第15話 本体

「このままじゃ、らちがあかねぇ!」


 天野は仮面の群れと距離をとり、剣を地面に突き刺す。そして、そのまま剣を蹴り上げた。

 弾かれた砂利が散弾銃のように仮面の群れに突き刺さる。

 しかし、軽い。

 手前にいた数枚の仮面は割れたが、勢いを止めることなく天野へと襲い掛かる。

 天野は跳ね上がった剣を掴むと、その勢いで仮面の群れの横腹を斬り進む。

 斬られた仮面は地面に落ちて割れる。

 割れた端から、仮面の裏から新しい仮面が生まれ、増え続けていく。


「裏側からなら、どうだ!」


 天野は再び剣を地面に突き刺し、石つぶてを飛ばした。仮面の群れは散開し、つぶてを避ける。つぶてが社にあたり、屋根瓦を砕く。


『天野くん、社を傷つけるなんて!』


「ここは結界で作られた疑似空間だ。現実世界に影響はねぇ」


 こっくりさんが叫ぶ声に、天野は毒づく。


『そういう問題じゃないでしょ。ほんとに罰当たりなんだから!

 カミドメ錠の飲みすぎで敬う心を無くしてるんじゃない?』 


「今はそんなこと言ってる場合かっ!」


 天野は叫びつつ、襲ってくる仮面の群れを避けた。

 一枚一枚は軽そうだが、集まった重量はけた違いだ。

 仮面を避けるたび地面に穴があき、はじけた砂利が天野の身体を傷つける。

 天野は三度、地面に剣を突き刺した。

 神力を込めた剣が白く光る。天野が剣を振るうと跳ね上がった石つぶてが空中で一度止まり、そのまま矢のように仮面へと飛んでいく。

 複数の仮面が折り重なり、盾のような姿になる。


「まずい、玄武!」


 ナナシはポケットから亀の形をした折り紙を取り出すと、目の前に投げた。

 仮面でできた盾は、石つぶての矢を防ぐのではなく、滑らせた。逸れた矢がさくらとナナシを襲う。

 折り紙の亀が巨大な盾となり、矢を防ぎ、消える。ぼろぼろになった折り紙が地面へと落ちた。


『天野くん、方向に気をつけて! あやうく、さくらちゃんを殺すところだったわよ』


 こっくりさんの言葉に、天野は何も答えず剣を構えて仮面の群れから距離を取る。

 視線の先には唖然とした表情で天野を見つめるさくらの姿があった。




「さくら君、呆けている場合じゃない。本体の見分け、ついたかい?」


 ナナシの言葉に、さくらはハッと表情を引き締める。天野と仮面の攻防を観察していたが、本体と思われる仮面は見つからなかった。


「……本体は、仮面の動きを統率しているはずですよね」


「たぶんね。自動で動かしてる可能性もあったけど、さっきの盾みたいな工夫は自動じゃできないと思うよ」


 さくらの疑問に、ナナシはすぐに答えた。ナナシも本体がどこにいるのか、観察しているのだ。


(違和感は、ある)


