第20話『期待』
目の前を父と手を繋ぐ子供が通り過ぎた。
(合わす顔がねぇ…このままいっそあいつらと…)
その時だった!
「ヴェーーーートーーーーン!!」
後ろからフィーナが走って追ってきていた。
ヴェトンの服を掴んでゼェゼェと息を吐く。
「お…おい、もう大丈夫なのかよ?」
「はぁはぁ…やっぱり…はぁはぁ…『あった』…」
不明瞭なフィーナの言葉に疑問を持つヴェトンだが、答えはヴェトンの胸ポケットに入れているフィーナが地下で持たされていた紙だった。
「あぁ…なんかフィーナが気絶してる時に持っていたのをなくさないようにしてたんだっけ、でも無地の紙だぜ?」
「それが…はぁはぁ…ゼン先生が言うには禍動で出来てるっぽいんだってぇ、それ」
さきほど、ゼンはヴェトンのポケットからほんのわずかだが禍動を感じたらしく、その何かをヴェトンが捨てる前にフィーナが走って取りにきたと言う。
ヴェトンはあらためてポケットから取り出して太陽に透かしたりして見てもただの無地の紙だった。
「本当にそんな凄い紙か?フィーナは見えるのか?」
紙をフィーナに渡すが、
「うーん…やっぱただの紙じゃない?」
2人は何をどう見ても特徴はまったくないと言い合う。
すると紙を眺めているフィーナの後ろから誰かがそれを指でつまんでスッと取る。
「フィーナでも、と言うより相当な禍動士でも大抵はわからんかもしれん」
「あ、ゼン先生!これ先生ならなにか見えるの?」
遅れて登場したゼンはその紙を見つめる。
「かなり薄い禍動で文字が書かれているな…読むのに少しだけ時間がかかるかもしれん」
「ヴェトン、今度は俺もそばにはいるが、解読に専念したい。すまんが、もう少しだけフィーナといてくれるか?また海で遊びたいらしい」
ヴェトンは気まずそうに口ごもる
「俺は…だって……」
「ヴェトンだから頼めるんだ」
「…………っ!!」
なんとなくヴェトンの考えがわかっていたゼンは、頭をガシッと掴んで撫でまわす。
あの時に出会ったギルドの男とは違い、慈愛がこもった優しさと、励ますような力強さだった。
そしてフィーナもヴェトンに甘える。
「ヴェトン…?今度は字の練習ばっかりじゃなくてちゃんと遊んでよ?」
ヴェトンの黒くなった目に、再び光が宿る。
「………ったく……仕方ねぇ奴らだなお前らは!!いくぞぉっ!?うおおおおっ!!」
フィーナを勢いよく広い肩に乗せてビーチへかけていくヴェトン。
その光景をゼンは晴々とした顔で見つめていた。
◆
しばらくするとゼンがフィーナたちに向かって歩き出した。
時間は既に夕陽で海は赤く染まり出した。
ゼンがなにかを言いかけると
「なんかビーチにマント着た男ってこんなにも場違い感があるんだな」
とヴェトンがゼンの格好に突っ込んだ。
「仕方ないだろ、まさかこれ着て逃げるなんて考えもしなかったんだから!まぁいい、それよりも…」
「ゼン!『それよりも』は俺のセリフだ!なぁ?フィーナの水着かわいいよな?」
「ちょ!ちょ!ちょっとヴェトン!やめてよ!」
ヴェトンがフィーナへ余計なアシストをする。
やめてと言いつつフィーナはドキドキしてゼンの言葉を待った。
「なんだヴェトン?フィーナが好きなのか?恋愛は自由だが、すべてが終わるまでは…すまん…」
「ちょいちょいちょい!!今日で2回目だが、俺はおっぱいが大きい子が好きなんだっつーーの!!」
なにかすごい勘違いをされていると思ったヴェトンが大慌てで訂正をするも、今度は怒りに震えたフィーナに殴り飛ばされ、地面に上半身が埋まるヴェトン。
「ヴェトンのバカー!マジ最悪!!」
ふと横を見るとヴェトンの埋まっている向こう先からいつのまにか陽が沈みだす。
(ぼーっとしながら空と海の間を見る瞬間が自分にもあるなんて…フィーナの言う通りこういう時間もいいものだな…)
「ねぇ、ゼン先生?」
髪を指でくねらせながらモジモジするフィーナ。
「水着どうかな?可愛いかな…?」
フィーナの提案を思い出していたゼンに言葉は入っていなかった。
「ありがとう…」
(ありがとう?え?それって可愛い美女の水着が見れて最高ってこと?え、待って…嘘!てことは…『水着あざす→好きだよフィーナ』…ってこと?)
「♡♡♡!!!!」
暴走したフィーナは嬉しさのあまり砂に埋まっているヴェトンを引き抜きはじめた。
「あ!てか…おーい!話したいことがあるからみんなこっちに来てくれ!」
ゼンの言葉は届かず、引き抜かれたヴェトンがお返しとばかりにフィーナを海に放り投げて水遊びが始まった。
「海に来て良かったーーーーー!!!」
大笑いしながらフィーナが叫ぶのを見て、ゼンは昔を思い出す。
(そういえばあいつも昔言ってたな…)
━━━━━━━━━━━━━━━
『……見たいものがあるんだよね』
『見たいもの……?』
『うん…フチネには海ってのがあるんだって。一度はフチネの海を見ないと人生損だってよ?』
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「まったく…人の話を最後まで聞かない奴らだ…行き先がせっかく決まったのに。でもシルキー、お前が昔言った通り海は一度は見ておくものだな…ふふ」
ゼンの『解読』は既に終わっていた。
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