#13 目指せ、妨害装置
「リバイア、このままではオンボロ船を捉える前に、ゼロアニマと接触するとは、思えないか?」
グレイは妹に尋ねる。
「そうね、お兄様。ロンド部隊の合流を待つのも、悪くないんじゃないかしら」
「……単独で白いのを手にすれば、帝国から何百万
「面白いことを言うのね。なら、やりましょう。私たちの思考を、一つにして」
小惑星に隠れた灰色の機体は、火器管制システムの最終チェックを行った。
◆
『こちらイズモ!』
ヲッチ号と相対速度を合わせて飛ぶ二機のゼロアニマに、その船から通信が届いた。
『喜べ下僕ども、吾輩が赤外線センサーの精度を向上させてやったぞ! これで微妙に熱の強い小惑星を探し出せるのだからな、感謝の土下座でもしてもらうではないか!』
ヲッチ号の火器管制AIという役割が、イズモに与えられた人格と深く結びついている。それがプログラムを組める、とはセイトは知らなかった。
(まあ、対話型AIの発展はコーディングの補助が原点だもんな……)
ジュニアハイスクールで習ったことを思い起こす。まだ人類が銀河全体に広がる前に、人工知能は自然言語による対話能力を獲得し、人間の熟す様々な労働を補助するようになった。
その嚆矢がプログラミングであり、それによってソフト面の開発が目覚ましくなった人類が行ったのは、ボットという形での、AIの奴隷化であった。
「面倒なこと考えてるんだね、セイトは」
ニコがその頭の中を覗き見て、コメントを残す。
「ホント、その勝手に思考を読むのはやめてほしいんだけど……」
鈴の音は聞こえてこない。セイトは、両手の位置にある武器管制スティックを握って、離すを繰り返す。
「それ、癖なの?」
ニコが後部座席から顔を出して、問う。
「まあ、そうかな。万が一の発砲があるからやめろ……って言われたこともあるけど」
「でもやめられない」
「そうだね。何となく、手を動かしておかないと落ち着かないんだ」
「顔も平たいもんね」
ヘルメットの中で、彼はその平たい顔に苦いものを浮かべた。関係ないだろ、と考えてみる。
「関係ないけど、言いたかった」
「また読んでる」
話しつつ、全天周囲モニターに映し出される蒼く加工された宇宙と、それに重なるヲッチ号からの索敵情報を照合させる作業が、ニコの手で進められていた。赤外線探査が示すのは、十時の方向に、大量の熱を放つ物体があるという現実。
「こちらリーベル。リーダー、俺が熱源体に向かいます」
『あいよ。船は俺が守っておくから、遠慮なく突っ込んで来い』
『セイト、気を付けるんだよ』
プシュン、とスラスターの噴射音のようなサウンドが、セイトのヘルメットから耳の中へと伝わった。ゲームで言うサウンドエフェクトだ。宇宙空間に音は鳴らないのだから。
スラスターをかなりの出力で吹かしたリーベルは、小惑星の中を駆け抜けていく。ヲッチ号の観測データをもとにニコが現在地と目標地点を割り出し、リアルタイムでモニターに投影する。そこに頼らなければ己は宇宙の漂流者。セイトは、何も言わないでその事実を見つめていた。
小惑星を蹴って、加速した刹那。リィーン、と鈴の音。
「三時!」
ニコの叫びに呼応して、セイトは機体をグルンと回す。粒子シールドが、二百キロの彼方から放たれた赤い光弾を防いだ。
「距離は⁉」
「計算中、少し待ってて、セイト!」
続いてまたも鈴。小惑星の隙間を縫うように飛来するビームを、彼は何発か受け止める。単射モードのカービンで撃ち返すが、爆発の徒花が咲くばかり。そして、それはゼロアニマのものでないことを、彼は直感的に理解した。
目的は何だ、と彼は自問する。レビトンジャンプ妨害装置を破壊すれば、正規軍の軍艦が来る。そうなれば、ゼロハチ連合は磨り潰されるだろう。
「だから、あの灰色は墜とさなくていい」
ニコが思考の続きを預かる。
「でも、そうしたくはない。だよね、セイト」
「わかってるなら、手伝ってほしい。ここで、墜とすから」
「そのつもり。獰猛な人は嫌いじゃないよ、セイト」
前部座席の背後、据え付けられたディスプレイには機体プロセッサの弾き出した計算結果が表示されている。彼女は三秒それを眺めてから、頷いた。並行して頭の中で組み立てていた式と照合して、検算を行っていたのだ。
