第34話 究極の選択と、王女たちの包囲網

 静寂が、更衣室を満たしていた。


 桐谷会長からの無茶振りと、それに応じるように一斉に向けられた六人の才女たちの視線。

 黒のゴシックドレスで気品をまき散らす三郷。

 純白のドレスで可憐さを全開にする笹浪さん。

 華やかなオーラを放ちながら、僕の腕に密着してくる凛花さん。

 背中を少し露出した衣装で、そわそわしている天音さん。

 おとぎ話から飛び出してきたようなお姫様姿の椎名さん。

 そして、ミステリアスな闇のドレスをまとった浅利先輩。


 誰か一人を「一番」と選んだ瞬間、残りの五人からどんな恐ろしいお仕置きが下されるのか。想像するだけで背筋が凍りつく。

 かといって、「全員が一番」なんてお茶を濁すような回答を許してくれる雰囲気では、到底なかった。


 落ち着け、影久なつめ……! ここで僕が間違えたら、この更衣室が僕の墓場になる……!


 僕は固唾を呑んで全員の顔を見渡し、大きく息を吸い込んだ。


「……みんな、本当に綺麗です。甲乙なんてつけられません」


「なつめ、そんな生ぬるい言葉で逃げられると思っているの?」


 すかさず三郷の冷徹な声が飛んでくる。

 だが、僕は覚悟を決めて言葉を続けた。


「逃げてません! 本心です! 三郷はいつも以上に高貴で、息を呑むほど美しいし、笹浪さんは僕のために努力してくれた可憐さが溢れてる。凛花さんはプロのオーラが眩しすぎるくらいだし、天音さんはいつもの元気さとドレス姿のギャップがすごく魅力的だ。椎名さんは本物の物語のお姫様みたいだし、浅利先輩はミステリアスで目が離せない。……こんなの、誰か一人なんて選べるわけがないよ!」


 必死の思いで口にした、一人ひとりへの本心。

 言い終えた直後、僕は恥ずかしさのあまり顔が熱くなり、思わず俯いてしまった。


 更衣室に、再び沈黙が訪れる。


「……っ」


 最初に反応したのは、笹浪さんだった。

 顔を林檎のように真っ赤にし、両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んでしまう。


「もう……なつめくんのバカ。そんなこと言われたら、何も言えなくなっちゃうじゃん……!」


「……なつめ。あなた、本当に無自覚に人を誑かす天才ね」


 三郷も顔を背けたが、その耳の裏まで真っ赤に染まっているのを、僕は見逃さなかった。


「あ、ありえないし! なつめくん、急に何を言ってるのさ!?」


 天音さんはあわあわと両手を振り乱して更衣室の壁に激突し、椎名さんは静かに胸元を押さえて、「……心臓が、痛い」と呟いている。

 浅利先輩すらも、「伴侶……殺傷能力が高い」とぽつりと漏らし、凛花さんは僕の腕に顔を埋めて、クスクスと嬉しそうに身体を震わせていた。


「影久くん……恐ろしい男だな……」


 入り口で見ていた桐谷会長が、感服したように深く頷く。


「よし! 甲乙つけがたいということは、全員が最高のクオリティーということだ! コスプレイベントは『六大才女と影久なつめによる、七人のアンサンブル』として決定する!」


「えっ!? 僕もカウントされてるんですか!?」


「当たり前だろう! 君が中心にいなくては、この才女たちが同じステージに立つ理由がないのだからな!」


 会長の高らかな宣言を受け、才女たちもまた、真っ赤になった顔を上げながら小さく頷いた。


「……仕方ないわね。文化祭当日まで、あなたの目を私だけに釘付けにする方法を、じっくり考えるとしましょう」


 三郷が不敵に微笑み、笹浪さんも負けじと僕の手を強く握る。


「私も負けないよ、なつめくん! 当日は、私を一番好きにさせてみせるんだから!」


 全員の同意が得られ、大混乱の衣装会議は、どうにか決着を迎えた。


 しかし、文化祭本番に向けた準備期間という名の、才女たちによる僕の奪い合いバトルは、ここからさらに激しさを増していくのだった。




―――――――――――――――――――――――――――あとがき!!


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