第21話『賢愚』
1時間前ーー
「うっ…ぐっ…」
バンダナを巻いた男が目を覚ました。
身体中がまだ痛いが頭は少し働いた。
うっすら目を開けるとそこには椅子に腰掛けたゼンがいた。
「…は?…え…?うぇっ?」
ゼンの回禍で怪我が治ったようだったが、他の仲間たちはみな失神しており、リーダーもうわごと相変わらず呟いている。
「回禍で頭が回る程度には治してやった。ただ割と回禍は苦手なんだ、すまんが歯は諦めてくれ。そこは再生できなかった。」
「な…歯…?歯が…!歯っ…!ああっ…!」
歯がなくなってることにパニックを起こすバンダナ男を冷たい目で見下ろすゼンは静かに言う。
「今から俺の言う問いにだけに集中しろ。次に質問以外のことを言えばもう一度同じ姿にする。いいな?」
バンダナは冷や汗を流しながら過剰に頷いた。
「誰にやられた?特徴と攻撃方法を言え」
「わはらない!フード被っれれ…急に現へて…」
バンダナは歯がないため喋りにくかった。
今度こそ殺されないためにもゆっくりと発音を心がけた。
「見 た こ と な い "か ほ く(禍力)"!!目 が あ っ た だ け で カ ラ ダ こ わ れ た ! み ん な!」
「ほ い つ 笑 っ へ た! じゅっ と !!」
(視覚攻撃だけで骨を粉砕?4人同時に…)
「そいつの瞳の色は?」
「こ わ い ! …思 い ら し た く な い!やら…やらあぁっ!!」
思い出すことを脳が拒否するように震え出すバンダナだったがゼンは睨みつける。
「お前たちが襲おうとしたのは俺の生徒なんだ。その子は優しくてな…『どんな理由でも自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だ』と言ったんだ…だからお前を殺すことはない。」
バンダナはその言葉に少しホッとするも、ゼンは地獄に突き落とす一言を放つ。
「言い換えれば、殺さなければ何をしてもいいとも取れるよな?」
キッ!と睨みつけると悶えるバンダナ。
「うごおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
ゼンが視覚攻撃でバンダナ男の鎖骨を折ってしまった。
「実は俺も出来るんだよ、同じこと…もう少し試してやろうか?」
「ああああああああっ!!いやらぁっ!あああっ…ぐうっ…うわぁっ…」
「…どうやら俺の弱点は生徒のためなら何でもやってしまう性格らしい。ただ、それが愚かであっても…直す気はない!」
(やばい!強い…強すぎる!こいつ…あのフード野郎と違ったやばさだ!やばすぎる…!)
バンダナは恐ろしいあのフードの奥にある瞳の色を、失禁しながら顔を歪めて叫ぶ。
「あ…!あ ほ !!」
「アホだと?」
「……ちらう(違う)……あ ほ! ……!!うおおおおおっ!!」
「あ…うぉっ!!」
(青……)
ゼンはクスりともせず考えた。
(青い目、視覚攻撃、精緻でいてこの破壊力…ヴェトンの話だと数分以内でこの光景だった…間違いない…これをやれる奴は一人……だとしたら何故フチネに……)
これ以上は聞きたいことはもうないと判断し、ゼンはバンダナ男を含め彼らを回禍して解放した。
「こいつらを連れて自首しろ。あとそれから、天井の穴はお前たちが弁償しろ?いいな?」
「しゅる!!弁償…しゅる!!」
首が肩にめりこむほど頷くと、男は一目散にリーダーの元へと這っていった。
◆
時間は戻り、オレンジに染まる夕凪のなかゼンはフィーナとヴェトンに次の行き先を伝えた。
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『トリニティ』
フチネ国境から50キロほど西に進んだ先にある林業がさかんな国で、国土がほぼ森林に覆われている。
伝承によるとかつては妖精の棲家として平和に暮らしていたが、勇者たちに壊滅させられた魔族の師団がここへ落ち延び、妖精たちは彼らによって殺され、追われてしまったと言う。
