#46 戦いの先に果てる者

『セイトくん、いい機体に乗っているじゃないか』


 他の部隊を足並みを合わせて高度を上げるセイトに、リンダが通信を送った。赤い扶桑──扶桑・高機動試験機。X字に配置されたスラスターユニットからは、細い煙のようにレビトン粒子が放出されている。


『僕も乗りたいんだが、今度貸してくれないかい?』

「この機体、俺とニコの組み合わせじゃないと起動できないんです。だから、無理ですね」

『残念だ。じゃ、生きて会おう!』


 ビームカービンの一斉射が行われ、射線の先で幾らかの爆発が起こる。が、それは致命打にはならない。すぐさま反撃のビームが飛来し、防衛旅団や賞金稼ぎの機体もまた、爆ぜていく。


『セイト、リンダの小隊にくっついて突撃するぞ。また船を沈めちまえ!』

「了解!」


 エイダーの指示に従い、セイトは敵部隊をかき乱さんとする扶桑編隊の後ろについた。左腕に粒子シールドを作り、敵マリンク部隊からの砲撃を防ぐ。特別な改修を施していない部位ではあったが、ビームカービンくらいでは貫けない強度がある。


 じれったいな、と彼はらしくない感情を抱いた。リーベルならやれる。そんな確信が、胸中で燃え始める。もっと前に。誰より前に。あのジーベンを捕えて、戦う理由をなくしてやれないか。


「なら、翔ぼう。セイト」


 ニコに背中を押され、彼の思惟はスラスターのパワーを一層引き出した。周囲の機体の立体音響システムに重低音を齎しながら、リーベルは急速に敵艦隊へと接近を始める。


 味方が展開してくれる弾幕のお陰で、敵はあまり活発に動けていない。エイダーが追随するので、それに左側を任せて右側へ集中することとした。


 緑色。マリンク。次から次へと撃ち抜いて、ジーベンを探す。背後を取った敵機がいる。だが、彼は素早く脚のビームソードを左手で抜いて、胸部を溶断した。爆ぜるリアクターと、飛び散る破片。リーベルの装甲から、カツンカツンと音がする。


 刹那、鋭い殺意が彼の脳に届いた。ニコも同様。


「セイト、来る!」

『いたな、リーベル!』

「ジーベンのマスプロ!」


 殺さずにどうすれば無力化できるか。四肢を捥いで頭を潰しても、胸部にリアクターがあるなら自爆してくるかもしれない。本当に殺すしかないのか。彼の脳裏を駆け巡る思考は、最悪の答えしか返さない。


「ニコ、船を沈めるのと、マスプロを潰すの。どっちを優先したらマスプロのパイロットを投降させられるかな」

「わからない。でも、母艦がなくなれば自棄になって突撃してくるかもしれないよ」

「なら、無力化が先か!」


 ジーベンと二回、三回とビームを撃ち合う。どちらも狙った目標には当たらず、虚空に消えるか、別の敵を巻き込むだけだ。


 ガコン、とジーベンの四連装ビーム砲がリーベルを狙う。同時に、彼もまた胸部のビーム砲を敵に向けた。同時に行われる連射。ビーム弾を包み込むエネルギーフィールド同士が干渉し合い、花火のように激しく高圧縮粒子を撒き散らした。


 結果、どちらの砲撃も徒花となった。やはり戦闘は白兵で決まるもの。セイトは右手に握ったビームカービンを連射しながら、ジーベンに詰め寄った。


『馬鹿らしい!』


 リッパーが粒子シールドで防御の構えに入った。隙を狙って反撃してくるはず、とセイトは考える。己の射線から外れて一発撃ち込んでくるだろう、と。


 事実、その読みは当たった。ジーベンは横に滑るような動きで彼の視界から消えようとする。シールドではなく、カービンを前に出す。


 そこが、狙い目だった。彼は躊躇いなく、左手に握ったビームソードを投擲する。ヒュルルッ、と回転しながら飛翔したそれは、意表を突いてジーベンのビームカービンを切り、爆散させる。


