第5話 矛盾
あの保安官を見ていると、昔のことを思い出してしまう。もう思い出したくないから、記憶の奥底に沈めていたのに。
でも、そろそろ向き合わないといけない。
私が幼い頃は、まだ愛想も良くて、人付き合いも上手い方だった。
小学校では友達と喋り合うのが好きだった。友達が側に居れば、なんでもできる気がした。
でも、私の親は友達とは違って、酷いものだった。
自分で言うのもなんだけど、私は容姿が良かった。親はそこに目をつけた。
キラキラとした可愛げのある服を着せる。何か物申そうとすれば怒鳴られる。私は従うしかなかった。
飲み屋で、母親友達同士が集まる会。ママ友会とでも呼ぼうか。
話題が『お互いの子を見せ合う』だった。他の子供に負けないように、母は私を着せ替え人形のように、従順なロボットのように扱った。
当然、他の母親は我が子より優秀だと妬む。妬みを含んだ視線、好意を持つ視線、悪意を孕んだ視線、色んな視線に晒された。
他の母親や、私の母が、私のことを周りにも広め始めた。挙句の果てにはお披露目会のように私を視線の中心に立たせた。沢山の視線が痛かった。でも、そこで感情を顕にすると後で怒鳴られたり、殴られたりする。だから私は感情を殺した。
私が愛想悪いのはそのせいだと思う。
お披露目会は私の友達にも知られ、距離を置かれるようになった。
ある日、友達に話しかけようとすると、こう言われた。
友達「もう関わらないで。澪といると周りからよく分からない扱いを受けるから。」
私はすごくショックだった。友達といればなんでもできる、信じていた。面と向かって言われたから、もう立ち直れなかった。心に深い深い傷を負った。
私が人を信じれなくなったのもそのせいだと思う。
だから私は、自分が傷つく前に人との関わりを深く持ちたくなかった。できるなら仲良くないうちに距離を置いておきたかった。
そのまま幼少期は長い間、独りで過ごすことが多くなった。
冷えた夜。周りから酷い扱いを受け続け、人との関わりを断たざるを得なかった。私は昔みたいに、友達に話しかけられたかった。必要とされたかった。
今もそう。昔みたいに、輝かしい生活がもう一度送りたい。誰かに必要とされたい。
必要とされたいなら、私から話しかければいいものだ。
でも、また裏切られる。また失ってしまう。
私はこの二つが凄く怖かった。もう同じ出来事を繰り返したくない。
私は昔から、今まで。これからもこの矛盾を抱えて生きることになる。完全に諦めたわけじゃない。でも、その一歩が怖い。
いつかまた、誰かに笑いかけられたい。
いつかまた、誰かに必要とされたい。
私はあの保安官のことを想うようになった。あと人なら私の閉ざされた心を開けてくれるんじゃないか、って。根拠はないけど、あの保安官ならやってのける。そう信じたい。
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