは皇帝以外に数名しかいない。
なぜそんな重大なことを話したのかは、ロータスの仕事でとても重要でいつか伝えなければいけないと思っていたが、先日のカフェのようなタイミングはまずない。しかも完全な密室でなければならない。
"気の緩み"ということで話をしたことにしようと、理性的に考えた末だった。
「あくまでも今から独り言を言う。ただし他言はするな」
「……」
"数百年に一度だけ『心臓の悪魔』と呼ばれる者が現れ、かならず国に禍をおよぼす。その場合において出来ることは悪魔の心臓を止めることのみ"
「と言う伝説だ」
「それがフィーナである、ということか」
と、物分かりのいいロータスはルミシスの独り言に反応した。
「ついでに忘れ物をしたことにしよう。ここに私と執事長しか入れない王国編纂室の鍵がある。"忘れ物を取りに来た"ということでまた来る。その時に返してくれ」
と、告げてシャワーを浴びにその場を離れた。
「心臓の悪魔…か」
ロータスはうごめくように呟いた。
◆
翌日ロータスはすぐにでも『心臓の悪魔』について調べたかったが、今日は三大ギルドのトップと同時会談をする予定だった。
出席予定の協会は以下のギルドになる。
難関テスト合格者のみで構成された実力者揃いの"ヴェナート"。
禍動士のみで構成した唯一の協会"アクシィ"。
そして、会員数トップにして最古のギルド"ヘムス"。
この巨頭が一堂に会する会談が始まろうとしていた。
この3人は世界皇帝署名のもと集められたが、理由を聞かされておらず、彼らの秘書さえ入室を禁じられていたので、どれほどの国家機密についてなのか想像もつかなかった。
また、三大ギルドが集結した例はこれまで一度もなかったため、皆誰もが
(よほどのことらしい…)
と、緊迫した面持ちでロータスの入室を待った。
ロータスを待っている間、ヘムスの協会長は
「せっかくの機会なので名刺交換でもしよう」
と提言して、みな頭を下げて名刺を配った。
その時、重々しい扉が開く。
(あれはルミシス卿、その後ろの男は?)
と、赴任直後のため誰もロータスは知らなかったが、意外にも新官ごときのロータスが今回呼んだ責任者だと冒頭の挨拶で触れ、そしてこの男にしては珍しい前置きをした。
「日頃の治安安寧は皆様のおかげであり、皇帝陛下はもちろん、当方としても心強く感じております。」
と、頭を下げたためこの巨魁たちは意外な嬉しさとなった。
いつもガミガミと上から物を言う官僚に辟易していたこともあるが、それでもこの程度のお世辞で好感が持てたのは案外単純であったのかもしれない。
そしてロータスは言った。
「早速ではあるが本題に移る。これら5日後に一般公開する情報を日頃の国家忠誠に応えたく、皆様だけに先行してお伝えしたい。用件は賊を討伐してほしい。それも魔族ではなく人間です」
これにはギルドの長老たちがざわついた。
ゼンとフィーナのことだった。
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