「二時の方向、二百キロ丁度くらいにいるはず。ビームの口径も収束率も弾速も、さっきのバズーカとは違うみたいだから、暫くは充分な威力はないと思うよ」
「なら、突っ込む!」
ガゥン、とスラスターを唸らせ、アステロイドの海の中を駆けるセイト。射撃はあまり脅威にならない。秒速五キロの速度にあっても、粒子シールドを前面に突き出した機体は、粒子の一つも喰らいはしない。
「また位置が変わった。十二時の方向から十時の方向に移動中だと思う」
「動きながら、こうもバシバシと……!」
「鈴の音が、脳の認知能力を拡大している。でも、それだけじゃ説明できない射撃制度……なんだろう。私の知らない、何か?」
「そういうのは後で考えよう! まずは、灰色を墜とさないと」
ピッ、と機体が電子音を鳴らす。センサーの捉えた情報にCG補正が合わさって、あの灰色の機体がズームで表示された。その横には、『SOMETHING GRAY』の文字。
「一応、システムに登録しておいたから、ちゃんと名前も表示されると思う」
「ちゃんとした名前かなあ、これ!」
ビームの撃ち合いが始まる。赤、赤。回避運動の加速度が、セイトの呼吸をかき乱す。射撃と射撃の合間、彼は遮二無二前進を選んだ。フランティックな高G機動だ。特殊素材で包まれた指が、スティックから離れそうになる。
が、彼に止まるという選択肢はない。ビームカービンを乱射して、グレイの動きを牽制する。防御の体勢に入った相手へ、更なる加速を実行した。
『正気か、貴様!』
グレイからのレーザー通信が届く。
「正気だよ、海賊もマフィアも、やってることは変わらないんだからさあッ!」
鈴の音が、やけに強く感じられた。セイトは己の獣を信じ、機体を大きくロールさせる。感知から敵の発射までのラグは、コンマ一秒にも満たない。思考が生じた瞬間に回避行動を取った白い機体は、岩の塊を蹴って、グレイへと翔けた。
狙うのはコックピット。確実に仕留める。引き金を引く──着弾したのは、小惑星だった。
「誰!」
セイトは叫んで、視線を横に動かす。ゼロハチ連合が改造したゼロアニマ、ロンドが四機、グレイに追いついていたのだ。今しがた撃った小惑星は、そのグレイたちが蹴り飛ばしたもの。
『残念だったな、白いの。お前のパーツで、ひと稼ぎさせてもらうぜ!』
袴のような脚を持つロンド部隊が、リーベルを包み込むようなフォーメーションで接近を開始する。グワウ、グワウと機体のシステムが付けた効果音に、セイトの聴覚は翻弄される。小惑星の後ろに隠れても、あっという間に捕捉される。
「セイト、四機が常に違う方向からこっちを見てる。隠れるのは、無理」
「じゃあ、目を減らせばいい!」
熱を秘めた岩の影に飛び込めば、当然そこにビームが来る。中のリアクターに触れて、起爆。一瞬の煙が視界を遮ってくれた瞬間に、彼は引き金を絞った。まず一機、胸部を射抜かれて、爆散する。
『慣れてやがる!』
ロンドのパイロットが驚嘆の声を漏らす。
『いいかお前ら、トライスターフォーメーションだ。三方向から射撃を浴びせて、確実にやれ!』
リーダー格、星のマーキングを肩に持つロンドが、リーベルの上を取った。放たれたビーム弾の嵐。だが、セイトの異常なまでに研ぎ澄まされていた勘は、それを事前に察知していた。
三角形の上にある頂点へ、リーベルは左手にビームソードを握って近づく。逃げようとした星付きは、両脚を撃ち抜かれた後、胸部を縦に切断され、散った。
『リーダー!』
が、他の二機は哀しむより先に攻撃を実行していた。一定の距離を保って射撃を放つロンドの二機編隊。回避行動を繰り返すセイトは、灰色を探す。ずっと遠く、どこかへ退こうとしていた。
「突破したいのに……!」
「セイト、大丈夫。もう、ヲッチ号が追い付くよ」
その言葉の直後、太いビームが四条飛んできた。二機のロンドは、無残にも破壊される。射撃の主は、ヲッチ号だった。
『セイト、そのまま進め! 対要塞なら、こいつのイチモツの得意分野だ!』
エイダーからの通信だ。
「なら、俺は灰色をやります。後のことは、全部任せますからね!」
決着は近い。白と灰色は、どちらかを飲み込むしかないのだから。
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