 一度目の石つぶて、仮面は受け止めた。

 二度目の石つぶて、仮面はよけた。

 三度目の石つぶて、仮面は防いだ。


 三度目は分かる。明らかに威力が違うのが伝わってきた。

 けれど、一度目と二度目の威力は同じだったはずだ。

 まさか裏面が弱点だとでもいうつもりだろうか。

 さくらは地面に落ちた翁の面を見る。

 二度目の石つぶてが当たり、翁の面が割れるのを、さくらは見ていた。

 正面だろうが、裏側だろうが、直撃を受ければ割れることに変わりはない。


「コン、あなたはどう? どこかに違和感はあった?」


『……神力の流れを見てた。けど、あいつらの流れに違和感がない。

 指令を出している奴なんか本当にいるのかよ?』


 こっくりさんの目でも、本体とそれ以外で違和感を覚えていない。


「ナナシさん、戦えるんですね」


「階段を上りながら言っただろ? 僕に戦闘能力はない。

 簡易の式神を持ってきてるから、数回程度はしのげるけど、あれだけの仮面を相手にはできないよ」


 ナナシはそう言って、ポケットから数枚の折り紙を取り出した。先ほどの亀以外に鶴と虎の折り紙がある。


「やっこさんは天野くんに使っちゃったし、玄武は残り一枚。朱雀と白虎が二枚ずつだね」


「……攻撃用の折り紙ってあります?」


 さくらの質問にナナシは頷き、鶴と虎の折り紙を指さした。


「コン、天野先輩のこっくりさんと連絡がつけられる?」


『通信はできると思うけど、本体が分かったのか?』


 コンの言葉に、さくらは首を振る。


「まだ分からない。でも、分かるかもしれない」


 コンはさくらの言う通りに、天野のこっくりさんにチャットを送った。




『天野くん、さくらちゃんから伝言が来たわ!』


 こっくりさんの声に、天野は剣を振りながらスマホに視線を向ける。


「新人が、なんだって?」


『もう一度、石つぶてを当てて欲しいって。一回目の位置と方向でお願いしますだって』


 こっくりさんから伝えられた言葉に、天野は頷く。

 そして、仮面の群れと地面に空いた穴をよけながら最初につぶてを放った位置へと移動していく。


「ここだな。行くぜ!」


 天野は地面に剣を突き刺した。


「ナナシさん!」


 さくらの声が響き、痩せぎすの男が折り紙の鶴を投げる。


「このタイミングだなっ!」

「行け、朱雀!」


 空中に浮かんだ鶴が炎をまとい、仮面の裏側へと飛んでいく。

 天野が放った石つぶては仮面の正面にあたり防がれた。

 炎の鶴が当たった仮面が燃え上がり、数枚の仮面を巻き込んで落ちていく。


「……俺の石つぶてだけ、防いだ?」


 天野は眉をひそめながら、炎に焼かれながら向かってくる仮面の群れを、跳んで避ける。

 炎をまとった仮面は地面を削るように飛び回り、自分についた火を消しながら天野を追いかける。

 天野の視界の端に、走り出す新人と彼女に並走する白い虎の姿が見えた。


(今ので本体を見つけたか?)


 天野は剣を構え、仮面の群れと向かい合う。じりじりと後ろに後ずさり、苦戦を演出する。

 天野が下がった分だけ、仮面の群れは距離を詰めてきた。

 天野は仮面の群れをけん制するように剣を振る。仮面の群れは天野を襲うため、一斉に空へと舞い上がった。




 ――天野の四度目の石つぶて。

 さくらは石つぶてが放たれるタイミングでナナシに合図を出した。

 ナナシは作戦通りに鶴の折り紙を使ってくれた。


「天野先輩のつぶては防いだのに、ナナシさんの折り紙は防がなかった」


 仮面はいつも同じ方向の攻撃だけを防いでいる。二度目を避けたのは、流れ弾が飛んでくるのを恐れたからだ。

 地面に落ちた仮面を見る。

 天野が斬り捨てたもの。

 石つぶてを受けて砕けたもの。

 ナナシが砕いたもの。

 ナナシが投げて地面に刺さったもの。

 傷つき、割れて、砕けて、使い物にならなくなった仮面だけが、地面に落ちているはずだ。

 地面に落ちた仮面を見ていると、見覚えのない仮面があることに気づく。

 明らかに異質な仮面なのに、それが飛んでいるところを一度も見ていない。


「……見つけた」


 さくらは、地面に転がる仮面の一枚へと走り出した。


「白虎、彼女を守ってやれ」


 ナナシが折り紙の虎を放り投げる。走り出したさくらと並走するように、白い虎が現れた。

 天野を狙っていた仮面の数枚が、さくらに気づき襲い掛かる。

 並走する白い虎が、襲い掛かる仮面を爪で引き裂いた。

 さくらは、きれいなまま地面に落ちている仮面を拾い上げた。


「あなたが、面食いの本体ね?」


 それは縁日で売っているような子供向けのヒーローのお面だ。

 お面を拾い上げた瞬間、さくらは面食いがなぜ人の顔を奪うのか、すこしだけ分かった気がした。

 プラスチックでできた面を、さくらは掴み、折り曲げていく。


「あなたにも色々と事情はあるのかもしれない。けど、私たちは神格鑑定局の職員。

 人に仇をなす邪神を許すわけにはいかないの」


 さくらはそう言って、お面を割った。

 天野に襲い掛かろうと空に舞い上がった仮面が、力を失い落ちてくる。

 黒い煙を上げながら、一枚、また一枚と闇に溶けるように消えていった。


「……討伐、完了」


 さくらはそう言って、ナナシと天野へと振り返った。

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