第4話 勇者姫エルシアと聖女ミリィ
○夕暮れの王都。
薄暗い路地裏。
壁にもたれかかり、意識を失いかけている少女・エルシア。
王都へ辿り着いた少女は、何も持っていなかった。
○回想
幼い頃のエルシア。
村で大人へ必死に訴える。
幼いエルシア「そんなの間違ってる!」
しかし、大人たちは聞く耳を持たない。
子供の戯言だと、取り合わない
村人「子どもは黙ってなさい。」
悔しそうに拳を握る少女。
力がなければ、 正しいことも守れない。
木剣を振る幼いエルシア。
だから私は強くなると決めた。
村の自警団で剣を学ぶエルシア。
長老から読み書き計算を教わるエルシア。
森の老婆から魔法を学ぶエルシア。
汗だくになって鍛錬するエルシア。
毎日、ひたすら努力した。
全ては、正しい事を正しいと理解してもらうために。
○エルシア十歳。神殿で洗礼の儀。
洗礼の儀を受けた子どもたちが喜ぶ。
子供A「やったぁ剣士だぁ!」
子供B「私、魔法使い!」
子供C「父ちゃんと同じ鍛冶師だっ!」
エルシアだけ沈黙。
困惑する老司祭。
老司祭「……王都の神殿へ行きなさい。そこでならきっと…」
村人たちの陰口。
村人A「あの子だろ?何も授からなかった。」
村人B「神に見捨てられた子だな。とんだ役立たずだ。」
俯くエルシア。
そんなエルシアを母だけが優しく抱きしめる。
母「大丈夫。あなたにはきっと素晴らしい加護が眠っているわ」
○三年後。
母が小袋を差し出す。
母「王都へ行きなさい。」
咳き込む母。
涙をこらえて受け取るエルシア。
エルシア「うん、…王都ヘ…行く」
森へ向かうエルシア。
お母さんの気持ちはとてもありがたかった。
なみだが止まらない。
だけど、現実問題、これだけじゃ、隣町に行くのが精一杯だ。
だから、旅費を稼ぐために魔物を狩る。
隣町で素材を売れば、なんとかなるはず。
エルシア「お肉は母さんに食べさせてあげよう」
解体した獲物を持って帰るエルシア。
しかし、村に戻ったエルシアが目にしたのは…
○炎に包まれている村
村人たちが盗賊達から逃げ惑う。
村中で繰り広げられる、盗賊たちによる略奪と陵辱。
母の無事を祈って駆け出したエルシアは、母が盗賊に襲われている姿を見つける。
エルシア「お母さん!」
剣を抜く。
盗賊へ突撃。
激しい戦い。
剣と魔法で応戦。
※戦闘シーン
敵を次々倒していくエルシア。
周りの盗賊をすべて叩き伏せ母の元へ駆け寄る。
エルシア「お母さん!」
母は静かに横たわっている。
すでに息はなかった。
衣服は無残に引き裂かれ陵辱の跡が見える。
肩を震わせるエルシア。
怒りを胸に再び立ち上がる。
エルシア「赦さない!絶対!!」
村の中の盗賊との戦いが続く。
○戦いが終わった村の広場。
倒れた盗賊たち。
返り血で真っ赤に染まった、傷だらけのエルシア。
村人たちの表情は感謝ではなく……怯えと恐怖。
村人A「化け物だ……。」
村人B「なんて事してくれたんだ!絶対報復が来る!」
村人C「村から出ていけ!この役立たずの疫病神!」
エルシアの瞳から光が消える。
……もういいや…ここに私の居場所はない。
一人、村を去るエルシア。
森を彷徨い盗賊のアジトを見つける。
アジトに乗り込むエルシア。
一方的な惨殺。
血塗れの身体を泉で洗うエルシア。
水面に映る裸の自分を見つめる。
盗賊のアジトは潰した……
お母さんの復讐は果たした
……でも……心の穴は埋まらなかった……。
それから一年……。
○王都の城壁前。
疲れ切ったエルシア。
エルシア「ようやく王都に来た……けど……」
路地裏で倒れるエルシア。
エルシア「……お母さん……」
時間が流れる。
ゆっくり目を開けるエルシア。
腕を動かして驚く。
エルシア「……軽い?動く?」
肩の傷も治っている。
不思議そうに辺りを見る。
エルシア「誰か……助けてくれた?」
周囲には誰もいない。
エルシア「……気のせいかな。……なんでもいいか。」
立ち上がるエルシア。
ぐぅぅ……
お腹が鳴る。
エルシア「お腹……空いた。」
拳を握る。
エルシア「まずは、生きないと。」
○夕暮れの王都。その路地裏から大通りへ
ぼろぼろの服の少女が、夕日に向かって歩き出す。
遠くには「冒険者ギルド」の看板。
神殿へ向かう前に、生き延びるための一歩を踏み出すんだ。
冒険者ギルドで登録。そして依頼を受けよう。
○ 神殿前
首筋を掻くシスター・ミリィ
ミリィ「蚊ですか?珍しい………キュア」
手のひらから聖なる光が溢れ、蚊に刺された跡を癒やす。
ミリィ「でも、…懐かしいですわね」
○回想
吹き込む隙間風。壁板は割れ、天井からは雨漏りの跡。
粗末な孤児院の一室で、幼い子供たちが肩を寄せ合って眠っている。
……私には、家族なんていなかった。物心ついたときには、孤児院で育てられていた。
幼いミリィも、ぼろ布を被って子供たちと寄り添う。
……孤児院では、皆で支え合って生きてきた。
冬は寒く――
冬。白い息を吐きながら震える子供たち。窓の隙間から雪混じりの風が吹き込む。
……夏は虫との戦いだった。
夏。部屋には蚊が飛び回り、子供たちが体を掻いている。
幼い女の子が腕を掻きながら涙目。
女の子「うぅ……かゆいよぉ……」
幼いミリィが優しくしゃがみ込み、小さな手を重ねる。
ミリィ「じっとしててね。」
淡い光が傷口を包み、腫れがすっと引いていく。
ぽわぁ…
笑顔になる女の子。
女の子「なおった!かゆくない」
それを見て、嬉しそうに微笑む幼いミリィ。
……この時はまだ、自分の力が特別だなんて思ってもいなかった。
ただ、この力はみんなを笑顔にしてくれる。そのことが、ただただうれしくて誇らしかった。
神殿関係者が孤児院で治癒魔法を目にし、驚いた表情を浮かべる。
神殿関係者(心の声)(この年齢で……治癒魔法を?)
