第15話『意外』

(……こいつ)



きょをつかれたように立ち尽くすゼン。



「5秒やるから表出るか、その刀渡すか、闘うか決めろ?」



「5……4……3……2……」



カウントダウンを始めるヴェトンに残り1秒で答えたのはフィーナだった。


「おいテメー!?なに勝手に部屋に入ってごちゃごちゃ抜かしてんだよ!?ああっ!?」



(!!!!)



ゼン以上に、ヴェトンの衝撃はすさまじかった。


「えっと……」


「こちとら毎日毎日鳥とかウサギ食ったり、よくわかんねぇ魚食ったりしてて、しかも今日は朝から道に生えてた草しか食ってねぇんだわっ!!」


(あのフィーナなのか…?)

呼び捨てにするのも怖くなったゼン。


「フィ…フィーナ…ちゃん?」


ゼンの呼びかけが耳に入らないフィーナは、

いよいよヴェトンの胸ぐらをつかむ。


「飯食わせてもらったらいつでもやってやんよ?うちのゼン先生はテメーごとき逃げも隠れもしねぇからよ!!」


慣れない環境と常に死と隣り合わせの状況から

フィーナの『食』に対する執念が理性を失わせ、

その気迫にヴェトンがたじろいだ。


「…………わかった……わかったから…離して?ね?服、伸びちゃうからさ…ま…またあとで来ます…」


そう言うと丁寧にドアを閉め、慌ててヴェトンは部屋を後にした。





運ばれたルームサービスの食事を食べる2人。

幸せいっぱいにご飯をモリモリ食べるフィーナと、

先ほどの光景の驚きで食欲が湧かないゼン。


「先生のちょっとちょうだい??ね♡?」


無言でフィーナの更にフィレ肉を渡すとフィーナがペロっとたいらげる。


「んまぁーー♡」


頬張りながら持ってるナイフとフォークをぶんぶん振る仕草にゼンが恐怖する。


「うぉっ!」


「うん?どうしたの先生?」


(クソ……さっきの光景がまだ尾を引いてビビってしまってる)


食べながらフィーナがゼンにたずねる。


「ねぇ、ヴェトンさんまた来ちゃうと思うけど戦うの?」


「おまえが約束しちゃったんだろ!?」


ゼンの突っ込みと同時にドアがガチャと開く。


(げっ……)


ゼンの予感は的中した。

気まずそうにヴェトンがそっとドアから顔を出す。


「あのぉ、そろそろ通行料代わりのその刀をめぐって…決闘でも…その…どうなぁ?って思いまして……」


ヴェトンも完全にフィーナにビビってしまっていた。


(しかし毎回、間が悪いな…こいつ)と思ったゼンは少しぶっきらぼうに言う。


「刀は渡さんし、金もやらん。どうせ戦うんだろうけど、その前にこの飯を食べてからでもいいか?」


闘えることに少し嬉しそうにするヴェトンだが、すぐ怯えた目でフィーナを見た。

視線に気づいたフィーナは優しく笑った。


「ヴェトンさんもこっちおいでよ?」


すっかり機嫌がなおったフィーナはヴェトンを手招きする。

ヴェトンの怯えた顔がパッと明るくなりフィーナの隣に座った。





「ところでゼンたちは観光か?当ててやるよ…わかった!一年記念日旅行とか?」


素朴な疑問にツッコミを入れつつ、少しぼかして事情を説明する。


「いや…刀持った彼氏と旅行とかしないだろ?

