第5話 『騎士』

待ち構えていた校長の登場に、ゼンは即座に自分の背後へフィーナを隠した。


「そのまま背中に隠れろ……離れるなよ」


ゼンの後ろに隠れながらも、フィーナは勇ましく校長へ疑問をぶつける。


「なんで先生と話したこと知ってんのよ!? それも禍動の能力なんですかー? 教えろー!!」


「バカ、静かにしろ……言うわけないだろ」


呆れるゼンをよそに、校長だけはフィーナの愚問が大層おかしかったのか、不気味な大笑いを夜空に響かせている。


無表情を貫くゼンだったが、その内心には確かな焦りが生じていた。


(計算外だ。最悪、校長一人ならなんとかなると思っていたが……あの3人は…おそらく…)


銀の鎧を全身に纏う二人の戦士。

そして、一人だけ銀の当身(防具)を装着した髭面の男。


ゼンはその3人の肩にある肩章(けんしょう)を見ている。


肩章は見紛うはずのない、王家の紋章が刻まれていた。


(おそらく…王家騎士団……っ!)


━━━━━━━━━━━━━


王家騎士団 ーー


この王国の正規兵士たちの中に、禍動を持つ戦士は一人もいない。


いないというよりも、禍動の素養を持った者はみな、生まれてすぐに「禍学専門学校」へ強制入学させられるからだ。


その後は先述の通り、教職員に進む者を除き、禍動士は死ぬまでギルドの駒として生きるしかない。


ゆえに、国防を担う兵士はすべて「非禍動士」で構成されることとなった。

それはいい。


肝心なのは、なぜ「非禍動士だけの構成」なのか?


その最大の理由は、禍動士という存在の決定的な弱点にあった。


禍動とは、物理現象をイメージによって作り出す「非物理」である。


たとえば、自然発生した本物の雷と、禍動によって作られた雷が衝突すれば、雷の性質を詳細に研究し、更にひと工夫加えたイメージでなければ、自ずと自然性質の雷が勝つ。


つまり、本物の物理に対して、凡庸な禍動士が作り出した「偽物」で物理を戦わせても勝ち目はなかった。


軍事的目線からも語りたい。


禍動は人口の数%にも満たない稀少な能力であり、能力の個人差が激しいため、それに頼った戦略が組み込みにくかった。


そんな禍動士も、かなり短い期間だが兵士として頼られた時代があった。


しかし彼らは禍動しか学んでいないため、新人士官すら備えている基礎軍事の教養がない。


そればかりか、自らの勇敢さを見せつけたかったのか、彼らはたびたび勝手な行動を繰り返し、彼らは一般の兵隊からも白い目で迷惑がられた。


「禍動士はくだらん」


と、はるか昔の皇帝ノジモクが禍動士を軍から完全に外すことを決め、今日に至った。


のちに中興の祖とも言われたノジモクは、徹底的な合理主義者であった。


ノジモクからすれば、兵士に求めるのは死ぬ勇気と、国が定めた運動能力、た指揮命令系統に差し支えない最低限の知識だけで良かった。


その結果、

「人外には禍動士を、国防には兵士を」

と棲み分けがなされ、

それ以降、両者の技術は互いにブラックボックス化していった。


そしてノジモクは、兵士の中でもさらに数%の優秀な者を厳選し、「王家騎士団」を創設した。


騎士団に加入した者には、

国から「禍動を無効化させる“禍(わざわい)”を練り込んだ銀の鎧」と、肩章(けんしょう)が支給される。


彼らはその肩章をもらった日から、国王の命令とあらば、たとえ家族であれ、自分自身であれ、生命活動を躊躇なく止めなければならない。


ただ盲目的に皇帝の命令を執行することだけを求められた。


ただし、その対価として本人だけでなく家族の金銭的待遇も破格の条件が約束される。


もし騎士が殉職しても、家族には生涯にわたって困窮することのない恩給が届く。


さらに恩恵は個人の枠に留まらず、本人が騎士団に在籍している間は「出身地の村が減税される」など、国家規模の手厚い保障があった。


そのため、よく寒村の出身者から国王騎士団が誕生すれば、その故郷では3日3晩お祭り騒ぎになるほどだった。


そして近年、国王騎士団のエリートコースはさらなる進化を遂げる。


騎士団の中でも突出した実力を持つ者には、


ーー 『グランド』


という至高の称号が与えられた。


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目の前にいる髭面の男の肩には、他の騎士とは違う、眩い金糸で編まれた肩章がある。


そして禍動を無効化するオリジナル甲冑のデザインが許されているらしい。


グランドの中にもさらに階級が存在するそうだが、その先は王宮の最高機密であり、ゼンはそれ以上は知らない。


つまり、騎士団と一緒にいるのはーー


「自分で実力があると言いましたが、念のため私だけでは手に余るかもしれないと思いましてね」


チャキッ……チャキッ……

金属の擦れ合う不気味な音を響かせながら、二人の騎士が静かに歩み出す。


「騎士団の皆様にご相談しましたところ、なんとグランドクラスのケイミュー閣下にも加勢いただきましたよ? ふふふ……」


校長は不気味なほど高笑いをしながら、髭面の男を紹介した。


ケイミューは拳を覆う鋼鉄のグローブを、鈍い音を立ててはめ込み、ゼンへ問いかけた。


「小僧、もう死ぬ準備は出来たか?」


その言葉を合図に、一斉に騎士団が襲いかかる

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