神殿へ向かう幼いミリィ。孤児院の子供たちが見送っている。
……私の才能は神殿に見出され――
修道服姿で祈りを捧げる少女時代のミリィ。
……私はシスターとして育てられることになった。
〇神殿前、現在のミリィ。
跡形もなくなった、蚊に刺された跡をぼーっと眺めていた
その後ろから穏やかな声。
司祭「ミリィ?」
振り返り、頭を下げるミリィ。
ミリィ「あ、司祭様。」
司祭「神託を受けたそうだな?」
ミリィ「はい。近いうちに新たな魔王が誕生する、と。」
ミリィ「勇者様の覚醒を助け、正しき世界へ導きなさい……そう告げられました。」
司祭「ふむ……。」
司祭「それは、ミリィに旅立てということかの。」
ミリィ「おそらくは。」
ミリィ「なので、いつでも出発できるよう、明日には町で旅支度を整えるつもりです。」
優しく頷く司祭。
司祭「そうか。」
司祭が祈りの印を結ぶ。
司祭「女神様のご加護が、そなたにあらんことを。」
神殿へ戻っていく司祭を見送るミリィ。
一人になったミリィ。青空を見上げる。
ミリィ(心の声)勇者様かぁ……。
頭の中の妄想。白馬に乗った爽やかな勇者がキラキラと登場。
ミリィ(心の声)イケメンで、優しい人だといいなぁ。
さらに妄想。
花畑で勇者から指輪を差し出され、純白のウェディングドレス姿の自分。
勇者(妄想)「僕のミリィ、もう我慢できないよ、僕と結婚してください。」
顔を真っ赤にして両手で頬を押さえるミリィ。
ミリィ(心の声)きゃぁぁ、私が勇者様のお嫁さん……。
〇神殿遠景
神殿の丘に立ち、遠くを見つめるミリィ。風に修道服が揺れる。
……古くから、勇者と結ばれた聖女の物語は数多く残されている。
だからきっと――私にも、そんな未来が待っている。
まだ見ぬ勇者との出会いを夢見て、シスター・ミリィは旅立ちの日を迎えようとしていた。
〇 王都の路地裏
イチロー「はぁ……蚊の寿命って短いんだなぁ」
ステータス画面の端
寿命:あと5日
イチロー「女神様に会えれば何とかなると思ったんだけどなぁ」
……神殿には近づけない。
シスターの血を吸って得たスキル「聖鎧纏」(聖なるマナで鎧を作り上げ身に纏うというもの。魔法抵抗力が上がり、邪をはじく)を使えばごまかせるかと思ったけど、あのシスターさんに見つかればアウトだった。
道行く人々から手あたり次第血を吸って様々なスキルを得たが……まったく無駄だった。
イチロー「あのシスター絶対バグってやがる!」
突然周りが光に包まれる
〇 何もない空間
???「イチローさん、聞える?」
イチロー「だれだ?その声の感じからして美少女に違いない。血を吸わせろぉ!」
???「あらあら?心まで蚊になったのかしら?」
イチロー「そんなことは……ない……ぞ?」
???「まぁいいわ。イチローさん、美少女はお好き?」
イチロー「当たり前だ」
???「寿命伸ばしたい?」
イチロー「当たり前だ」
???「美少女の使い魔になれば寿命の問題はなくなるわよ?」
イチロー「なる!使い魔でも奴隷でもなんでもなってやる。ご主人様が美少女だなんて、ご褒美以外の何物でも……」
突然空間が崩れる
???「あら?これは想定外……。これもイチローさんの宿命力?」
謎の声が小さくなる
〇 場所不明 騒がしい
……なんだ?何がどうなってやがる?
周りを見回す。
人が多い。
そして目の前には少女が。
ステータスウィンドウにアラート
『受け入れますか? Yes/No』
……よくわからんが、Yes
身体が光に包まれる。
光が消えると喧騒が戻ってくる
少女「なんでぇ!なんでなのよぉっ!」
泣き崩れる少女。
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