#27 こうして金を稼ぐのだ
「つまり、まんまと敵にしてやられた、と」
宇宙港を持つ正規軍基地にて、エイダーやセイト、賞金稼ぎの面々はデブリーフィングを行っていた。エイダーの発した一言に、軍の担当者は力なく頷くばかり。
「被害は、リーベルの組み立て済み補修パーツ、十数トン相当。フレームも外装も、まるっと奪われてしまった」
担当者は背後のスクリーンに体を向ける。基地付近の空撮写真が、映し出されていた。それを眺めるは、無数の戦場を潜り抜けてきた、歴戦のパイロットたち。五十名はいるだろう。
「じゃあ、リーベルを組み立てられる、ってことですか」
セイトが問うた。そうだそうだ、と同調する者が多数。
「いや、その心配は要らない。一つ、重要な点を奴らは見落としているからな」
ギュッ、と彼は眉間に皺を作った。
「セイトくん、リーベル最大の特徴とは何か、知っているだろう?」
「……両脚に分散配置された、小型高出力リアクター」
「そう。一基でザンクト一機分のパワーを発揮するレビトンリアクターを、二基積んでいる。だからこそ、超高収束率ビームソードも運用できる。だが、奴らは、勘違いをした」
速く本題に入れ、と彼の苛立ちが募る。
「交換用のリアクターは、この地域にはストックしていないのだよ。万が一に備え、ノービードの月、スルトの工業都市に製造、保管を委任している」
「だから、デンド・ファミリーはリーベルを再現できない、と?」
今度の頷きは、力のあるものだった。
「更に、だ。リーベルそのものの設計データまでは奪われていない。ファミリーはこれまでの交戦データや、パーツの形状から設計を逆算するよりなく、組み立てには相応の時間がかかる」
賞金稼ぎたちのざわめき。
「リアクターを手に入れられないことによる脚部設計の変更も含め、奴らが実戦配備するまでの期間は、どう短く見積もっても半年だ。安心し給えよ、若いパイロット」
そっちの落ち度だろ、と言ってやりたいセイトだったが、黙っていた。
「そこで、正規軍から賞金稼ぎ諸君に対し、一つ依頼を発したい」
ニヤリと笑む荒くれ者たちで、この部屋は満たされた。
「月面工業都市、グランダ。ここに駐留し、当分の間工場を護衛してもらいたいのだ」
「んなことしたら、ここが重要ですよって言ってるようなものだろ」
エイダーが腕を組んだまま言う。
「注目を集めないための策は、勿論あるんだよな? グランダだけが重要じゃない、と思わせるために、戦力を分散して配置するような策だ」
「まさにその通り。偽装の措置は須らく行うべきだ、と上は判断しているし、私も同意見だ。ノービードの工業地帯にも部隊を展開し、マフィアの目を逸らすこととなっている」
惑星全体が戦場となる、と賞金稼ぎたちは状況を飲み込んだ。虱潰しに工業地帯を襲うような戦力を、マフィアが持っているとは誰も思わない。だが、自らのいる地点に全てをベットしてきたら。死体は、残らないだろう。
そんな彼らを置き去りにして、担当者は画面を切り替える。依頼の詳細が映し出された。
セイトは、まず唾を呑んだ。グランダの護衛任務は、半年で契約終了。三か月を迎えれば基本報酬として八千万クレジットが支払われる。とんでもない額だ。この任務だけで、新品のザンクトを一機購入できるのだから。そこにクランの規模や活躍に応じた追加報酬まである。
「だが、半年は複数のチームをローテーションして、即応体制を維持、か……」
隣のエイダーが呟く。
「整備費用があっち持ちってことだけは助かるが、天然の重力も日光も、当分は感じられない。セイト、どうする? 中々きつい任務だぜ」
「だとしても、マフィアにリーベルを渡したくありません。受けましょう。あいつらの目論見は、全部潰したい」
険しい顔で答えたセイトの肩を、彼はポンと叩いた。次いで、手を高々と掲げる。
「グランダ護衛任務、エイダークランが引き受けよう。文句はないだろ?」
彼の一言に刺激された者たちが、声を張り上げて依頼を手にしようとする。が、決して多くはない。五十名いるうちの十名ほどだ。