一足遅く到着した勇者は逃げ遅れた妖精たちの遺体を丁重に葬り土に還すと、そこから森が広がったとされている。
伝承によるとその木々には『聖樹』と呼ばれる不思議な力があると言われているが、そのまわりには強力な魔族が棲みついてしまい、誰も近づけないため真相はわかっていない。
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「トリニティって行ったことねぇけど森しかないとこだろ?」
「まぁ、森と言っても集落はあるはずだ。それでもそんなに多くはないからすぐ見つけられると思う。」
「先生!」
フィーナが手を挙げてゼンに質問する
「その紙はやっぱり同級生さんの伝言だったってこと?もしそうなら私、先生の同級生さんに助けてもらったってことなんだよね?聞いてた話よりいい人そうじゃん?」
ゼンは少し不思議な言い回しで言った。
「そうだな…ただ手紙によるとそれだけじゃなさそうだったけどな」
ひとり苦笑しているゼンにヴェトンとフィーナがきょとんとする。
「行き先以外になんか書いてなかったのか?」
ヴェトンの言葉に少し手を口に当てて考えるゼンだったが
「うーん……それは秘密にしておこう…かな?」
と、はぐらかしたのでヴェトンはゼンを力任せに羽交締めし、フィーナがこちょこちょとくすぐり"拷問"をする。
既に陽が沈んだビーチで3人が次の目的に向かい歩き出す。
途中、ゼンは焚き火でバーベキューをやっている若者たち声をかけた。
「すまんが、この紙を焚べてもいいか?」
若者たちは酒が進んでいるのか上機嫌に快諾し、手渡されたそれを丸め、
「いってらっしゃーーい!!」
と、大笑いしながら燃やした。
こうして"旧友からの手紙"はフチネの夜空に浮かぶ煙の一つと化した。
(いってらっしゃい…か)
きっとふざけて出たその言葉だっが、それは偶然にもまるでフチネから送り出される言葉のように感じて少し笑ったゼンだった。
◆
その頃、トリニティのとある酒場で ーー
「ゼンスキーさん、このお通しなんすか?めちゃうまいっす!」
強面の男たちが今日のお通しの美味さに店主を褒めちぎる。
ゼンスキーは青い瞳に笑みを浮かべた。
「気づいてくれて嬉しい!実はね、今日フチネの市場に朝から行ってて色艶がいいお魚を仕入れたの。身が締まってて美味しいでしょ?」
その様子を見ていた常連らしき老人がいつものと違うゼンスキーにたずねた。
「おや、今日はなんかいいことあったのかい?いつも以上に機嫌が良さそうじゃよ?もしや男ができたとか?」
((彼氏……!!?))
ゼンスキー目当ての強面客たちの会話がその瞬間ピタッと止まった。
しかしゼンスキーは大笑いして老人をからかう。
「いやだなぁ……もう!今日はいい『収穫』に出会えてテンション上がっただけよ、ふふ」
と笑った。老人は皿に盛られた仕入品と思い、「たしかにこんな魚が手に入ったらそうなるか」とゼンスキーの機嫌の理由を勘違いした。
美人店主狙いの客たちもほっと胸を撫で下ろして再び会話がはじまる。
「ちょっと仕込みしてる火加減を見に行くわね?」
ゼンスキーは奥の厨房に入るが、
仕込みをしている鍋など一つもない。
ふぅ…とため息と共に『シルキー』は少し笑う。
手紙は燃やせば感知できる高等禍動テクニックを仕掛けていた。
「やっぱり"あの子の先生"はアイツだったのね…」
ヘアゴムを咥えて、髪を束ねて結くシルキー。
「『来るなら燃やせ』とは書いたけど……手紙燃やしたってことはここに来る気か……って!」
バシッ!
シルキーが何かを思い出したような壁を叩いた。
「……やばい!!」
高圧的な笑みから絶望の表情に変わり、
頭を抱えてしゃがみこんだ。
「私の『ゼンスキー』って偽名はやばすぎるーーーーーっっっ!私のバカーーーー!!!まだ未練があるって思われちゃうよぉぉ!」
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