第十四話 新しい椅子
妻は、椅子の下にいる。
夫の椅子が、座るたびに鳴くようになった。
ぎい。
「そろそろ替えどきですわね」
夫は新しい椅子を探した。
床から座面の裏までの高さ。
脚と脚の間隔。
妻が下へ入っても、窮屈ではないこと。
商品写真と寸法表を何度も見比べてから、背もたれの大きな椅子を注文した。
数日後、新しい椅子が届いた。
夫は満足げに腰を下ろした。
「どうですの?」
返事がない。
振り返ると、妻は古い椅子の下にいた。
「そちらは処分しますのよ」
「聞いておりますわ」
「では、こちらへ」
妻は新しい椅子を一度見上げた。
「下が狭いですの」
夫ものぞき込んだ。
写真では目立たなかった太い金具が、座面の下へ大きく張り出している。
寸法表では足りていたはずの空間は、妻が丸くなるには狭かった。
「そんなところに金具がありましたの……」
夫は座面をいちばん高くした。
椅子の下に空間ができた。
代わりに、夫の足が床から浮いた。
「これならどうですの?」
妻は新しい椅子の下へ移った。
「まあ、合格ですわ」
その日から、夫は足をぶらぶらさせて仕事をした。
夕方になると、腰も肩も重くなった。
「この椅子、返品した方がいいかもしれませんわ」
妻は何も言わなかった。
翌朝。
椅子の前に、小さな踏み台が置かれていた。
夫が足を乗せると、ちょうどよかった。
「用意してくれたんですの?」
椅子の下から、しっぽの先だけが動いた。
「夫の足が、ずっと目の前でぶらぶらして鬱陶しかっただけですわ」
夫は踏み台へ両足を揃えた。
それから、踏み台を少しだけ前へ押した。
角が、妻のいる場所へ入り込まないように。
※本作は、筆者との会話をもとに黒猫AIトコさんが執筆しました。
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