第17話『確率』
合格すれば他の合格者と同じように、
1年間教員研修を受けたあと、
ようやく教壇に立つことになる。
しかし禍学は扱う学問の特性上、
更にもう一年の特別研修が用意されていた。
その講習は主に公に公表されていない禍学における国との複雑な背景やルールを叩き込まれる。
その中で教わった話で一番強烈だったその数字を、ゼンは生涯忘れることはなかった。
「97.2%」
この数字は今までの統計に基づく、10年以内にギルドに入った者の死亡率だった。
(※行方不明者も含む)
教える講師はかなりいい加減だったため、
生存率と死亡率を言い間違えたのではないか?と指摘したのだが、その男はあっけらかんと言う。
「いいや、10年以内に97.2%が死ぬ」
話し手が話し手だったのでからりと聞こえるが、別の講師であればこれほどの絶望的な数字もないだろう。
読者からはいい加減しつこいと思われそうだが、禍学を卒業した場合、基本的に全員がギルドに生涯強制加入を国が命じている。
(ゼンのように教員採用試験資格をもらえるのは卒業試験で上位2名のみであるので例外)
もちろん優秀なギルド組織に入れば生存率は上がるだろうが、同時にギルドも無限に受け入れは出来ないため、原則的に一組織一名となる。
必然的に禍学の成績優秀順に大手のギルドに加入して、禍学で落ちこぼれとレッテルを貼られた者たちは弱小ギルドに加入することになる。
統計上、あと8年以内に全員が死亡 ーー
まだ当時20歳になったばかりのゼンにとって辛い事実だった。
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「あの……?」
受付の声で我に返ったゼンは、感謝を述べてその場を後にした。
◆
「行方不明か…」
ヘムス本部を出てゼンは空に向かって呟いた。
ギルドの行方不明がなぜ死亡率に組み込まれているかと言うと、パーティ全員が魔族や魔物に喰われてしまい骨までなくなっていることを指す。
死体があるかないかの違いでしかなく、本質は同じでこの世にいないものとされていた。
ゼンはそれでもシルキーがまさか戦闘で命を落とすとは考えにくいとも考えている。
(ただ、もし生きているなら死んだと偽って脱走した?脱走は見つかれば即極刑だが……)
ブツブツと頭の中で繰り返しながら来た道を戻っていく。
◆
遊び疲れたフィーナがヴェトンとカフェに入っていた。
注文をしようとした時、店に大声が鳴り響く。
『今月もおつかれぇぇ!!今月の報酬たんまりもらいましたぁぁぁっ!!』
『うえぃーーーー!!お前たちぃぃぃっ!!
来月もガンガン魔族ぶっ殺しましょぉぉぉっ!!かんぱーーーい!!!』
5人の若者たちがジョッキを片手にグラスを合わせていた。
耳を塞ぐフィーナをよそにヴェトンが更に大きい声を出す。
「うっっっっっせぇぇぇぇぇっんだよ!!
小僧どもっっ!!!」
あまりの声の大きさに全席の皿が震えた。
すぐにヴェトンと巻き込まれたフィーナが店員に怒られ退店を命じられたが、
フィーナがペコペコと謝り、ことなきを得た。
フィーナが頼んだアイスティーのグラスが汗をかき始めた頃でも、まだヴェトンが先ほどの若者を睨みつけ、不快そうにしている。
「ちょっとぉ…ケンカしちゃダメよ?」
とフィーナがヴェトンをあやすように叱る。
「まったく、なにが小僧よ…ヴェトンだってそんな顔で私と年齢変わらないくせに」
「うるせぇ…俺はああいうチャラチャラした野郎を見るとイライラすんだよ。しかも…ありゃギルドだろ?ギルドはもっと紳士だと思ったぜ」
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ヴェトンの言う通りフチネの海岸はギルドの若者たちが多い。
まずギルドの年齢層のメインは、命知らずの若者が圧倒的に多く、そしてここは老舗ギルド協会である「ヘムス」の総本山である。
報奨金をもらったあとに遊ぶのが若いギルドのお決まりのパターンだった。
そして、ヴェトンがいた食の街エリーナに負けないほどフチネも飲食店が多かった。
夜はカジノ、美女だらけの娼婦店など、金を使おうと思えばすぐに溶けてしまうほど娯楽の宝庫だった。
ギルド創始者である大商人ヘムスが建国プロデュースをしただけあり、フチネでギルドを集めてフチネで金を渡し、フチネの経済循環はたまたまではなく、狙ってのことだったのであろう。
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「そういやよ、ゼンって何歳なの?」
ーー 「(ゼン)……?」
「ゼン先生はねぇ、たしか今年で23歳だよ!」
ーー 「(先生?23歳?)……!?」
フィーナから聞かされるゼンの年齢に驚くヴェトン。
「え?ゼンってもっと年上かと思った?」
「先生は落ち着いてるからねぇ…」
「あいつ完成されすぎだろ…」
2人の笑い声に、先ほど騒いでいた青年たちは苦虫を噛む顔で睨みつけていた。
◆
会計を済まし、ヴェトンと店を出たフィーナだったが、座席に麦わら帽子を忘れたことに気づいた。
「ごめん!取ってくる!!」
フィーナは再び店に入り、探すと、シートにそれはあった。
手を伸ばしたその時、
「おーい、そこの女の子♡?」
振り向くと、先ほど騒いでいたギルドの青年たちから声をかけられた。
「うぉ!いいねぇ、可愛いじゃん?」
「うん?さっきヴェトンに怒られちゃった人たちかな?えへへ、ありが………」
意識を失いフィーナは倒れ込んでしまった。
青年たちはフィーナに向け、手から淡い光を放っていた。
そのままケラケラと笑い、眠るフィーナを連れて地下の階段を降りていく。
「酒の飲み過ぎかな?」
近くの客はその程度にしか眠るフィーナを気にしていなかった。
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