(そうだよな、半年ずっと宇宙。その六か月で別の依頼を回していった方が、稼ぎとしても効率がいい)
理性的な判断は、セイトにも可能だった。だが、やはりデンド・ファミリーにこれ以上の戦力を持たせたくない。効率の悪い稼ぎだとしても、無理を通したい。
結局、その場で受注するクランは決まらず、一度休憩を挟むことになった。彼ら賞金稼ぎは、基地の食堂に集まり、焼き魚を前に話し合う。
片隅で、セイトとエイダーはグランダ周辺の状況について確認していた。エイダーの見せる立体映像投影装置に、ノービード付近の宇宙空間が映る。
「スルトは、ノービード唯一の衛星だ」
エイダーの指が、惑星の3Dモデルを回す。
「陸地の少ないノービードの生産能力を補うための、重要な存在というわけだな。だから、スルトには三つの月面都市が築かれた」
「月面、って言ったって宇宙線を避けるためにレゴリスに埋もれてますよね」
「そうだな。だから、天然の太陽はまず拝めない」
人工の光だけで照らされる街。人工の重力だけで支配される街。セイトは、想像するだけで息が詰まりそうだった。
「中でもグランダは重工業に特化した都市だ。ストラト共和国のゼロアニマの内、三割はここで製造されてる、という統計も出てるな」
「だから、リーベルのような兵器も作り出せる技術を持っている」
「そういうこった。八千万貰える任務ってだけのことはある、超重要拠点だ」
「ですが、それを守るとなるとエイダークラン一つでは手が足りませんよね。どうします?」
エイダーは、肩を竦めるばかりだ。そこに、線の細い男が近づいてきた。
「なら、僕等と一緒に受けるというのはどうかな?」
見上げた二人は、キラキラと輝きを放っているようにさえ思える、美男子を目の当たりにした。セイトにも似た肌色と、黒曜石のような髪と目が耳目を集める。
「……リンダかよ」
エイダーがその名前を呼んだ。
「都市一つの護衛。おそらく、複数クランによる共同作戦になる。どうだい、僕等と報酬を山分けして、効率的に護衛を熟すというのは」
「それは構わねえが、お前の所は大所帯だろ。俺と組む必要はあるのか?」
リンダと呼ばれた彼は、セイトの隣に座る。エイダーの斜向かいだ。
「この少年、うわさに聞く新型機のパイロットだろう? 近くで見たいのさ、ストラト共和国の切り札って奴をね」
「切り札って……そんな大したものじゃないですよ」
セイトは柔らかく否定するが、彼に肩を組まれて黙る。ふわり、香水の匂いがした。かなりきついもの。セイトの顔に皺ができる。
「リーベルを量産化すれば、帝国だってマフィアだって滅ぼせる。そんなものを君は預かっているんだ。見せておくれよ」
セイトの腕が、リンダを押し返した。
「俺は、俺のために戦ってるだけです。マフィアを叩きたいのは、否定しませんが……えっと、名前は──」
「リンダ。
「一応、父が蒼天からの移民の家系です」
そこで、リンダは満面の笑みを浮かべた。
「素晴らしいよ。いつか蒼天を案内してあげよう。僕の親戚一同で、最高の宴を開くんだ」
「セイト、こいつの言うことは真に受けるな。いつもこうなんだよ、蒼天共和国に関係してる、って思ったらすぐに絡みに行く」
「僕は同じルーツの人間を探しているだけさ! 君だって、同じ種族の感応者とよろしくやってるじゃないか」
「偶然だっつーの」
言い合いを始めた二人を置いて、セイトは一抜けしようとする。
「セイト、意見だけ聞かせてくれ」
エイダーが呼び止めた。
「こいつのクランと組んでいいか? こんなだが、腕は確かだ」
少し黙って、セイトの返答は短く発せられた。
「構いません」
食器を返し、談話室へ。牛乳片手に、ニコがテレビを見ていた。
「セイト、仕事が決まったんだね」
彼女はセイトの顔を見上げて言う。
「まだだよ。これから交渉」
「でも、セイトは確信してる」
新たな戦場は近い。高々三十万キロしか離れていない衛星が、戦場となるのだった。
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