第14話 「テレビを見よう」

 夕方。


 おれは、何気なくテレビをつけた。


「…『魔の秘境を行く!』…? 明らかに怪しい…」


「にゃ!? 秘境!? 秘境にゃ!?」


りっつはテレビ画面にぺったり貼りつき、

 短い尻尾をふんふん振った。


「あるじー、これ、異世界への扉にゃ!?

 これ、入れるにゃ!? 入るにゃ!!」


 りっつがテレビに肉球をぺポペポと押し付けまくっている。


「いや、扉じゃないから。テレビだって」


「テレビってにゃんにゃ!? 夢かにゃ!? 美味いのかにゃ」


「夢じゃないよ」


ノンリニアたんが静かに言った。


「映像です」


「映像ってにゃに!? やっぱり夢にゃ!?」


「映像とはこの場合、

光の屈折や反射、または電気信号の変換によって映し出された像のことです」


「なら、入れるにゃ!!」


「なんで!?」


 そのとき、ノンリニアたんの目が青く光った。


「……映像空間の座標を解析します。

 解析完了。侵入可能です」


「え? 侵入可能なの!? どゆこと?」


「行くにゃーーー!!」


テレビ画面がぐにゃりと歪んだ。




 テレビ画面が、ゆらり、と揺れた。

 色がにじみ、輪郭がほどけ、水面のようになった。

 まるで向こう側がこちらを吸い込もうとしているみたいだった。


「にゃーーー!! 秘境にゃ!!」


 りっつが先頭で飛び込んだ。

 最後にりっつの短い尻尾が画面に吸い込まれ、テレビの中へ消えた。


「は! ちょ、ちょっと待て。心の準備が…!」


 おれが落ち着く間もなく、ノンリニアたんが静かに言った。


「侵入を確認しました。……では、行きます」


「行くの!? ほんとに?」


 ノンリニアたんは、画面に手を触れた。

 指先が映像に沈み、

 そのまま身体が吸い込まれていく。


「あるじも早く来るにゃ!!」


「いや、行かないよ!!」


「行きます」


「え? 行くの?!」


 すでに、画面の引力は強かった。

 おれの足元がふわりと浮き、

 視界がぐにゃりと歪み──


 次の瞬間、

 湿った空気が肌にまとわりついた。




「……ジャングル…か?」


 おれは、呆然とした。

 周囲は巨大な木々、絡みつく蔦、

 そして、どこかで奇妙な鳴き声が響いている。


「にゃーーー!! 本当に秘境にゃ!! ぼくの消滅の危機はなさそうにゃ」


 りっつは大興奮で走り回っていた。

 葉っぱを叩き、木に登り、

 地面の虫に話しかけている。


「湿度が高いです。

 空気成分に異常はありません」


 ノンリニアたんは淡々と解析していた。


「いや、普通に解析…? なぜテレビに、入れたんだよ……」


「映像空間の座標が安定していました。

 侵入可能でした」


「うん、なるほど。(久しぶりのやみつき感だ)」




 そのとき──


「お、おい! なんだ君たち!!」


 探検隊らしき人々が現れた。

 ヘルメット、カメラ、マイク、

 そして驚愕の表情。


「猫!? 青い目のメイドさん!? 緑ジャージの人!?」


「ジャージの人って言うな!」


「撮影中だぞ!? なんでここに!?」




 おれたちは、撮影隊を何とかごまかして秘境を進む。


「にゃ! では、ここからは、わしが、この秘境を案内するにゃ!」


「なぜ? どうして? 案内できると?」


 ノンリニアたんが静かに言った。


「この番組は台本があります」




 ジャングルを進むと、

 木が逆さに生えている場所に出た。


「にゃ!? 木が逆にゃ!!」


「重力方向が局所的に反転しています。量子場に触れた影響が局所的にでています」


 空には魚が泳いでいた。


「にゃ!? 空に魚!!」


「水分子の凝集が空中で起きています」


 地面が透明になり、

 下に別のジャングルが見えた。


「にゃ!? 地面が透けてる!!」


「二層構造です」




「なんなんだよここ! テレビってこんな世界なのかよ!!」


「映像空間の演出です」


「いや、おれたちのせいでしょ…」




 番組のクライマックスらしき遺跡に到着した。

 中央には、怪しく光る宝物が置かれている。

 そう、いわゆる「やらせ」だ。


「にゃ! 宝物にゃ!!」


「わたくしたちが触ると番組が終了します」


「終了って何!? どういう意味!?」


「番組の進行が停止し、空間が閉じます」


「それ、番組だけで済むの? 世界は閉じないよね?」



「宝箱ーーにゃ!」


「だめだ、それに触るな!」


 しかし──

 りっつは迷いなく宝物に飛びついた。


「りっつー!!」


 宝物に触れた瞬間、

 世界が真っ白になった。




 (プチン)


 テレビの映像は静かに消えた。


 おれと、りっつ、ノンリニアたんは、

 元の部屋に戻っていた。


「番組は終了しました。つまり、存在しません」


「秘境楽しかったにゃ! 外に出ても平気だったのにゃ」


 りっつはおれの頭の上で、

 短い尻尾をふんふん振って踊っている。


 ノンリニアたんの青い目が、ふっと優しく光った。




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