第35話 放課後の密室と、甘く危険な試着の続き

 どうにか文化祭の企画骨子がまとまり、放課後の熱気がひと段落したあとのこと。


 他の才女たちが衣装の最終確認や生徒会との書類手続きで一時的に部屋を離れ、僕は更衣室の後片付けをするために一人、更衣室へと戻っていた。

 ハンガーに掛かった華やかなドレス群を整え、小さく息を吐き出す。


「ふぅ……なんとか生き残れたけど、心臓が持たないよ……」


 胸を撫で下ろした、まさにその瞬間だった。


 サッ、と背後で更衣室の分厚いカーテンが閉じられ、部屋の明かりがわずかに遮られた。


「……なつめ」


 低く、甘く、鼓膜を濡らすような声。

 振り返る隙すら与えられず、背後から滑らかな両腕が僕の首元へと回された。


「み、三郷……!? みんなは……?」


「他の子なら、会長が別の資料室へ案内したわ。……今のここは、私とあなただけの二人きりよ」


 背中に押し当てられる、三郷のしなやかで柔らかな体温。

彼女は黒ゴシックドレスの姿のまま、僕の背中にぴったりと身体を密着させていた。

首筋に触れる彼女の吐息が、驚くほど熱い。


「さっきの言葉……『全員綺麗』だなんて、八方美人もいいところね」


「あ、あれは本心で……というか、誰か一人なんて選んだら……っ」


「知っているわ」


 三郷の細い指先が、僕の制服の胸元から、ゆっくりと首筋、そして耳たぶへと滑り落ちていく。

 ひんやりとした指先と、彼女の熱い吐息のギャップに、ぞくぞくと背筋が痺れるような快感が走った。


「でもね、なつめ。私の前で、他の女を褒めるあなたの口唇を見ていると……どうしても、塗り替えたくなってしまうの」


「三郷……顔、近い――」


「逃がさないわ」


 彼女は僕の身体をクルリと自分の方へ向かせると、逃げ場を塞ぐように更衣室の壁へと押し当てた。

 至近距離で交差する視線。

 普段の冷徹な氷の瞳はどこへやら、今の三郷の瞳には、トロリと溶けた深い熱情と強烈な独占欲が宿っていた。


 彼女のみずみずしい桃色の唇が、僕の唇へと近づいてくる。

 息ができる距離すらなくなり、微かに触れ合う唇から、彼女の甘い体温がダイレクトに伝わってきた。


「私の……本当の恋人になりなさい、なつめ……」


 甘い痺れのようなプレッシャーに脳が溶かされそうになった、その時。


「……ずるいよ、三郷さん」


 更衣室の影から、静かな、けれど途轍もなく深い嫉妬を孕んだ声が響いた。


 ハッと正気に戻り視線を向けると、そこには自分の胸元をきゅっと掴み、頬を真っ赤に染めた笹浪さんが立っていた。

 彼女の潤んだ茶色の瞳は、僕と三郷が密着している姿をじっと見つめている。


「寿羽さん……見ていたの?」


「うん。……三郷さんばかり、ずるいよ。私だって……なつめくんに、もっと私だけを見てほしいのに……っ」


 笹浪さんは意を決したように歩み寄ると、三郷の制止を振り切るようにして僕の反対側の腕を強く抱きしめてきた。

服越しにも伝わる彼女の豊かで瑞々しい胸の感触と、熱い吐息。


「なつめくん……私を、捨てないで……っ」


 右からは三郷の冷ややかで濃密な妖艶さ、左からは笹浪さんの切なく甘い執着。

 二人から挟み込まれる甘美で官能的な毒に、僕の理性は今度こそ、引き裂かれそうになっていた。

 



―――――――――――――――――――――――――――あとがき!!


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