この子はいま…ある組織に命を狙われててな…」


ヴェトンはキョトンとした顔でゼンに忠告する。

「こんなとこにいたらすぐ見つかるぜ?」


「わかってる…だから長居するつもりはない。

明日ここを出てフチネに行きたい。たぶんそこに昔の仲間がいるはずだから」


ヴェトンはよく目的がわかっていない。


「へぇ、そこで匿ってもらうのか?」


「いや、その昔の仲間がいれば引き入れてサザナに向かう。そこが俺が思う一番の安全地帯だ。

おそらく俺以上に守ってくれるかなって……」


「サザナ!?サザナって西の国にある……あのサザナ!?」


「サザナってそんなに遠いの?」


いまいち地理がわかっていないフィーナがヴェトンにたずねた。


「当たり前だろ?ここから数百キロあるぞ?しかもフチネからだろ……?」


ゼンは無論承知している。

そして誰かを守りながら戦う難しさも痛感していた。


「仕方ない……このままサザナまで行くよりも仲間がいないと…こいつを守りながら戦うのに…どこかで限界がくるかもしれんしな」


「…………」


申し訳なさと自分の不甲斐なさに俯く《うつむ》フィーナ。


ゼンは話を変えた。


「ところでヴェトンはなんでこの刀欲しいんだ?」


「そりゃかっこいいから……」


当たり前だろ?と言わんばかりの顔に嘘はなさそうだった。


「本気で言ってたのか?男の子すぎるだろ!?」


なにか切実な理由があるのか?と思い、

「なにか助けられることもあるかもしれん」

とヴェトンに語りかけたゼン。


ヴェトンは重い口を開く。


「……実はこう見えて俺バカでさ…」


「うん、知ってる」


つい突っ込んでしまったゼンだが、ヴェトンの耳は都合が良く、たまたま聞こえていなかったので、ややこしくなる前に慌ててゼンが訂正する。


「あ、いや……そ…そうなのか!?」


「だからさ…字を書けないと仕事なんて限られてるだろ?ギルドになりたいけど…俺……字が読めないから…!!」


「いやそれ、私よりバカじゃん?」


とうとうフィーナが突っ込んでしまう。


「え?」


相変わらず都合のいい耳に安堵して誤魔化すゼン。


「いや……なんでもない!ただ、読み書き出来るなら別にギルドよりも普通の仕事…」


話を聞かずにヴェトンは続ける。


「だからギルドにも相手にされなくて…

でも生きていかないといけなくて…

だからこうして観光客をだましてその日暮らしの生活してんだ…

本当はこんな悪いことしたくなかった……!

でも、今日ゼンに言われて気づいたよ…」


(俺……なにか言ったか?)


思い当たる節がないゼンだったが、次の言葉に衝撃が走る。



「ちゃんと字が読めたら…今までみんなから……3,000G……もらえてたんだなって…俺…悪いことするのも向いてないのかよって!!」


言い終わるととうとう涙をこぼすヴェトン


(こいつ本当にバカすぎる……)


ゼンは聞いて損したと、呆れの境地だった。

そして今日のフィーナはいつもに増して口が回る。


「いや、ヴェトンさん……多分いくら観光客でも3,000Gなんて大金なんて持ってないよ?」


「どういうことだ?」


涙を手のひらで拭きながら驚くヴェトンにフィーナは畳み掛ける。



「だって…エリーナって、ヴェトンさんみたいな悪いことする人がたくさんいるんだから…

お金たくさん持ってたら取られちゃうでしょ?

必要最低限しか持ってないんじゃないかなぁ?」


ヴェトンはいよいよ大粒の涙が流れた ーー


「フィーナ……お前……俺より…頭いいなぁっ!うぅっ…うっ…」


フィーナの手を握るヴェトンにフィーナも涙で答えた。


「う…う……っ…褒めてくれて…うっ……ありがとう……ヴェトンさん…うぅ…」


2人の嗚咽が部屋を包む。


(もう勝手にやってくれ……)


涙で湿った部屋の空気がゼンのため息で乾燥されていく。


ヴェトンは何かを決意したように立ち上がり全ての涙を腕で弾いた。


「だからよ!俺は決めた!

俺に読み書きを教えてくれ!!先生なんだろ!?

俺が読み書き出来たら怖いものなしだぜ!!

そしたらギルドに入れるしよ!」


あまりのバカげた話にゼンが動揺する。


「待て待て!ちょっと待て!ついてくるのか?」


「通行料の代わりにしてやるよ!な?頼むぜゼン先生!!」


「えぇ!ヴェトンさん強いし最高じゃん!」


(たしかに強いけど…フィーナとは違った面倒くささがあるな……それに…)


「すまんが関係ないお前を巻き込むわけにいかない……それに、俺たちは少ない手持ちで旅をしないといけないからお前までこんな危険な貧乏旅に付き合わせることは出来ないんだ…」


「この金だけじゃ足りないか…」


ヴェトンが無邪気に差し出したのはざっと7,000Gはありそうな金袋だった。


「え?これ……もしかして今まで巻き上げた金か?」

ゼンも見たことがない大金に驚く。


「あぁ、さっきも言ったが悪いことして儲けた金だから…いつか人助けに使おうと思ってな。

もしよかったらお前たちも使ってい ━━━」


「「ヴェトンさん!」」


一瞬で2人が手をヴェトンの取る。

こうしてヴェトンが仲間になった。

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