『トリッキーなことを!』

「だから何だ!」


 レーザー通信の応酬の果て、両機は遂に斬り結ぶ。右手に握ったリーベル用の、極細なビームソード。直刀型のビームブレイドは、二振りを以てそれに応じた。


『少し形が変わったようだが、ソードのパワーまでは上がっていないようだな!』

「見透かして!」


 ジーベンの方から、後退の動きを見せる。追撃を仕掛けんとした彼の横、殺気が芽生える。右からだ。左手にカービンを握り応射したいが、そのためには一度機体を回転させねばならない。カービンは、右スラスターユニットにあるのだから。


 間に合わないな、と逃げたくなった彼の前で、銃を向けるマリンクが爆発した。


『セイト、雑魚は俺らに任せろ!』


 エイダーや、リンダの部下たちが戦場に雪崩れ込んできた。もう、乱戦だ。


「助かります、お願いします!」


 斬り合いにだけ注力。セイトは両手にビームソードを握り、一直線にジーベンへと飛んだ。


 バシン、バシンと激しい音が、斬り結ぶ度に機体の音響システムで再現される。距離を置こうとするジーベンを追って、リーベルはスラスターを熱し続けていた。時折行われる連装ビーム砲の射撃も、躱し続ける。最初は余裕をもって躱せた砲撃も、今では掠めるように近い所を飛んでいく。


 ピーッ、と警告音が鳴る。機体を振り回しすぎた。オーバーヒートゲージは、既に七十二パーセントだ。


「セイト、スラスターが過熱しそう。一旦強制冷却を挟まないと」

「何秒かかる⁉」

「五秒待って」


 逆噴射と慣性制御で急停止。背部と脚部を巡る冷却ガスが熱を奪い取るまで、五秒間。


 そこを狙うのが、リッパーというパイロットだった。もう頭の中には殺意しかない。視界は血が滲んだように赤い上に、地震に襲われたように揺れている。武器管制スティックを握り締める両手だけが、確かだった。


 バシュウ、と白いガスを放出したリーベルへ、ジーベンはビームを放った。だが、しかし。


 瞬時に最大出力に至ったリーベルは、それを回避。あっという間に、敵の懐に飛び込んだ。


『どうして、どうしてお前は強いの!』


 泣き叫ぶような声が聞こえてくる。


『こうもなった私で勝てない! その強さを、寄越してよ!』


 その訴える言葉が届いた時、ニコがリーベルの後部座席で呻いた。


「セイト、早く黙らせて」

「ニコ?」

「憎悪と怒りが、流れ込んでくる……! このままじゃ、私も耐えられない!」


 乱暴に振り上げられた右腕を、セイトは冷静に断った。もう一撃を繰り出そうとした左腕も、中程で切断する。


 苦し紛れの蹴りこそ喰らうも、すぐに体勢を立て直して頭に照準を合わせる。胸部ビーム砲で、メインセンサーを潰した。


『人間のままで、お前は──』


 通信に、血を吐くような湿った咳が入る。突如、ジーベンはスラスターの噴射も、慣性制御も行わなくなった。完全なる停止だ。


「なんだ……?」


 セイトが訝しめば、ニコが答えを出す。


「入ってくる思考が減った。多分……パイロットが、死んだんだと思うよ、セイト」


 ニコの息は荒い。


「……ジーベンの感応者」


 セイトは苦い味が口の中に広がるのを感じながら、声を掛けた。


「ヲッチ号で収容する。一緒に来い」


 ビームソードを消し、彼はジーベンの手を握った。静かに宇宙を流れ、有翼の宇宙船へと向かう。


『こちらジーベンの感応者、チウポン』


 悔恨の滲む声で、チウポンが話し出す。


『せめて、墓を建ててやってほしい。海賊という身分で勝手なことだと思うが、こいつは──リッパーは、どこにも行く場所がないんだ。死んだあとくらい、居場所を作ってやりたい』

「俺の一存じゃ決められない。宇宙葬になる可能性が高いぞ」

『墓石の一つでもあれば、満足さ……』


 装甲の交換を行ったリーベルは、またすぐに出撃する。戦艦を、沈めるために。

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