#21 雇われパイロットたち
捕えられた小型艇から降りたのは、二十名。他に武装バレウスが数機乗せられていた。警備ボットに囲まれて跪き、手を挙げる彼らに、エイダーとセイトが近づく。
「で? お前ら、どこの者だ?」
拳銃を向けるエイダーが、槍のような眼を光らせて問う。
「……帝国義勇外征旅団。お前らがイヴェーブって呼ぶ組織だ」
電撃銃の包囲の中で、一人が答えた。
「この中にリーダーはいるのか?」
「オレだ」
集団の先頭に立つ者が応じる。スキンヘッドの白人だった。右腕は金属製の義手だ。
「殺すなら殺せ。帝国のためなら、命など惜しくはない」
「へいへい、勝手に言ってろ」
エイダーが人差し指を動かすと、警備ボットがそのリーダー以外をひっつかみ、立ち上がらせた。残るは、一体のボット。
「そいつだけここに残せ。後のは独房に突っ込むんだ」
「了解 シマシタ」
十九名のテロリストたちは、船倉部に位置するエリアへと連れて行かれることとなる。
「イヴェーブって、あんな人たちなんですね……」
警備ボットの隊列を見送りながら、セイトが言った。
「ハイスクールで名前は聞いていましたが、その……本当に人間だったというか」
「なんだそりゃ」
エイダーがリーダーに歩み寄るので、彼はそれを追う。
「で、お前らの目的は?」
エイダーに問われれば、リーダーは唾を吐いた。
「おいおい汚えだろうが。早く話せ、電撃ビリビリの刑に処したっていいんだぜ?」
セイトは、警備ボットが電撃銃を構えるのを見た。ライフル型で、数万ボルトの電圧と、数ミリアンペアの電流の電撃を放つ、制圧用の銃だ。
「オレは口を割る訳にはいかねえ。それが、雇い主との契約なんだ」
エイダーがチラリとボットを見ると、電撃が放たれた。リーダーの体は硬直し、コンクリートを流し込まれたように倒れる。苦悶に唸る声が、格納庫で見物しているカノエたちにも届く。
「ほら、話せよ。これ以上痛い目は見たくねえだろ?」
人のやっていいことか、とセイトは苦い表情を浮かべる。尋問ではなく拷問だ。が、同時に、テロリストが自分を殺しに来た、とも考えてしまう。殺そうとしてきた相手に情けをかけたくない、というプリミティヴな敵意だ。
やがて、リーダーが硬直から脱し、起き上がろうとする。しかし、エイダーに視線を送られたセイトが、その上に跨った。手首を背中に回し、がっちりと拘束。
「別に話したら殺すってわけじゃねえ。武装バレウスの不法所持、破壊活動、船舶の窃盗、他の船舶への攻撃。ま、これだけありゃあリーダーは無期懲役だろうがな」
「わかっているじゃないか。だから、オレは話さんと言っているんだ」
「なら、これにだけ答えろ」
セイトがやっと口を開く。
「何故、俺たちと同じ方向に移動していた。この先には何がある」
「……若いな。幾つだ」
「十八」
「そんな人間まで賞金稼ぎにしないといけないほど、ストラトは疲弊していると見た」
彼は何も返事をしない。
「セイト、言ってやれ」
エイダーに促され、彼は眉間に皺を作りながら、自分の立てた推測を述べ始める。
「まず、お前たちは一味丸ごと星外脱出するつもりだった。そのためには、小型の宇宙船じゃ足りない。戦艦クラスの宇宙船に同乗して、長距離レビトンジャンプで宇宙ステーションの索敵を逃れる距離まで、一気に逃げるつもりだった」
沈黙するスキンヘッドのリーダー。
「だから、この先にはお前たちが合流するであろう、何らかの大型宇宙船が隠れている。そうだな?」
クッック、と笑い声が鳴った。
「随分と賢いじゃないか。ハイスクールでかなり勉強したのか?」
「茶化すな。質問にだけ答えろ」
リーベルから降りる直前、エイダーから受けたレクチャー。セイトは、それに淡々と従っていた。高圧的で、隙を見せず、優位性を確保する。
「そうも言い当てられちゃあ、オレが隠したって意味はねえ。話してやる。だからどけ」
彼はエイダーとアイコンタクトを取る。無言のうちに理解し、リーダーから離れる。代わりに、警備ボットが電撃銃を突きつけた。
「オレの雇い主は、二重構造になってる」
リーダーが、右手の二本指を立てる。鈍色の指。
「まず、デンド・ファミリー。ファミリーにイヴェーブの一派が雇われたんだ。武装バレウスや潜入用の宇宙船、改造パーツ。そういうものを提供してもらって、第六エリアの宇宙港付近で暴れる、って仕事だ」
「暴れて、どうするんだ」
「ちょっと待てよ、今から話してやる」
セイトの胸にある不吉な塊は、その質量を増しつつある。
「暴れるのは、正規軍の戦力を惹きつけるためだ。今でも、散発的に武装バレウスが動いてる。警察じゃ対処しきれない、重武装タイプだ」
