この世界の子どもたちには性別がなく、中には魔法の力を持つ子もいます。子どもたちは魔法の力を失う条件である「大人になる」までのあいだ、優しい繭の中で眠っている――そんな独特の世界観からこの物語は始まります。
まず名前の美しさに引き込まれます。深緋(こきあ)、月草(つきくさ)、鶸(ひわ)、桔梗(ききょう)。日本の伝統色や自然物から取られた名前一つひとつが、すでに物語の一部になっています。
描写は徹底して平易で、子どもの目線そのものです。「ぬるい水」「フワッフワのパン」――そうした無垢な言葉づかいだからこそ、その隙間からふと顔を出す世界の不穏さが、静かに、けれど確実に効いてきます。何気ない日常の中に、説明されないまま置かれた違和感の種が、少しずつ芽吹いていく過程は、ぜひ実際に読んで体験してほしいところです。
何より心を動かされるのは、南一班の三人――月草、鶸、そして深緋の関係性です。深緋が見せる面倒見の良さは、ただの「良い子」のそれではありません。その裏にある重さも、この物語はきちんと見つめています。健気さを都合よく美化しない、誠実な眼差しが、全編を貫いています。
毎話欠かさず振られる名前のルビ一つとっても、読者への配慮が行き届いた作品です。二章まで読み進めた今、この先の展開が本当に楽しみです。
良質な童話のような、不穏なサスペンスでもあるような。けれど、どこまでも優しく子どもたちを見守るまなざしで描かれる、本当に素敵な物語です。ぜひ一読を。