第31話 月曜日の開戦ベルと、逃げ場なき選択肢

 週末の余韻に浸る暇など、僕には一秒たりとも与えられなかった。

 放課後に校内放送から響き渡ったのは、ほかでもない僕のフルネームと、生徒会室への即時出頭命令だったからだ。


 重い足取りで一号棟最上階の生徒会室へと向かった僕は、扉を開けた瞬間にその場の異様な熱気に気圧され、数歩後ずさりしかけた。


「あ、逃げようとしてる! ダメだよ、なつめくん!」


 真っ先に僕を見つけて逃げ道を塞いできたのは、部活帰りで汗を浮かべながらも爽やかな軽井沢天音さんだった。

 彼女は僕の背後に回り込むと、両手を広げてドアを塞ぐ。


「ちょっと、天音。なつめに気安く触らないでちょうだい」


 ソファーの特等席から、冷徹な氷の視線を注ぐのは姫月三郷。

 その隣には、週末のデートを経て吹っ切れたような晴れやかな笑みを浮かべる笹浪寿羽さんが、当然のような顔で腰掛けていた。


「三郷さんこそ、週末の邪魔をしたんだから、今日は引いてよね。ねえ、なつめくん?」


「……なつめくんは、私と約束した。白い騎士の衣装」


 部屋の隅からすっと音もなく現れた椎名小春さんが、僕の制服の裾をぎゅっと掴む。

 すると、反対側の肩にひんやりとした柔らかな感触が乗った。


「私の伴侶。闇の王。衣装、もう半分作った」


「徹夜しないでって言ったのに、本当に作っちゃったんですか、浅利先輩!?」


 僕の首元に顎を乗せてくる浅利日和先輩と、それを後ろから「不健全です!」と必死に引き剥がそうとする生徒会役員の穂状紗理奈さん。


 そして、ソファーの背もたれに優雅に肘をつき、モデルらしい華やかな笑みをたたえる立花凛花さん。


「ふふっ、みんな相変わらず賑やかだね。でも、なつめくんの衣装プロデュース権は私がもらったんだから、譲らないよ?」


 六人の才女が一堂に会し、さらには生徒会役員の穂状さんまで加わったその空間は、まさに密度が限界を突破していた。

 中央のデスクで腕を組んでいた桐谷吉次会長が、満足そうに深々と頷く。


「揃ったな。さて、影久くん。そして才女諸君。文化祭まであと三週間だ。本日、ステージ企画の具体的な衣装テーマとペア編成を確定させたい」


「会長、確定も何も、なつめの隣に立つのは公式の恋人である私よ」


 三郷が即座に挙手し、威風堂々と宣言する。

 だが、すかさず笹浪さんが待ったをかけた。


「公式って言っても、仮でしょ! それに週末、なつめくんは私に『すごく可愛い』って言ってくれたもん!」


「「「「っ……!?」」」」


 笹浪さんの爆弾発言に、部屋にいた全員の視線が一斉に僕へと突き刺さった。


「な、なつめくん……? 週末に、そんなこと言ったの……?」


 天音さんがショックを受けたように頬を染めて固まり、椎名さんの青い瞳にはメラメラと静かな炎が宿る。


「あ、いや! あれは服が似合ってるねっていう意味で――!」


「言い訳は無用よ、なつめ」


 三郷がソファーからゆっくりと立ち上がり、僕の目の前まで歩み寄ってきた。

 彼女は僕の胸元にそっと手を置くと、耳元へ顔を寄せ、周囲に聞こえるか聞こえないかというほどの甘く低い声で囁く。


「仮交際の期限を早めて、今すぐ本当の恋人になりたいなら、そう言いなさい? 私はいつでも構わないけれど」


「三郷さん、ずるい! 密着しないで!」


 笹浪さんが割り込もうとし、天音さんも「私も混ぜてよ!」と飛び込んでくる。

 椎名さんは僕の裾を掴んだまま離さず、浅利先輩は「伴侶は渡さない」と僕の背中に抱きついてきた。


「ひ、ひぃっ……! 助けて、会長、穂状さん……!」


「影久くん、素晴らしい人気ぶりだな! 我が校の青春の象徴だ!」


「感動してないで、止めてください、会長ぉぉぉっ!!」


 穂状さんの悲鳴と僕の絶叫が、生徒会室の天井に虚しく響き渡る。


 文化祭に向けた準備は、打ち合わせの段階から、すでに大荒れの様相を呈していた。

 逃げ場のない好意の旋風の中で、僕の平穏な学校生活は、ますます遠くへ去っていくのだった。



―――――――――――――――――――――――――――あとがき!!


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