17. 値踏み

 裏が取れたと再びマルコが宿に来たのはその十日後で、二度目の対面では、ヴォルクの前にも杯が置かれた。

 前回と変わらず、レオーネの傍に立っていたダリオが口を開いた。


「グリシャの片腕をやっていたのは確かみたいだねぇ。雪の国は情勢不安で揺れているけど、商会は生き残ってるよ。さすが商人、逞しい」

「そうか」


 楽しげに話すダリオに短くヴォルクが返すと、レオーネは頷いた。


「ヴォルクと言ったか。この街では教会が一番の客だ。聖遺物、祭具、聖像画。教会向けの仕入れは半分がうちを通る。表では調達係が市場で買ったことになっているが、実態は違う。持ちつ持たれつでやってきた。だが最近、聖遺物の贋作が出回って向こうが苛立っている」


 ヴォルクは黙って聞いていた。雪の国の商会と構造は似ている。権力の源が貴族か教会かの違いだけだ。


「この家の調達係で、教会向けの仕入れを任せる。仕入れ先との揉め事もお前が片をつけろ。通行証は出す」

「二枚要る」


 レオーネの目が留まった。


「連れがいる」

「どういう連れだ」

「鑑定士だ。素材の真贋を見分ける。雪の国では貴族相手の鑑定で商会の信用を作った」


 レオーネの手が杯の縁で止まった。ダリオに目配せをすると頷いた。商会の鑑定士の情報も掴んでいたということだろう。

 窓の外の港へ目をやり、レオーネは引き出しから封蝋つきの紙を二枚取り出し、ヴォルクの方へ滑らせた。


「鑑定士の腕は俺が直接確かめる」

「構わない」

「マルコ、案内してやれ。住む場所も手配しろ」

「了解です、ボス」


 扉の前で立っていたマルコはレオーネの指示に頷いた。


---


 翌朝、ヴォルクはリコリスを連れて城門へ向かった。

 通行証を二枚見せて城門を通り石畳の通りに出ると、リコリスがフードの中から街を見回している。


「壁の中のほうが涼しいね」

「建物の影が多い」


 すれ違った男がリコリスの方を振り返った。布の隙間から零れる銀色の髪を見ている。ヴォルクはリコリスの薄い肩を押し、人目から隠すように歩いた。リコリスは大人しく着いてきている。

 マルコに誘導され、昨日と同じく館の二階に上がった。


「鑑定士を連れてきた」

「入れ」


 マルコが扉を開け、レオーネとダリオが出迎えた。ヴォルクに続いてリコリスが部屋に入り、フードを下ろした。銀色の髪が肩まで落ちる。


 マルコは突然降臨したかのようなその美貌に動きを止めた後、取り繕うように手持ちの鞄を持ち直していた。ダリオは口笛を吹いている。

 レオーネの表情は読めない。単純に鑑定士としての能力を値踏みする眼のように見えた。


「リコリスと申します。鑑定士としてはリリスと名乗っています」


 レオーネはリコリスを一瞥し、引き出しから革袋と、金色の装飾が施された小さな胸像を出した。

 革袋の中身を卓に転がすと石が二つ並ぶ。


「石と金の真贋を見ろ」


 リコリスは一つ目の石を窓の光に翳してから卓へ戻した。


「偽物です。硝子に色をつけたもので、重さが足りません」


 二つ目を爪の先で弾いてから光に透かす。


「本物の柘榴石です。内包物の散り方が天然のものと一致しています」


 レオーネは黙って鑑定の手際を見ている。

 リコリスは最後に胸像を持ち上げた。


「金に見える部分は、色がくすんでいますし、微かに割れがありますね。金ではありません。合金を鍍金したものです」


 レオーネが顎を引いた。


「全部当たりだ」

「すごーい。目がいいんだぁ」


 ダリオが賞賛の声をあげ、レオーネが初めてリコリスの顔を正面から見た。


「教会の仕入れで贋作が問題になっている。お前の目利きを教会の調達係に繋ぐ」

「聖遺物の鑑定は経験がありませんが……素材の真贋であればお役に立てると思います」

「マルコ、調達係に話を通しておけ」


 レオーネとダリオ、そしてマルコに見送られて部屋を出ると、廊下にいた使用人らしき女とかち合う。「すみません」と言いつつ、リコリスの姿を見て、顔を赤くして下を向いていた。

 リコリスの顔に関する周囲の反応は慣れているので、今更苛立つようなことでもないが、単純に前途多難ではあると思った。

 城壁の外なら巡礼者に紛れていたが、ここは人目が多すぎる。

 リコリスがフードを被り直しながら言った。


「ヴォル、教会の仕事はどう思う?」

「能力は使える場所で使えばいい」


 リコリスが布越しに笑った気配がした。


「相変わらずだね」


 教会と繋がれば、リコリスが人前に出る場面は増える。だが、鑑定で組織に利益を出せるなら、レオーネは手放さない。壁の中に居場所を作れるなら悪い話ではないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る