エイダーが何やら、ヘルメットの無線機で会話を始めた。数十秒あって、その目はイヴェーブのリーダーに戻る。
「確認した。マジで、暴動が起きてるぜ」
「だろう? それが、第一の雇い主」
セイトの正視する黒い目。
「第二の雇い主は……帝国だ」
「シベラカット帝国か」
「おうよ。デンド・ファミリーは帝国と繋がっているし、勿論オレたちイヴェーブは帝国から戦力の供与を受けるテロリストだ」
「自覚があるならやめろよ」
短くセイトが言うも、敢無く無視された。
「その帝国が、何やらストラトの開発したゼロアニマを欲してる」
「……どういうことだ」
彼の問いに、リーダーは不適な笑みで応える。視線の先には、白と青。リーベルがあった。
「帝国とファミリーは、あいつをご所望なのさ」
パイロット二人は、顔を見合わせる。
「エイダーさん、引き返しますか」
「いや、一度受けた任務を投げ出しちゃあ、賞金稼ぎの名が廃る。情報だけ集めてとっととトンズラすれば──」
エイダーが威勢のいいことを言っている所に、警報が鳴り響いた。
『こちらブリッジ! 接近するゼロアニマを確認した! 発進用意!』
二人の体は、弾き飛ばされるように走り出した。が、少し行った所でエイダーが引き返す。
「そいつも独房にぶちこんどけ!」
それだけ告げた。
一方のセイトは、エレベーターでキャットウォークまで上昇。金属製の足場を往き、リーベルのコックピットに飛び込んだ。後部座席では、ニコが待っている。
「セイト、尋問できた?」
「大体掴んだ。この先、多分敵がいる」
「どんな敵?」
「聞いたろ、ゼロアニマを運用できる敵だ」
ヘルメットのバイザーを下ろすのと並行して、機体の自己診断プログラムを走らせる。二分で、オールグリーンが返ってきた。
『こちらブリッジ。接近する所属不明機は二個小隊、十二機! どうするリーダー、このまま突破して敵情を探るか?』
『十二機だぁ⁉ 戦艦一隻クラスじゃねえか!』
全天周囲モニターが点灯する。
『まあ、いい! 戦艦がいるってだけで価値のある情報になるからな……撤退だ! セイトと俺で弾幕を張りつつ、後退するヲッチ号に敵を近づけさせないようにするぞ!』
「了解!」
船が転進し、格納庫が少し揺れる。リーベルの胸の中で、セイトは母艦から転送させる情報を見つめていた。十二機のゼロアニマが、真っ直ぐこちらへ向かってくるのだ。
『旋回完了! 発進しちゃいな!』
ヂオウからの指示が飛び、彼はリーベルを歩かせた。
「セイト、出ます!」
カタパルトは使わず、デッキの横から飛び降りる。レビトン粒子が空間構造に干渉し、十八メートルの巨人を浮遊させた。
「セイト、敵の熱源パターンを解析したよ。補正と機種名を出すね」
ニコの言葉通り、セイトの視界に映る敵機には、その機種名が表示されている。『MARINC-HI MANEUVER』、と。
「マリンクの高機動型……」
深呼吸で冷静になりながら、彼は母艦と相対速度を合わせる。それから、連射モードで、ビームカービンの引き金を引いた。ダララッ、と光弾が連続して吐き出される。爆発の光は、起きなかった。
応射が来るも、リーベルの粒子シールドが防ぐ。船のスピードを考えれば、マリンクからは逃げられないだろう。黒と赤で塗装された、翼のようなスラスターを持つ敵機。そのスピードは、既に亜音速に達していた。
その隊列から、一つ、飛び出す機影があった。同定はできない。ただ、紫の機体。セイトの脳裏に映像が浮かぶ。撃ち抜かれて爆ぜる、あの孤児院。
「出たな、紫!」
セイトは銃を単射モードに切り替え、紫を凝視する。一発、二発。撃っても躱されるだけ。気づけば距離を詰められ、直刀型のビームブレイドが振り上げられていた。
左手で、彼はビームソードを握る。間に合った防御だが、斬り結んで、それだけだ。
『こちらDND-59860、ジーベン』
レーザー通信が、セイトに届く。
『機体を寄越すのであれば、危害は加えない』
「誰が!」
彼は機体を後退させ、数射カービンを撃つ。
「ジーベンだろうが、墜ちろ!」
彼の内側で、獣が目覚めようとしていた。
あとがき
ジーベン 設定資料
https://kakuyomu.jp/users/CatFieldSlashDriedFish/news/2912051603595249410
マリンク・ハイマニューバ 設定資料
https://kakuyomu.jp/users/CatFieldSlashDriedFish/news/2912051605130879191
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