第12話 神社

 天野は車をT神社近くの有料駐車場に止めた。さくらは車を降り、空を見上げる。日は沈み、月が昇ろうとしていた。


「俺のギターケースを下ろしてくれ」


さくらは言われるままに後部座席のギターケースを引きずり出して渡す。天野はギターケースを背負い、歩き出した。

 さくらは慌てて天野の後を追う。ナナシはゆっくりと二人の後ろからついていく。


「本当にこの神社でいいのか?」


「ああ、そうだよ。カナエカナタを呼び出すには、十分な場所さ」


 ナナシは天野にほほ笑む。天野は眉をひそめながら、長く続く階段を見上げた。


「新人、先に行ってていいぞ。これを背負ったままじゃ、遅くなりそうだからな」


 ギターケースを軽く上げる。さくらは戸惑ったような顔をしたが、天野のスマホが震える。


『天野くん、新人ちゃんに格好悪いところを見せたくないのよ。先に行ってあげて』


「……うるせぇよ」


 こっくりさんのフォローに、天野は恥ずかしそうに視線を背ける。ナナシがさくらの肩を叩いた。さくらも頷くと、階段を上り始める。

 階段には街灯もない。さくらは月明かりだけを頼りに階段を上っていく。さくらが振り返ると、天野がゆっくりと階段を上ってくるのが見える。


「天野くんなら大丈夫さ。後ろばかり気にしてると転ぶよ」


 ナナシはそう言って笑う。


『あの重そうなギターケース、何に使うんだろうな?』


 コンがさくらのスマホから問いかける。さくらも分からないので首を振った。天野は神格事件に必要になると言っていた。


「あれは天野くんの武器さ」


 ナナシが二人の疑問に答える。


「天野くんは対カミサマ要員として調査課にいる。開発局がこういう道具を持ってくるのもそれが理由さ」


 ナナシはポケットから小さなボールを取り出す。さくらは「あっ」と声を上げた。さくらの声に、天野が顔を上げて二人を見る。ナナシは「なんでもないよ」と天野に答えた。


「それ、天野先輩が持ってたものですよね。どうしてナナシさんが持ってるんですか?」


「僕には戦闘能力がないからね。護身用に持ってきたのさ」


 そう言って、ボールをポケットにしまいなおす。そして、再び会談を上り始めた。

 階段の中腹に社を見つけ、さくらは視線を向ける。社に向かおうとするさくらを、ナナシが止めた。


「そっちじゃない。上だよ」


 階段はさらに先へと続いている。ナナシはさくらの手を取り、歩き続ける。しばらく歩いていると、別の社が見えてきた。


「着いたよ、ここだ」


 さくらと二人で境内に降り立った。静謐な空気が境内に満ちている。


「天野くんが来るまで、もう少し時間がかかるだろう。先にカナエカナタを呼び出してしまおうか」


 ナナシはそう言って鈴を鳴らし、二礼二拍手をした。どこからかクスクスと笑い声が聞こえてくる。さくらはカバンのスタンガンに手をかけ、周囲を警戒する。


「「そんなに怯えなくて大丈夫だよ」」


 暗闇から着物を着た二人の子供が現れた。まったく同じ姿をした子供だ。


「誰? こんな時間に何してるの」


 さくらの言葉に、子どもたちは呆れたような表情でナナシを見る。


「ごめんね、うちの新人ちゃん。まだ慣れてないんだよ」


 ナナシは笑いながら子供たち二人を見る。


「久しぶりだね、カナエ、カナタ」


 さくらは驚いた顔で子供たちを見た。カミサマというものは、もう少し荘厳な雰囲気を想像していた。


「「この子、大丈夫?」」


 カナエとカナタ、一人は不安そうな顔で、もう一人は楽しそうな顔でナナシを見る。どちらがどちらなのか、さくらには分からない。

 ナナシは不安そうな顔をしている方へ歩いていく。


「カナエ、彼女の頼みを聞いてもらえるかな?」


「ナナシは面白くないね。一発でどっちがどっちか見抜いちゃう」


 カナエと呼ばれた子供は悔しそうに顔を歪めた。もう一人は驚いたような顔でナナシを見る。さくらは二人の態度の違いに戸惑う。


「……まあ、いいよ。でも見極めはさせてもらうよ」




 天野は階段を上る二人の背中を追いかける。中腹にある社で、二人の背中は止まった。そして、社の方へ歩いていく。

 天野も中腹にある社へと向かった。


「……駐車場、あるじゃねぇか!」


 ナナシの背中に叫ぶ。社の前に小さな駐車場がある。最初からここに車を止めれば、長い階段を上る必要なんてなかった。

 ナナシは振り返ることもなく、姿がかすんでいく。嫌な気配を感じ、天野はナナシの肩を掴んだ。天野の手が空を切る。

 ポトリ、と折り紙で作られた人形が落ちる。


「……おい、どういうことだ」


『天野くん、二人の気配が消えたわ。どこにもいない。……結界の気配がする』


 こっくりさんの言葉に、天野は奥歯を噛みしめた。


「結界だと? ……俺らを領域に引き込まれるほどのカミサマか」


『違うわ、さくらちゃんだけ飲み込まれたみたい。私たちは強すぎて弾かれた』


 スマホの画面に映るキツネが焦りの表情を浮かべる。


「……結界を上手く使いやがった。あの男、何者だ」


 天野はさくらの隣にいた男の顔を思い出そうとして、思い出せない自分に気づく。なぜ自分は名前も名乗らない人間を信用したか分からない。


「こっくりさん、結界のほころびを探してくれ。無理矢理、中に入るぞ」


 天野はギターケースを開いた。

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